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 昭和42年版 犯罪白書 第一編/第六章/五/3 

3 精神病者の犯罪

 すべての犯罪者が,なんらかの意味での精神障害者であるなどと言うことができないように,すべての精神障害者が犯罪者になるということもないことは,もちろんである。ただ,一部の精神障害者が,その精神障害のために,自傷または他害行為に至るのである。それにもかかわらず,精神病患者すなわち潜在的犯罪者であるという考え方が,世間の一部では,依然かなり支配的であるように思われる。しかし,実務上の経験では,犯罪者のうちの精神病患者の比率は,一般人口のうちでそれが占める比率に比べると,むしろ低いと推定される。また,精神病院に勤務する臨床医の見解でも,自傷はとにかくとして,他傷や他害のおそれのあるものは,比較的まれであるという。ただ,この点に関しては,さきにも述べたように,正確な数値を示すことは,遺憾ながら不可能である。
 精神病者の犯罪について考察すると,粗暴犯のほか殺人,放火といった凶悪な犯罪が多いことが特色である。従来の報告によると,犯罪を犯した精神病者のうちで,最も多いのが精神分裂病で,次いで,てんかん,心因反応,躁うつ病,老人性精神病,中毒性精神病などがあげられる。とくに注目されることは,初犯の老人受刑者では,二〇%をこえる高率の精神病者が発見されているが,その大部分は,脳動脈硬化症や老人性の脳の変化による器質性精神病である。また,酒精酩酊時の犯罪には,放火が目だって多い。
 精神病犯罪者の対策で,実際上問題となるのは,精神病症状が,直接,犯罪行為と結びつくことは比較的まれで,発病以前からあった反社会的傾向が,精神病症状によって,強化,具体化される場合のむしろ多いことである。したがって犯罪者を収容する精神病院では,看護上,また施設管理上で,困難な問題をかかえており,そのような見地から,この種の精神病者に対する専門施設の設立が望まれている。