前の項目 次の項目       目次 図表目次 年版選択

令和5年版 犯罪白書 第6編/第2章/第1節/4

4 公判段階における被害者等の関与
(1)被害者参加制度

被害者参加制度により、一定の犯罪に係る被告事件の被害者等は、裁判所の決定により被害者参加人として刑事裁判に参加し、公判期日に出席できるほか、検察官の訴訟活動に意見を述べること、情状事項に関して証人を尋問すること、自らの意見陳述のために被告人に質問すること、事実・法律適用に関して意見を述べることなどができる。そして、被害者参加人が公判期日等に出席する場合において、裁判所は、被害者参加人と被告人や傍聴人との間を遮へいする措置を採ったり、適当と認める者を被害者参加人に付き添わせたりすることができる。

被害者参加人は、刑事裁判への参加を弁護士に委託する場合、資力に応じて、法テラスを経由して裁判所に国選被害者参加弁護士の選定を請求することができる。また、公判期日等に出席した被害者参加人は、被害者参加旅費等の支給を受けることができる(同旅費等に関する事務は法テラスが行う。)。

通常第一審における被害者参加制度の実施状況の推移(最近5年間)は、6-2-1-3表のとおりである。

6-2-1-3表 通常第一審における被害者参加制度の実施状況の推移
6-2-1-3表 通常第一審における被害者参加制度の実施状況の推移
Excel形式のファイルはこちら
(2)被害者等・証人に配慮した制度
ア 被害者等の意見陳述・証人の保護等

被害者等は、公判期日において、被害に関する心情その他の被告事件に関する意見を陳述し、又は、これに代えて意見を記載した書面を提出することができる。

公判廷における証人を保護するための制度としては、証人尋問の際に、証人と被告人や傍聴人との間を遮へいする措置を採る制度、証人を別室に在席させ、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話する方法(ビデオリンク方式)によって尋問する制度、適当と認める者を証人に付き添わせる制度がある。これらの制度は、被害者等が公判期日において意見を陳述する場合においても適用される。

刑事手続において被害者の氏名等の情報を保護するための制度としては、被害者特定事項秘匿決定及び証拠開示の際の被害者特定事項の秘匿要請がある。

被害者特定事項秘匿決定は、性犯罪に係る事件や犯行の態様、被害の状況その他の事情により、氏名及び住所その他の当該事件の被害者を特定させることとなる事項(以下アにおいて「被害者特定事項」という。)が公開の法廷で明らかにされることにより被害者等の名誉等が著しく害されるおそれがあると認められる事件について、被害者等からの申出があり、裁判所が、それを相当と認めるときに、被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしない旨を決定するものである。証拠開示の際の被害者特定事項の秘匿要請は、被害者特定事項が明らかにされることにより、被害者等の名誉等が著しく害されるおそれがあると認められるなどの場合に、検察官が、証拠を開示する際に、弁護人に対し、その旨を告げ、被害者特定事項が被告人の防御に関し必要がある場合を除き、被告人等に知られないように求めるものである。

また、平成28年法律第54号による刑事訴訟法の改正により、<1>証人等特定事項秘匿決定(証人等からの申出により、裁判所が、証人等の氏名、住所等の証人等特定事項を公開の法廷で明らかにしないこととする決定)の制度、<2>証人等の氏名等の開示について、証人等の身体又は財産に対する加害行為等のおそれがあるときは、防御に実質的な不利益を生ずるおそれがある場合を除き、検察官が弁護人に当該氏名等を開示した上で、これを被告人に知らせてはならない旨の条件を付することができ、特に必要があるときは、弁護人にも開示せず、代替的な呼称等を知らせることができるとする制度が導入された上、<3>一定の場合には、証人を同一構内(裁判官等の在席する場所と同一の構内)以外の場所に出頭させてビデオリンク方式により証人尋問を行うことができるようになった(<1>及び<2>は平成28年12月施行、<3>は30年6月施行)。

さらに、令和5年法律第28号による刑事訴訟法等の改正(第2編第1章1項(4)参照)により、犯罪被害者等の個人特定事項の記載がない起訴状抄本等を被告人に送達する措置等が導入された(同措置等に係る規定は令和6年2月までに施行)。

意見陳述、意見陳述に代えた書面の提出、証人の保護(遮へい、ビデオリンク及び付添い)、被害者特定事項秘匿決定及び証人等特定事項秘匿決定の実施状況の推移(最近5年間)は、6-2-1-4表のとおりである。

イ 刑事和解及び損害賠償命令制度

刑事被告事件の被告人と被害者等は、両者間の当該被告事件に関連する民事上の争いについて合意が成立した場合には、共同して、その合意の内容を当該被告事件の公判調書に記載することを求める申立てができる。これが公判調書に記載された場合には、その記載は裁判上の和解と同一の効力を有し(刑事和解)、被告人がその内容を履行しないときは、被害者等はこの公判調書を利用して強制執行の手続を執ることができる。

また、一定の重大犯罪について、被害者等が刑事事件の係属している裁判所に損害賠償命令の申立てを行い、裁判所が有罪判決の言渡しを行った後に引き続き審理を行い、刑事裁判の訴訟記録を取り調べるなどして申立てに対する決定を行う制度(損害賠償命令制度)が実施されている。

刑事和解及び損害賠償命令制度の実施状況の推移(最近5年間)は、6-2-1-4表のとおりである。

ウ 記録の閲覧・謄写

裁判所は、被害者等には原則として公判記録の閲覧・謄写を認めることとされている上、いわゆる同種余罪の被害者等についても、損害賠償請求権の行使のために必要があり、相当と認めるときは、閲覧・謄写を認めることとされている。被害者等が公判記録の閲覧・謄写をした事例数の推移(最近5年間)は、6-2-1-4表のとおりである。

不起訴事件の記録については、原則として非公開であるが、被害者等が民事訴訟において損害賠償請求権その他の権利を行使するために実況見分調書等の客観的証拠が必要と認められる場合等には、検察官は、関係者のプライバシーを侵害するなど相当でないと認められる場合を除き、これらの証拠の閲覧・謄写を許可している。また、被害者参加制度の対象事件については、被害者等が「事件の内容を知ること」等を目的とする場合であっても、不起訴事件の記録中の客観的証拠については、原則として、閲覧が認められている。

6-2-1-4表 被害者等・証人に配慮した制度の実施状況の推移
6-2-1-4表 被害者等・証人に配慮した制度の実施状況の推移
Excel形式のファイルはこちら