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 昭和42年版 犯罪白書 第二編/第一章/一/1 

1 被疑事件の受理

(一) 概況

 検察庁で取り扱う事件のうち,最も多いのは,司法警察職員から送致(付)を受けたものであるが,そのほかに,検察官が自ら犯罪を認知して捜査する事件や,検察官に対して,直接,告訴・告発等がなされた事件があり,また,家庭裁判所から,刑事処分が相当であるとして,あるいは,年令超過のために送致(いわゆる逆送)された事件,被疑者や重要関係者が所在不明であることなどの理由により中止されていた事件を再起したものおよび他の検察庁から移送を受けた事件も,検察庁における受理事件の中に含まれる。しかし,家裁からの送致事件,再起事件および検察庁間の移送事件は,すでに一度,検察庁の受理事件として扱われたものであるので,犯罪の動向をみるためには,これらを除外して,新規に検察庁で受理した司法警察職員からの送致(付)事件および検察官の認知・直受事件(以下,その被疑者数を新規受理人員という。)のみについてみることが必要である。
 昭和四一年中の全国の検察庁における新規受理人員数は,五,五〇一,四八四人である。これを刑法犯(準刑法犯を含む。以下,本章において同じ。),道路交通法違反(以下,本章において,道交違反という。)および道交違反以外の特別法犯(以下,本章において,特別法犯という。)の別に,昭和四〇年の数とともに示すと,II-1表のとおりとなる。総数のうち,刑法犯は一五・三%,特別法犯は三・三%にすぎず,道交違反が八一・四%を占めている。これを前年度と比較すると,総数において,七・一%減少しており,その内容は,刑法犯が七・七%増加しているのに対し,特別法犯が六・七%,道交違反は九・五%の各減少となっている。道交違反は,逐年大幅な増加を示してきたのに,昭和四一年は減少しているのが目につくが,なお今後の動きをみる必要があろう。

II-1表 検察庁新規受理人員の内訳(昭和40,41年)

 つぎに,昭和四一年中における刑法犯の新規受理人員数を,主要罪名別に分けて円グラフにしたのが,II-1図で,これを前年と対比してみると,II-2表のとおりとなる。これによると,業務上過失致死傷が最も多く,刑法犯受理総数の四一・六%を占め,窃盗(二三・五%),傷害(一四・〇%),詐欺(三・七%),恐かつ(二・六%),暴力行為等処罰に関する法律違反(二・〇%)がこれに次いでいる。業務上過失致死傷は,その大部分が自動車によるものであり,毎年増加の一途をたどっている。つぎに,前年と比べて増加しているものでは,業務上過失致死傷の増加率二一・二%が最高で,ついで,公務執行妨害七・七%,暴力行為等処罰に関する法律違反七・五%,横領四・四%,詐欺二・五%の増加率となっている。他方,前年に比べ,減少しているものでは,失火一四・一%,恐かつ一三・三%,傷害致死一一・一%,強盗六・一%,とばく・富くじ五・五%の減少率となっている。

II-1図 刑法犯主要罪名別検察庁新規受理人員(昭和41年)

II-2表 刑法犯主要罪名別検察庁新規受理人員(昭和40,41年)

(二) 被疑者の逮捕と勾留

 捜査は,任意捜査を原則とし,強制捜査は,法律の定める条件の存する場合に限って行なうことができる。強制捜査には,捜索・差押・検証等もあるが,重要なものは,被疑者の身体を拘束する逮捕と勾留である。
 まず,最近五年間における刑法犯と特別法犯との検察庁の既済人員について,逮捕された者および勾留された者の各人員数と既済人員のうちに占める割合をみると,II-3表のとおりである。これによると,逮捕された者および勾留された者の割合は,逐年減少の傾向にあることがわかる。昭和四〇年についてみると,既済総人員九九五,九三〇人のうち,逮捕された者は,その二〇・〇%にあたる一九九,〇五三人である。すなわち,八割の者が逮捕されず,いわゆる在宅事件として処理されているのである。この逮捕された者のうち,逮捕後,警察で釈放された者は,二二,九一九人で,警察における逮捕者総数の一一・六%にあたり,残る八八・四%は,逮捕のまま,検察庁に送致されている。なお,検察庁ではじめて逮捕された者もあるが,その数は少なく,一,二八一人である。

II-3表 刑法犯・特別法犯の逮捕,勾留別人員(昭和36〜40年)

 検察官が身柄を拘束された被疑者を受理したのちの身柄の取扱い方法は,勾留請求,逮捕中公判請求,家庭裁判所に送致,釈放などがある。昭和四〇年中に,検察官が勾留請求をした者の数は,一二〇,五九二人で,その結果,勾留された者の数は,一一八,六八二人である。勾留請求が却下された者は,一,九一〇人で,却下率は,請求総数の一・六%にあたる。なあ,検察官が釈放した人員数は,三五,九二六人で,検察官が身柄事件として受理した事件のうちの二〇・四%にあたる。
 勾留された者が,その後どのような処分を受けたかを,昭和四〇年の統計によって調べてみると,II-4表のとおりである。すなわち,検察官の起訴したものが六八・七%,起訴猶予が一六・五%,家庭裁判所送致が一一・一%,嫌疑不十分などの理由で不起訴となったものが三・五%,中止処分が〇・二%となっている。

II-4表 勾留被疑者の処分別人員(昭和40年)

 つぎに,勾留された被疑者が,どの程度の期間勾留されているかという勾留期間の問題であるが,これを五日ごとに区分して百分率をみると,II-5表のとおりである。勾留されたもののうち,八二・一%が,一〇日の勾留期間内に処理され,残る一七・九%が勾留期間を延長されている。なお,この表で二〇日をこえるものが一七二人いるが,これは,同一被疑者が他の事件で引き続き勾留され,前の期間と合計して二〇日をこえることとなった例外的なもので,総数の〇・二%にすぎない。

II-5表 被疑者,勾留期間別人員(昭和40年)