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令和6年版 犯罪白書 第7編/第4章/第2節/コラム9

コラム9 特別調整と地域生活定着支援センターの業務

本編第4章第1節で述べたとおり、法務省は、厚生労働省と連携して、高齢又は障害を有し、かつ、適当な帰住先がない受刑者等について、釈放後速やかに、必要な介護、医療、年金等の福祉サービス等を受けることができるようにするための取組として、平成21年4月から特別調整を実施している。地域生活定着支援センターは、この特別調整において福祉関係機関等との連携の中心としての役割を担っている(第2編第4章第3節4項(2)及び同編第5章第2節2項参照)。

平成20年12月22日、犯罪対策閣僚会議において、「犯罪に強い社会の実現のための行動計画2008」が策定され、翌年から、厚生労働省による地域生活定着支援センターの整備が始まった。

各都道府県の設置する地域生活定着支援センターは、犯罪をした者等のうち、高齢又は障害により福祉的な支援を必要とするものに対し、刑事司法関係機関及び地域の福祉関係機関等と連携・協働しつつ、刑事上の手続又は保護処分による身体の拘束中から釈放後まで一貫した相談支援を実施することにより、その社会復帰及び地域生活への定着を支援している。令和6年4月1日現在、全国に48の地域生活定着支援センターが設置されている。

特別調整の流れは次のとおりである。まず、<1>新たに生活環境の調整を実施する対象者となる者のうち、同対象者を収容する矯正施設の長又は同矯正施設の所在地を管轄する地方更生保護委員会(以下「所在地委員会」という。)が特別調整候補者に選定した者、あるいは<2>特別調整対象者に選定されていない者で生活環境の調整を実施する対象者となっているもののうち、<ア>保護観察所の長及び同対象者を収容する矯正施設の長のいずれもが特別調整候補者に選定すると認めた者又は<イ>所在地委員会が同矯正施設の長と協議して特別調整候補者に選定した者につき、同矯正施設の所在地を管轄する保護観察所(以下「所在地保護観察所」という。)の長において、必要な調査を行った後、特別調整の対象に該当するか否かを判断する。同保護観察所の長が特別調整の対象に該当すると認めた場合、特別調整対象候補者の同意を得た上で、同人を特別調整対象者とする(生活環境の調整については、第2編第5章第2節2項参照)。

特別調整対象者に対しては、以下のとおり生活環境の調整を行う。まず、所在地保護観察所において生活環境の調整を行い、同対象者が釈放後に生活することを希望する地域(以下「帰住希望地域」という。)が矯正施設所在地とは異なる都道府県にある場合には、帰住希望地域に対応する保護観察所においても生活環境の調整を行う。同調整の結果、帰住希望地域において帰住予定地が確保された場合には、確保された帰住予定地を管轄する保護観察所が生活環境の調整を継続して実施する。また、対象者について同帰住予定地での居住が困難となる事情が生じた場合には、所在地保護観察所の生活環境の調整において、再び特別調整の当初の手続から行う。これらの生活環境の調整の際には、各保護観察所の長は、同保護観察所の所在する都道府県に設置されている地域生活定着支援センターの長に対して協力を求める。保護観察所の長から協力依頼を受けた地域生活定着支援センターは、特別調整対象者の退所後に必要となる福祉サービス等の内容を確認した上で、受入先の調整等の支援を行う。

地域生活定着支援センターは、このような特別調整対象者に対する支援だけでなく、一般調整対象者(適当な釈放後の住居があるものの、高齢又は障害により釈放後に当該住居に居住しながら福祉サービス等を受けることが必要であると認められ、そのための生活環境の調整を実施する対象者)や高齢又は障害により福祉的な支援を必要とする被疑者等に対する支援も行っている。特別調整対象者も含めたこれらの者に対する支援の方法として、現在、地域生活定着支援センターでは、主として以下の五つの業務を行っている。<1>「コーディネート業務」は、矯正施設を退所する予定の人への帰住地調整支援を行うもの、<2>「フォローアップ業務」は、矯正施設を退所した人を受け入れた施設等への助言等を行うもの、<3>「被疑者等支援業務」は、被疑者、被告人の福祉サービス等の利用調整や釈放後の継続的な助言等を行うもの、<4>「相談支援業務」は、犯罪をした人・非行のある人やその家族等からの福祉サービス等についての相談に対する支援を行うもの、<5>「関係機関等との連携及び地域における支援ネットワークの構築等」は、司法関係機関、福祉関係機関、地方公共団体その他関係機関等と連携を保つために、研修や協議会等を開催し、犯歴の有無を問わず、ニーズがあって真に支援を求める人について、地域において必要な福祉的支援が受けられるようにするための環境づくりや支援のためのネットワーク構築を行うものである。特別調整対象者に対する支援は、<1>コーディネート業務及び<2>フォローアップ業務を中心に、また、一般調整対象者に対する支援も、特別調整対象者に対する支援に準じて<1>コーディネート業務及び<2>フォローアップ業務を中心に、被疑者等に対する支援は、<3>被疑者等支援業務を中心にそれぞれ行われている。そして、これらの業務には、いずれも対象者が必要な福祉サービス等を受けられるよう支援等を行うことが含まれており、必要に応じて、対象者の介護保険又は障害者自立支援の認定手続に関する支援や、療育手帳又は障害者手帳を取得するための手続に関する支援を行っている。

令和5年度の地域生活定着支援センターによる支援状況は次のとおりである(いずれも厚生労働省社会・援護局の資料による。)。

<1>コーディネート業務による支援の結果、矯正施設を退所して受入先に帰住した者は790人(うち女性104人)であり、主な受入先は、更生保護施設・自立準備ホーム、自宅・アパート・公営住宅等であった。また、同業務による支援の結果、矯正施設を退所して受入先に帰住した者のうち、矯正施設入所中に、介護保険又は障害者自立支援の認定手続を行った者は男女合わせて335人、療育手帳又は障害者手帳を取得した者は同130人であった。他方、コーディネート業務を実施したものの、「福祉を受けたくない」といったことや疾病悪化などを理由として支援を辞退する者もおり、こうして支援を辞退した者は149人(うち女性14人)であった。

<2>フォローアップ業務を実施した受入施設等における同業務の対象となる被受入者は2,492人(うち女性342人)であり、そのうち支援が終了した被受入者は841人(同126人)、支援継続中の被受入者は1,651人(同216人)であった。また、同業務の対象となる被受入者のうち、支援中に、介護保険又は障害者自立支援の認定を受けた者は男女合わせて378人、療育手帳又は障害者手帳を取得した者は同124人であった。

<3>被疑者等支援業務による支援を実施した者は486人(うち女性68人)であり、そのうち支援が終了した者は238人(同34人)、支援継続中の者は248人(同34人)であった。また、同業務による支援を実施した者のうち、支援中に、介護保険又は障害者自立支援の認定を受けた者は男女合わせて49人、療育手帳又は障害者手帳を取得した者は同17人であった。

<4>相談支援業務による支援を実施した者は1,565人(うち女性263人)であり、そのうち支援が終了した者は785人(同137人)、支援が継続中の者は780人(同126人)であった。また、同業務による支援を実施した者のうち、支援中に、介護保険又は障害者自立支援の認定を受けた者は男女合わせて79人、療育手帳又は障害者手帳を取得した者は同31人であった。

第二次再犯防止推進計画においては、高齢者又は障害のある者等への支援等の現状について、矯正施設在所中の段階からこれらの者に対する必要な指導を実施してきたほか、関係各機関が連携して特別調整等を実施するなどした結果、矯正施設から出所する者が年々減少する中にあって、特別調整の対象者数や地域生活定着支援センターによる支援の実施件数が増加するなど、福祉的支援に向けた取組は着実に実績を積み重ねている旨指摘されている。今後の課題としては、福祉的支援が必要であるにもかかわらず、本人が希望しないことを理由に支援が実施できない場合などもあることから、このような場合における福祉的支援の在り方が問われており、また、特別調整を始めとする高齢者又は障害のある者等への支援等の取組については、矯正施設、地方更生保護委員会、保護観察所、更生保護施設、地域生活定着支援センター、地方公共団体、地域の保健医療・福祉関係機関等の連携が必要不可欠であることから、その更なる充実強化が求められているといえよう。