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 昭和41年版 犯罪白書 第三編/第三章/五/1 

五 少年の矯正

1 少年鑑別所

 少年非行の基本的対策としては,非行に陥った者の資質的,環境的両面の要因を総合した科学的立場から診断して,矯正教育等適切な措置を講ずることが理想とされている。このような対策の一面を満たすための専門機関として,昭和二四年に法務省所管の施設として新たに設けられたのが,少年鑑別所である。
 少年鑑別所の数は,昭和四〇年一二月末日現在,本所五〇,少年鑑別支所一,計五一である。その目的とするところは,[1]少年法第一七条第一項第二号の規定により送致された者を収容するとともに,家庭裁判所の行なう少年に対する調査および審判ならびに保護処分の執行に資するため,医学,心理学,教育学,社会学その他の専門的知識に基づいて,少年の資質の鑑別を行なうこと,[2]検察庁,少年院,保護観察所,地方更生保護委員会等関係機関からの鑑別依頼に応ずるほか,一般家庭,学校,その他の団体からの依頼に応じて,相談または鑑別をすること(この場合には少年を収容することはできない。)である。
 このように,少年鑑別所は,問題や非行のある少年に対して,その生育状況,家庭環境,学校や職場関係など,社会的環境との関連を参考にしながら,少年の人格構造や特性を科学的に診断したうえで,少年の非行性の治療や矯正教育の方針の樹立に寄与するところである。

(一) 収容関係

 少年鑑別所に収容される少年は,家庭裁判所で受理した少年事件のうち,裁判官が心身の資質を鑑別する必要があると認めた者,または適当な保護者がなく,再非行もしくは逃走のおそれがあり,そのまま放置することができないと認めた者である。
 身柄の収容は,裁判官の発する観護措置状によらなければならない。収容期間は,原則として二週間であるが,必要に応じて一回だけ更新されるので,最大限四週間となるわけである。
 従来,収容期間の全国的な平均日数は二〇日強となっている。したがって,鑑別所に収容されている少年のおおかたは更新されていることになる。
 少年鑑別所開設当初からの入出所人員の増減状況をみたのが,III-62表である。すなわち,少年鑑別所が開設された当初は,年間の入出所人員も二万人たらずであったが,昭和二六年には,入所者四三,〇一四人,出所者四二,二八六人と倍増した。しかし,二八年から再び下降をみせて,三一年には,入出所者とも三万一千人台に減じ,その後,若干増加を示したが,男子は,三五年の三万八千人台を,女子は,三四年の三千七百人台を境として,わずかに減少またに横ばいを示したから現在に至っている。さらに,最近一〇年間における新収容者を,男女別,年令層別にみたのが,III-63表である。本表の示すとおり,一六歳以下の低年令層にあっては,女子が男子より毎年高率である。これに反して,一八歳および一九歳の高年令層にあっては,大幅の差で,男子が高率を示し続けている。

III-62表 少年鑑別所入出所人員(昭和24〜39年)

III-63表 少年鑑別所新収容者年令別比率(昭和30〜39年)

 一方,一四歳以上二〇歳未満の者が刑法犯によって警察に検挙された総人員は,III-64表に示すように,昭和三〇年を一〇〇とした場合,総数の指数に示すとおり逐年増加して,三九年における指数は,一九六に達しているが,少年鑑別所の三〇年の入所総数を一〇〇としてみた三九年の指数は,一一九であるから,鑑別所の入所状況と警察における検挙人員の状況とがずれている。さらに,在宅事件として処理される人員が増加した原因の一つは,III-63表からもわかるように,義務教育就学中の低年令層が急増していること,および保護能力があると思われる中流家庭出身者の割合が高まったなど,複雑な要因がからまるようである。

III-64表 刑法犯検挙人員(昭和30〜39年)

(二) 鑑別関係

 最近一〇年間の全国的な鑑別受付状況は,III-65表にみられるとおり,家庭裁判所関係の受付人員にはさしたる変動はみられないが,昭和三〇年と比べると増加している。一方,三八年まで増加の一途をたどっていた法務省関係および一般からの鑑別受付人員は,三九年になってやや減っているが,同年の受付人員は,法務省関係二,三六三人で,一〇年前の一四倍以上であり,一般からの受付人員も三二,七六二人で,一七倍近く増加している。

III-65表 少年鑑別所の鑑別受付状況(昭和30〜39年)

 なお,家庭裁判所関係のうち,在宅鑑別人員についてみると,III-66表のとおり,逐年増加し,三七年以降急増している。

III-66表 家裁関係在宅鑑別受付人員(昭和30〜39年)

 このように,各方面から少年鑑別所に対する鑑別依頼が多くなったことは,少年非行に関する一般社会の関心が高まったと同時に,鑑別所が開設以来着実な歩みを続けた結果,同所の鑑別技術が高く評価され,その地区における鑑別センターとしての役割を果たしているからであろう。今後さらに,いっそうの充実強化が望まれるしだいである。
 少年の資質鑑別のためには,身体面の臨床的検査と診断を行なうとともに,精神面では,多種にわたる検査と診断法を用いている。
 昭和四〇年三月現在,五一か庁のうち二五か庁以上が,資質鑑別に使用している諸検査の一覧は,III-67表のとおりであり,このほか必要に応じて,脳波測定による精神医学的診断を行なっている。

III-67表 鑑別所においておもに使用している検査(昭和40年3月現在)

 最近急増しつつある道交違反少年の鑑別にあたっては,前に掲げた検査のほかに,運転適性検査,運転態度検査などを実施して,鑑別および処遇の適正を期している。なお,法務省矯正局が中心となって作成した法務省式文章完成法が実用化され,さらに,法務省式質問紙法も実用間近になっている。
 収容した少年の資質鑑別に関する総合判定をくだすにあたっては,身体状況,知能程度,性格特性,行動観察記録,社会記録等の諸資料に加えて,面接問診の所見を総合したうえ,該当少年にとって,最も有効適切な保護指針と考えられる方策を決定している。また,家庭裁判所や法務省関係機関からの依頼による在宅鑑別にあっては,収容鑑別のような長期にわたる行動観察記録が欠けるなど,資料にやや乏しい難点はあるが,収容鑑別の場合と大差ないことが多い。つぎに,一般家庭や学校などから依頼される鑑別については,対象者の年令や問題の内容が非常に広範囲にわたる関係上,その資質鑑別に用いる検査や診断の方法および精密さについても一様とはいえない。
 つぎに,資質鑑別によって得られた収容少年の精神状況の診断結果は,III-68表に示すとおりである。同表で明らかなように,正常者(知能が普通以上で,精神上,性格上異常を認めない者)と診断された人員数は,昭和三〇年に一五・四%であったものが,順次減少して三九年には二・八%に減っている。これに反して,準正常者(知能限界の者および性格異常の者をそれぞれ含む。)の増加が目だつ。また,精神薄弱者(知能指数六九以下の者)中でも,痴愚以下およびそれに近いろ鈍級の人員が減少の傾向にある。

III-68表 精神状況別人員(昭和30〜39年)

 精神病質(性格異常のために,自分自身が悩み,社会に迷惑をかける者)と診断された人員は,三〇年一〇・二%,三五年六・三%,三九年五・三%と減る傾向がみられる。
 このように,正常者の比率が減少して準正常者がふえている(最近は準正常者が八〇%以上を占めている。)現状に対して,矯正局においては,準正常者の細分化や診断基準の再検討などが考慮されている。
 家庭裁判所関係の鑑別終了人員について,知能指数の分布状況を段階別にみたのがIII-69表である。すなわち,知能指数一一〇以上のような普通以上の高い知能段階にある者および指数四九以下の知能低格者の減少が目につく。これに反して,指数八〇〜八九の準普通の段階にある者がふえており,しかも,全体の中で最も多くの人員を占めている。したがって,収容少年の知能は一般少年よりやや低格な者が多いことになる。

III-69表 知能指数段階別人員(昭和35〜39年)

 少年鑑別所における鑑別の結果は,非行と関連する問題点とその分析および処遇上の指針ならびに社会的予後の問題,その他医療措置の必要性の有無など,当面必要な処置にも触れて,家庭および本人にとって最も適切な保護指針などの勧告事項をもりこんでいる。
 なお,鑑別の結果を裁判官の行なう審判資料とするための鑑別結果通知書には,つぎのように区分して記載している。
 [1]保護不要(保護措置を必要としない者)[2]在宅保護(在宅のままケースワークすればよい者であって,専門のケースワーカーに任せる必要のある者と,専門家に任せなくても補導できる者とに分かれる。)[3]収容保護(少年院,教護院,養護施設に収容を適当とする者)[4]保護不適(保護処分にすることは不適当と認められる者,または社会的危険性のある精神障害者―精神分裂病,てんかん,脳疾患後遺症等のある病型,爆発性または気分易変性の精神病質などで精神衛生法による措置入院を適当とする者)。
 最近五か年にわたって,家庭裁判所関係の鑑別判定と審判決定との状況についてみたのが,III-70表の(1)および(2)である。III-70表の(1)および(2)を見比べればわかるように,少年鑑別所の判定意見も家庭裁判所の審判決定も,ともに在宅保護の増加と特別少年院送致の減少がみられる。中等少年院送致については,鑑別判定が三八年まで実数,百分率ともに減少し,三九年におよんで実数がわずかにふえているが,総数が増加したため百分率は減っている。これに対し,審判決定においては,三八年まで減少してきたが,三九年に至り増加していることがわかる。初等少年院送致においては,鑑別判定は三八年まで,審判決定は三七年まで増加してきたが,その後やや減少の傾向をみせている。医療少年院,教護院または養護施設へ送致等の判定意見や決定人員数は,大きな動きがない。

III-70表

 つぎに,最近五年間における鑑別判定と審判決定との一致率をみたのがIII-71表である。同表が示しているように,両者間に高い一致がみられるのは,医療少年院送致の七八・二%,保護不要の七三・五%,初等少年院送致の七一・四%である。中等および特別少年院送致,教護院または養護施設送致に関する一致率は,あまり高くない。

III-71表 鑑別判定と審判決定との一致率(昭和35〜39年)

 鑑別判定と審判決定との割合の差について,III-70表の(1)および(2)を比べると,昭和三五年に収容鑑別した判定では,四九・三%を少年院に送致のうえ,強力な矯正教育が必要であるという少年鑑別所の意見に対し,家庭裁判所の審判の結果,少年院送致決定となったのは二四・四%である。少年院送致に関する両者の差を年次別にみると,三六年二三・四%,三七年一七・三%,三八年一六・八%,三九年一三・七%と逐年両者が接近している。
 おわりに,道交違反少年の鑑別についてみると,最近三年間に在宅または収容のうえ,精密鑑別を行なった人員は,III-72表に示すとおり,三八年,三九年と急上昇している。そこで,三九年中に鑑別した道交違反少年の資質面について,知能指数をみたのが,III-73表である。すなわち,知能指数の点でいうと,指数六九以下の者が,収容鑑別を受けた者に七・二%,在宅鑑別を受けた者に三・七%みられ,最も多くの人員が占めるのは指数八〇〜八九(準普通)である。また,同じく道交違反者であっても,収容鑑別を受けた者のほうが,在宅鑑別を受けた者より知能指数の分布が低いほうに傾いている。

III-72表 道交違反少年鑑別人員(昭和37〜39年)

III-73表 道交違反少年の知能指数(昭和39年)

 つぎに道交違反によって収容された一,一八九人について精神状況をみると,正常者は六・四%,準正常者が七四・四%で,精神障害者は九%を占めている。精神障害のおもなものは精神薄弱(五・八%)である。
 III-74表は,収容鑑別を受けた少年の家庭裁判所における処分結果を示したもので,これによれば,保護観察三一・一%,試験観察二六・一%,観護措置取消一八・三%などが多く,少年院送致は三・七%となっている。

III-74表 道交違反少年の家裁決定(昭和39年)

 道交違反少年の急増は,一般社会においても重要な問題となっているが,矯正局においても,鑑別技官の増員や運転適性検査器具の整備などを行なって,精密鑑別を期待するおおかたの要望に答えようと務めている。