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令和7年版 犯罪白書 第7編/第4章/第4節/コラム7

コラム7 被害率(暗数調査)と被害率(認知)の罪名別経年比較の試み

暗数調査における被害態様別の被害率(第1回調査から第6回調査における各調査年の前年1年間に被害に遭った者の比率。以下このコラムにおいて「被害率(暗数調査)」という。)では、捜査機関に申告されていないものも含め、犯罪被害の実態を推察することができる。犯罪被害に関しては、こうした被害率(暗数調査)のほか、罪名別の事件の認知件数を人口で除することにより、暗数化することなく捜査機関に顕在化した罪名別の被害の比率を求めることができる。さらに、同比率により被害態様別の被害率(暗数調査)を除することにより、被害態様別で両者の比率を明らかにすることができ、これにより、被害態様別の顕在化された被害の比率、暗数となった被害の比率を考察する手掛かりを得ることができる。また、被害態様別で経年比較することにより、捜査機関へ申告が行われる割合の推移を被害態様別で考察する手掛かりを得ることもできる。ただし、暗数調査における被害態様は法律上の犯罪とは必ずしも一致しないこと、調査対象者の記憶の正確性が検証されているわけではないことなど、被害率(暗数調査)には捜査機関に顕在化した被害の比率と比較する上での限界があり、同比率により被害率(暗数調査)を除することにより明らかになる前記比率も犯罪被害の実態を考察する上での手掛かりとし得るにすぎないことに留意が必要である。

被害率(暗数調査)、被害者が20歳以上である事件の認知件数を20歳以上の人口で除した比率(以下このコラムにおいて「被害率(認知)」という。)及び認知件数を経年で示すと、図7のとおりである。

「乗り物盗」の認知件数は、平成12年及び13年は増加し、翌年以降は減少傾向となった。被害率(暗数調査)は、本章第1節1項で述べたとおり調査方式が他の回と異なる第4回調査では上昇したものの、第1回調査の約8%から第6回調査の約1%へと低下傾向にある。被害率(認知)は、0.5%以下という低い値で推移しているが、詳細を見ると、14年の0.5%から徐々に低下し、29年以降は0.1%で推移している。さらに、被害率(暗数調査)を被害率(認知)で除することにより得られる比率は、第4回調査では20を超えたが、その他の回の調査では第1回調査の約17から第6回調査の10へと10台で低下傾向にあり、認知件数の10倍以上の被害が存在する可能性がうかがわれた。

「暴行・脅迫」の認知件数は、平成12年から20年まで増加し続け、翌年以降は、2万件台後半から3万件台前半で横ばいとなっている。被害率(暗数調査)は、第1回調査から第6回調査まで0.3~0.5%の間で上昇低下を繰り返しており、被害率(認知)は、11年以降0.03%未満で推移している。さらに、被害率(暗数調査)を被害率(認知)で除することにより得られる比率は、第1回調査の約60から低下傾向にあり、第6回調査では約10であって、近年では認知件数の10倍程度の被害が存在する可能性がうかがわれた。

「性的な被害」の認知件数は、平成12年から15年まで増加し続け、翌年以降減少傾向に転じ、24年と25年には増加したが、翌年以降再び減少傾向となり、令和3年以降は増加が続いている。被害率(暗数調査)は、第1回調査及び第2回調査の約1%から第6回調査の約0.2%へと低下傾向にあり、被害率(認知)は、0.01%未満という極めて低い値で推移している。さらに、被害率(暗数調査)を被害率(認知)で除することにより得られる比率は、第1回調査では約340であったが、第2回調査及び第3回調査の約200、第4回調査及び第5回調査の約120を経て、第6回調査では約40まで低下しており、近年では認知件数の数十倍の被害が存在する可能性がうかがわれた。

「各種詐欺等被害」の認知件数は、平成14年から17年まで増加し続け、翌年以降減少傾向に転じ、24年から再び増加傾向となるが、30年に再度減少傾向に転じ、令和3年からは増加している。被害率(暗数調査)は、第1回調査から第6回調査まで2~4%の間で上昇低下を繰り返しており、被害率(認知)は、0.1%以下という低い値で推移している。さらに、被害率(暗数調査)を被害率(認知)で除することにより得られる比率は、約50~120の間で上昇低下を繰り返しており、認知件数の数十倍の被害が存在する可能性がうかがわれた。

こうした被害率(暗数調査)を被害率(認知)により除することにより得られる比率によれば、<1>「性的な被害」及び「各種詐欺等被害」、<2>「乗り物盗」、<3>「暴行・脅迫」の順で、暗数化しやすい傾向にある可能性が指摘できる。また、「乗り物盗」、「暴行・脅迫」及び「性的な被害」における被害率(暗数調査)を被害率(認知)で除することにより得られる比率の経年変化を見ると、いずれも低下傾向にあることから、被害率(暗数調査)と被害率(認知)の差は縮まりつつあるといえ、少なくともこれらの被害については、被害申告がなされるなどして捜査機関が被害を認知する割合が上昇している可能性が指摘できる。

図7