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令和6年版 犯罪白書 第2編/第2章/第1節/コラム3

コラム3 司法面接的手法を用いた代表者聴取

本節では、検察庁の刑事政策的な取組の一例として、児童が被害者又は参考人である事件における代表者聴取を取り上げているところ、このコラムでは、代表者聴取の一般的な流れや手順等について紹介する。

検察・警察・児童相談所では、児童が被害者又は参考人である事件について、児童の負担軽減及び児童の供述の信用性確保の観点から、協議を行い、その代表者が児童から聴取を実施する取組(代表者聴取)を行っており、その聴取に当たっては、心理学的知見に基づき、暗示・誘導の影響を受けやすい児童の供述特性に着目し、記憶の汚染を防ぐとともに、二次被害を防止するため、録音・録画下において、被害からできるだけ早い時期に、できるだけ少ない回数で、児童からの自由報告を基本とした聴取を行う、いわゆる司法面接的手法を活用している。

平成27年10月以降の代表者聴取の実施件数の総数(検察・警察・児童相談所の三者連携による実施件数に、これらのうち二者のみの連携による実施件数を加えたもの)の推移は、図5のとおりである。代表者聴取の実施件数の総数は、その取組開始時から毎年増加し続けており、令和4年度は2,722件(前年度比12.1%増)であった。

図5
図5

司法面接的手法を用いた代表者聴取は、主に事案を認知した警察又は児童相談所から各検察庁へ連絡することで動き出し、検察・警察・児童相談所とで協議の上、事案の概要、児童や被疑者の属性、児童の現状や精神状況等の必要な情報を収集・把握して共有し、代表者聴取を要すると判断した場合、可能な限り早期に代表者聴取を行うため、聴取の手順・内容等を調整しつつ、聴取の場所・機材の設営等の準備を行うことになる。そして、実際に児童に対する聴取を行う代表者は、司法面接プロトコル(<1>児童に「本当にあったことを話す。」「分からないと言ってもよい。」などといった面接の約束事(グラウンドルール)を説明すること、<2>児童との間に児童がリラックスした話しやすい関係性(ラポール)を形成すること、<3>児童に対し、誘導的な質問をできる限り避け、オープン質問を用いた自由報告を求めること等を内容とする。)を踏まえ、短時間の面接により、各機関が聴取すべきと考える事項をまとめて聴取し、代表者以外の者は、別室からモニターで聴取状況を見ながら、必要に応じて代表者に対し、電話等により、あるいは休憩時に直接、補充して質問すべき事項を伝えるなどして実施している。

司法面接プロトコルには様々なものがあるが、いずれにおいても、その中核的な要素は、供述者の不安や緊張を緩和することなどにより十分な供述を得るとともに、誘導をできる限り避けることなどにより供述者の供述の内容に不当な影響を与えないようにすることであるとされている。

代表者聴取の場所【写真提供:法務省刑事局】
代表者聴取の場所【写真提供:法務省刑事局】

以上のとおり紹介してきた司法面接的手法を用いた代表者聴取の取組は、児童が被害者等である事件において行われてきたものであるが、検察・警察では、政府による性犯罪・性暴力対策の強化の方針に従い、性犯罪被害者に対する事情聴取の在り方をその供述の特性や心情等に配慮したものとするため、令和3年4月から、精神に障害を有する被害者に係る性犯罪事件においても、このような司法面接的手法を用いた代表者聴取の実施を拡大して積極的に試行している。

代表者聴取は、児童又は精神に障害を有する性犯罪事件の被害者のいずれに対して行われる場合も録音・録画を実施しており、その録音・録画記録媒体については、従来、公判では、いわゆる伝聞証拠として証拠能力が認められないのが原則であり、その聴取結果を法廷に顕出するためには、供述不能等の厳格な要件を満たさない限り、証人尋問で証言させざるを得ず、児童等の心理的・精神的負担の軽減を図る上で不十分であった。しかしながら、今般、刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律(令和5年法律第66号)により、一定の要件の下で、司法面接的手法を用いた聴取により得られた供述については公判に顕出することを可能とする新たな伝聞例外が創設された(第2編第1章1項(3)参照)。