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令和6年版 犯罪白書 第7編/第6章/第5節/1

1 心身の健康の回復等に資する処遇・支援の更なる充実

特別調査の結果から、女性受刑者は、男性受刑者と比べて、慢性疾患及び精神疾患により、心身の不安定な健康状態にある者が多く、心身の健康に関する悩みを抱える者も多い上、特に65歳未満の女性受刑者は、心身の不安定な健康状態の影響により自らの力のみでは自立的な生活が困難となる者が多い傾向にあることが明らかとなった。

このような状況を踏まえると、女性受刑者の円滑な社会復帰のためには、心身の不安定な健康状態に対する治療等を行い、その回復を図ることはもとより、回復後における心身の健康状態の維持・増進にも資する処遇・支援を充実させていく必要がある。今回の特別調査において、女性受刑者のうち、今回受刑することになった事件に薬物犯罪を含む者は43.7%であったほか、精神疾患の病名では依存症(薬物・アルコール・ギャンブルなど)の該当率が3番目に高かった。その中には薬物への依存が進んでいる者もいると考えられ、その回復に向けた処遇・支援を充実させる必要がある。薬物依存については、現在、本章第3節で述べたとおり、刑事施設及び社会内処遇・支援を実施する各機関・団体において、それぞれ女子依存症回復支援事業や薬物再乱用防止プログラム等の取組が実施されている。もっとも、依存症からの回復や治療は刑事施設や保護観察所におけるプログラム等の受講により完結するものではなく、場合によっては生涯にわたる治療や支援が必要とされることもある。この点、薬物事犯の保護観察対象者については、保護観察終了後も薬物依存からの回復のための必要な支援を受けられるよう、地域における支援体制の構築が図られているところであるが、今後、保護観察対象者以外の者についても、保護観察所が実施する「更生保護に関する地域援助」(以下「地域援助」という。)の取組等により、広く支援体制を構築していくことが期待される。加えて、法務総合研究所が行った聞き取り調査の結果では、保護観察所における指導プログラムの受講者の中には受講について消極的な態度を見せる者もいると指摘されていることから、プログラム受講の動機付けを維持・向上させることを意識しつつ、これらの取組を一層推進することも期待される。また、特別調査の結果のうち精神疾患の病名では、女性受刑者は、男性受刑者よりも「うつ病・双極性障害(躁うつ病)」、「不安障害(パニック障害など)」、「摂食障害」及び「パーソナリティ障害」の該当率が高かったことから、これらについても手厚い処遇・支援を行うことが望まれる。摂食障害については、現在、刑事施設において必要な医療体制が整えられており、出所後も保護観察所等における処遇・支援の中で、治療が必要な者に対する個別の指導が行われているところではあるが、本章第2節3項で述べたとおり、女性受刑者は、男性受刑者よりも刑期が短い者が多い傾向にあることからすると、刑事施設を出所した後、保護観察に付されない場合における社会内支援の重要性は高く、このような場合にも、保護観察に付される場合と同程度の、医療機関の継続的な受診につながるような手厚い支援を行うことが望まれる。加えて、刑事施設においては、摂食障害治療・処遇体制の統一を図るため、医療専門施設に加え、全国の女性刑事施設の摂食障害治療・処遇に携わる職員(医師、看護師、臨床心理士、刑務官等)に対する集合研修を実施しているところ、社会内処遇に当たる保護観察官や更生保護施設職員等に対しても同様の研修等を実施することが望まれる。そして、前記うつ病・双極性障害(躁うつ病)、不安障害(パニック障害など)、パーソナリティ障害を含む様々な精神疾患についても、病状に応じた指導・支援を受けられるよう支援者の専門性を高める必要があると考えられることから、同様の研修等を実施することで、円滑な社会復帰のための支援につなげることが期待される。