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 昭和42年版 犯罪白書 第一編/第四章/四 

四 少年の交通犯罪

 昭和四〇年におけるわが国の有責人口(刑事責任能力のある一四才以上の人口)は,同年行なわれた国勢調査によれば,七,五一六万三千人であり,そのうち,少年は,一,二九〇万六千人に達して,全有責人口の一七・二%を占めている。ところで,警察庁の統計によれば,同年中に発生した交通事故(物件事故を含む。)件数のうち,自動車側に主たる責任があるとされる五三五,八八五件中,七四,四八九件,一三・九%が少年によってひき起こされたものである。また,同年中に,警察から,道路交通法に違反するものとして,検察庁ならびに家庭裁判所に送致された五,〇六六,二三〇件のうち,少年の犯したものが七七五,八八三件で,全体の一五・三%を占めている。この数字をみると,少年は,その人口の割合には,交通犯罪を犯す率が低いように思われがちである。しかしながら,少年のうち,一六才未満には,自動車や原動機付自転車を運転する資格が与えられず,自動二輪車,軽自動車,原動機付自転車の運転免許試験は,一六才に,また,普通自動車や,大型自動車の運転免許試験は,一八才にならなければ,受験できないこととされていた。さらに,タクシーや営業用バス等を運転するのに必要な第二種免許は,二一才にならなければ与えられないし,大型免許を持っていても,少年は,いわゆる砂利トラなどの特定大型車を運転することができないこととされていたのである。したがって,少年が自動車等を運転する機会は,成人に比較して,法律上はるかに制約されているうえ,社会的経済的にも,いわゆるオーナードライバーとなったり,職業運転手として稼働する機会は少ないはずである。それにもかかわらず,違反件数や事故件数の中で少年の占める割合が,有責人口の中で少年の占める割合と比べて,それほど低率であるといえないことは,少年の交通犯罪が持つ危険な性格を暗示するものと思われる。前掲のI-18図に,昭和四〇年に警察から送致された道路交通法違反事件全体の態様をグラフで示したが,その中の右七七五,八八三件の少年事件を,態様別に比較すると,I-19図のとおりである。これによると,成人を含んだ事件では,一割にすぎなかった無免許運転が,三割近くを占めていることが注目される。つぎに,右の総数から成人事件だけを抜き出すと,I-20図のとおりであり,少年のそれとは,その態様がかなり違っていることが明らかである。同じ道交違反であっても,少年の場合は,無免許運転といわゆるスピード違反が,その半ば近くを占めており,事故発生に結びつく要素の大きいことが指摘されよう。

I-19図 少年の道路交通法違反態様比較(昭和40年)

I-20図 成人の道路交通法違反態様比較(昭和40年)

 つぎに,少年のひき起こした交通事故の内容をみると,警察庁の統計によれば,そのうちの一三・九%が無免許運転による事故であり(成人の場合は,わずかに,三・六%である。),無免許運転による事故総数二七,五一五件のうち,三九・三%の一〇,八二五件を占めていることがわかる。そのうえ,これらの無免許運転による事故は,おそらくは,少数の例外を除いて,自動車を管理する者の許可なく運転に及んだ際の事故と考えられるので,被害者に対する損害賠償が十分に行なわれないケースも多いのではないかと憂慮される。
 このような少年の交通犯罪が,家庭裁判所において,どのように処理されているかをみたものが,昭和三六年以降四〇年までの業務上過失致死傷事件についてのI-68表と,道路交通法違反事件等(自動車の保管場所の確保等に関する法律違反を含む。)についてのI-69表とである。これによってみると,検察官への逆送率は,業務上過失致死傷で三五%ないし四四%,道交違反で一二%ないし一五%であり,これに反し,不開始または不処分に終わったものが,前者で五〇%前後,後者で八〇%近くに及んでおり,いずれも,この五年間に,目だった変化は認められない。もっとも,昭和三〇年にさかのぼって比較すると,当時の業務上過失犯の逆送率は一九・一%,道交違反のそれは三・九%に過ぎないので,交通犯罪に対する家庭裁判所の態度は,近年かなりきびしくなってきているといえよう。しかし,検察庁のこの種事犯に対する高い起訴率と比較すると,家庭裁判所の不開始・不処分の率の高さは,対照的であり,少年の交通犯罪には,危険性の高い無免許運転の占める割合が多いことを考慮する必要があろう。

I-68表 業務上過失致死傷の家庭裁判所終局決定人員と率(昭和36〜40年)

I-69表 道路交通法違反等の家庭裁判所終局決定人員と率(昭和36〜40年)

 もっとも,最高裁判所の統計によれば,業務上過失致死傷について,終局的に不開始または不処分としたものについても,不開始の大部分,不処分のほとんど全部について,いわゆる保護的措置が講ぜられていることとされているが,保護的措置とは,具体的には,その大半が少年の行動を観察したり,環境を調整することを含まない「生活指導」というものであることが示されている。また,道交違反については,このような措置を講ずることはまれであるようである。
 最近の交通犯罪に対する家庭裁判所の処分について注目されるのは,絶対数も,比率も,ともに,微々たるものであるが,業務上過失犯,道交違反の両者について,保護観察に付されるものが漸次増加していることである。交通犯罪少年に,財産刑を科することが,常に最も望ましい処分であるとは言いえない反面,これを,漫然と,いわゆる野放しにすることがあっては,一般予防および特別予防の目的を達しえないことは明らかである。交通犯罪の性質上,一般の刑法犯に対するような保護観察の方法が,必ずしも適当でないことはいうまでもないが,すでに,これらの者に対する保護観察には,集団指導等,多様な処遇方法が実施され,工夫が加えられつつあるところであって,交通犯罪少年に対する保護観察処分を,よりいっそう活用することが,考慮さるベきであろう。家庭裁判所の処理にみられる右のような傾向も,このような受入態勢を反映したものではあるまいか。