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2 少年院における処遇 (一) 少年院入院者とその特質 少年院は,家庭裁判所から保護処分として送致された少年を収容し,これに矯正教育を授ける国立の施設であって,法務省の所管に属し,昭和四〇年末現在六〇の本院と二つの分院がある。
少年院は,[1]初等少年院(心身に著しい故障のない一四歳以上おおむね一六歳未満の者を収容する。) [2]中等少年院(心身に著しい故障のない,おおむね一六歳以上二〇歳未満の者を収容する。) [3]特別少年院(心身に著しい故障はないが,犯罪的傾向の進んだおおむね一六歳以上二二歳未満の者を収容する。) [4]医療少年院(心身に著しい故障のある一四歳以上二六歳未満の者を収容する。)の四種類に分かれている。 少年院が発足した昭和二四年以来三九年に至るまでの,新入院者人員の推移は,III-75表のとおりである。すなわち,発足当時の二四年から二六年まで急上昇し,二六年には,男女とも,これまでの最高を記録している。このような急増の要因として考えられることは,少年犯罪の激増にともなう送致少年の増加と,私設の少年保護団体が廃止され,従来,それらの団体に収容されていた少年が送致されてくるようになったこと,および少年法が施行された当時は一八歳に制限されていた対象少年の年令が,二六年一月一日から規定どおり二〇歳となり,一八歳以上のいわゆる年長少年が少年院に送致されたことなどによろう。ちなみに,そのころの少年受刑者の数をみるとIII-95表に示すとおり,昭和二四年に比べて二六年には一,四一三人の滅,二七年には二,六八三人の減で,ついに,この年は,二四年の人数の半分以下に激減するに至ったことが,この間の事情を示すものであろう。昭和二九年以降,新入院者人員は,昭和三一年と三八年が七千人台に減ったほか,八千人台を維持し,おおむね,横ばいの状況を続けて今日に至っている。 III-75表 新入院者人員(昭和24〜39年) つぎに,少年院の種類別にみた最近五か年間における年末在院者の数は,III-76表に示すとおり,男女ともに中等少年院の在院者が最も多く,五年間の平均が男子五六・六%,女子五二・三%と在院者の半数以上を占めている。ついで,男子は,特別少年院の一九・三%,初等少年院の一六・五%の順になり,女子は,中等少年院についで初等少年院の二六・七%,医療少年院の一六・八%,特別少年院の六・一%の順に多い。III-76表 少年院種類別人員(昭和35〜39年) つぎに,最近五か年間における年末の収容人員を年令別にみたのがIII-77表である。同表によれば,昭和三八年まで最も多くの人員を占めていた年令は,一九歳および一八歳であったものが,三九年に至り,一七歳が二四・〇%で最高率を示し,ついで一八歳の二〇・四%,一九歳の一七・三%となっている。一九歳が一七・三%と一〇%台に減ったのは,ここ一〇年間ではじめてのことである。なお,一五歳以下は,三七年を,一六歳は,三八年を頂点としてやや減少している。また,二〇歳以上の高年令に属する在院者は,三五年に八・七%あったものが,三九年に六・〇%と減っている。ちなみに,同年令層のものが三〇年には一二・七%を占めたのであるから,逐次減少して三九年には半数以下になったわけである。III-77表 在院者の年令別分布(昭和35〜39年) つぎに,少年院送致となった者の行為別の比率をIII-78表でみると,三九年には,窃盗が四六・九%で,一位を占め,恐かつ一一・六%,ぐ犯一〇・六%,強かん八・八%の順となっている。III-78表 少年院送致少年の行為別人員の率(昭和35〜39年) これを五か年間の割合でみると,逐年増勢にあるものは強かん,ぐ犯で,三九年に至って窃盗がやや低率をみせているほかは,おおむね横ばい状態である。なお,少年院新収容者の行為と年令別との関係を対比してみるとIII-79表の示すようになる。すなわち,三〇年には,大部分の行為において,一九歳,一八歳のような高年令層が高率を占めていたが,三九年には,一年ないし二年,低年令層にずれていることがわかる。III-79表 新収容者の行為と年令別人員(昭和30,39年) III-80表は,新収容者を職業別にみたもので,同表に示すとおり,男女ともに無職者が最も多く,三九年におけるその割合は,男子四七・二%,女子五八・八%を占めている。しかし,昭和三〇年における無職者の人は,男子四,六三六人(五九・四%),女子四八九人(六一・二%)であるから,三九年は,これと比べ,男女ともに減少している。III-80表 新収容者の職業別人員(昭和35〜39年) つぎに,学生・生徒は,男女ともに,三五年から三八年まで逐年増加していたが,三九年に至り,減少を示している。さらに,職業と行為との関連における増減について,昭和三〇年と対比しながら三九年の状況をみると,増加率が目だつのは,男子の学生・生徒について三〇年の新収容者四一〇人中恐かつが五人(一・二%)であったのが,三九年は一,一四九人中八九人(七・七%)に,同様にわいせつ・かんいんは四・六%(三〇年)から八・四%(三九年)に,傷害は二・二%(三〇年)から五・五%(三九年)に,強盗は二・九%(三〇年)から四・二%(三九年)になったことである。工員および店員の場合も,学生・生徒とほぼ同様にふえているが,農業従事者においては,人員数が三三五人(三〇年)から八二人(三九年)と激減しているばかりでなく,学生・生徒および他の有職者に増勢をみせている強盗,恐かつ,かんいん・わいせつなどの行為をしたものの比率が,三〇年より三九年に至って減った点が違うところである。 また,無職者の行為と無職者以外の者と違う傾向がみられるのは,学生・生徒などに大幅な増加をみせた強盗が五五・九%(三〇年)から四八・七%(三九年)に,わいせつ・かんいんが三八・九%(三〇年)から二九・八%(三九年)に減少しているところである。 III-81表は新収容者の保護者関係につき,最近五年間の状況をみたもので,同表に示すとおり,実父母のそろったものの割合が増加する傾向がみられ,兄姉が保護者となっているものは減少している。ちなみに,三〇年の新収容者のうち,実父母が保護者であるものが四〇・七%であるから,三九年には一〇%以上ふえたことになり,反対に,兄姉が保護者の場合は三〇年(四・六%)より三九年(一・八%)は二・八%減っている。つまり,一般的にみて,保護者関係の条件が良好と思われる者がふえ,悪条件と考えられる者が減ったことになる。これは,在院者の年令が低下したこととも関連するであろうが,注目に値する。 III-81表 新収容者の保護者(昭和35〜39年) III-82表は三五年以降五か年の新収容者の学歴別人員を示したものであるが,三五年以来,不就学,小学在学および中退者の減少がみられる。ちなみに,昭和二六年の不就学は一・三%,三〇年は〇・七%,小学卒は二六年一八・六%,三〇年五・八%,小学中退は二六年一七・一%,三〇年一〇・〇%,中学中退は二六年二九・七%,三〇年二一・四%であり,これらに比べると三九年は,いずれも大幅に低率となっている。これに反し,中学在学中の者は,二六年は三・九%であったものが,三〇年に五・三%と増加し,III-82表に示すとおり,三五年以後三八年までは,逐年増加している。また,義務教育以上の教育を受けたものについては,高校在学者の漸増のほか,いずれも大きな人員の変動がない。III-82表 新収容者の教育歴(昭和35〜39年) 在院者の知能状況について,知能指数で示したのがIII-83表である。同表で示したように,指数九〇〜一〇九(普通)の者が全体の三七・一%を占めてはいるものの,八〇〜八九(準普通)が二七・九%,七〇〜七九(限界)の者が一八・一%,指数六九以下(精神薄弱)が一三・七%という状況である。この分布状況は,少年鑑別所に収容された者の知能指数分布III-69表と比べると,低いほうに傾いている。III-83表 少年院在院者の知能指数別人員(昭和30年12月25日現在) III-84表 新収容者の収容度数別人員(昭和35〜39年) つぎに,最近五か年間における新収容者につき,少年院に収容された経験の有無および収容度数の状況をみると,III-84表に示すように,初めて収容を経験する少年が逐次ふえる傾向があり,累入少年がわずかに減る様子がみえる。すなわち,同表の二度以上の百分率の合計が,三五年(二一・五%)より三九年(一九・三%)に二・二%減っている。なお,三〇年における累入少年は二三・六%であった。さらに,在院者が現在の少年院に送致される以前に受けた処分経験について,法務省矯正局の在院者実態調査(昭和三九年九月一〇日現在の全国少年院在院者調査)の結果によれば,男子在院者七,四二五人のうち,少年院送致までに警察の補導を受けたものが,五,四八四人(七三・九%)である。そのうち,四回以上経験した者は二,五九三人で,一回から三回の経験をもつ者の合計とほぼ同じである。女子在院者八八〇人のうち,警察補導経験者は五九一人(六七・一%)であり,男子と比べて六・八%低いうえに,四回以上の経験者は二九・一%にすぎない。不開始・不処分を受けた男子は,三,二九一人(四四・三%)で,一回だけの経験者が五九・四%あり,処分回数を増すごとに減っている。不開始・不処分を受けた女子は,全体の二四・三%で,男子より低率であり,一回だけの経験者は,七一・五%で男子より高率となっている。 在院者男子七,四二五人,女子八八〇人のうち,試験観察の処分を受けた者の割合は,男子二九・五%,女子二六・四%である。前記在院者のうち,保護観察の処分を受けた者は,男子が四一・八%,女子は二一・六%である。前記在院者のうち,少年院の経験をもつ者は,男子一八・四%,女子一二・七%である。 なお,少年院に初めて送致されるまでに,何らかの処分を受けた者の人数は,III-85表で明らかなように,男子は,調査時の総数七,〇〇七人に対して五,六四〇人(八〇・五%)で,女子は,総数七七三人のうち四八三人(六二・五%)である。さらに,経験した処分の内容別にみるなら,男子は,警察補導だけの者が最も多く,二三・二%を占め,つぎに警察補導と審判不開始・不処分の決定を受けたことのある者一四・〇%,ついで警察補導と試験観察の経験を合せもつ者七・七%の順に多い。女子についても,男子と同様な順位で多く,警察補導だけの経験者の人員比率は,女子が三九・三%で,男子の二三・二%より一六・一%高くなっている。 III-85表 最初の少年院送致までに受けた処分経験(昭和39年9月10日現在) この状況からも知りうるように,少年院に初めて送致されるまでに,その者には,種々な場面において,すでに多くの手が加えられている場合が多いが,その処置が本人にとって必ずしも適切ではなく,少年院に送られたときには,いわゆる非行性の程度が進み,こじれた状態になったものが多いようである。III-86表は,在院者の精神状況につき,最近五か年間の様子をみたものである。同表でわかるように,正常者が漸減して準正常者が増加しているが,そのほかは,大きな動きがない。 III-86表 少年院在院者の精神状況(昭和35〜39年) この在院者の精神状況と少年鑑別所の入所者のそれとを比較すると,正常および準正常者の増減傾向は,ほぼ同じであるが,昭和三九年の鑑別所入所者のうち,正常と判定されたものは二・八%であるが,少年院在院者の正常者は〇・三%である。逆に,精神病質者は,前述の鑑別所入所者には五・三%であるが,少年院の在院者には一〇・二%と多い。精神薄弱者についても,在院者が一〇・六%,鑑別所入所者は六・九%,その他の精神障害と認められる者は,在院者一・四%,鑑別所入所者〇・九%と,いずれも少年院在院者のほうが資質的に問題のあるものが多く,少年院における矯正教育の困難さの一面を示唆している。 III-87表は,在院者の処遇難易について五か年間の状況をみたものである。同表に示されているように,昭和三五年以降の推移は,処遇上問題のない者が三八年まで逐年滅少し,三九年はわずかに上昇している。これに反して,処遇上やや困難なものと処遇困難者が順次増加している。すなわち,三五年の処遇困難者は二六・三%であるが,三九年には三五・六%にふえている。ちなみに,昭和三〇年における処遇やや困難者は二三・八%,処遇困難者は二一・六%であるので,一〇年前と比べて三九年は,処遇やや困難者が八・四%,処遇困難者が一四・〇%とそれぞれ大幅な増加をみせている。 III-87表 少年院在院者の処遇難易調べ(昭和35〜39年) つぎに,在院者が出院するまでの期間は,少年院の種類別によって多少異なるが,全般的にいうなら,退院の場合は,一一か月以上一年一か月未満の間に出院する者が集中しており,仮退院の場合は,一年以上一年二か月未満を中心に出院している。III-88表は,少年院の種類別にみた退院,仮退院における平均在院日数とその人員につき,最近五か年間の推移を示したものである。III-88表 少年院種類別退院・仮退院別平均在院日数と人員(昭和35〜39年) 同表によれば,三九年における初等および医療少年院の在院日数が短縮されたほか,在院日数に大幅な動きはない。しかし,一般的にいえることは,特別少年院と医療少年院の在院日数は,初等および中等少年院と比べて長い。それは,特別および医療少年院に収容される少年の特質からみて当然のことであろう。さらに,仮退院者より退院者の在院期間が一般に短かくなっているのは,退院者の中には,少年院法第一一条第一項の適用を受けるものが多いためであろう。また,仮退院者の在院期間が長びく原因の一つは,受入れ側の家庭環境などの調整のため多くの日数を必要とすることを示すものとみられる。(二) 在院者の矯正教育 少年院の矯正教育は,在院者を社会生活に適応させるため,その自覚に訴え,規律ある生活のもとに,教科教育,職業の補導,適当な訓練および医療を授けることになっている。
そこで,少年院における処遇は,在院者の心身の発達程度を考慮して,明るい環境のもとに,規律ある生活に親しませ,勤勉の精神を養わせるなど,正常な経験を豊富に体得させ,その社会不適応の原因を除去するとともに長所を助成し,心身ともに健全な少年の育成を期して行なわれなければならないことになっている。 [1] 分類とオリエンテーション 新たに入院した少年に対しては,二週間以内の考査期間があり,その期間内は,専門職員などによって,院内生活に対するオリエンテーションや諸検査,行動観察などが行なわれる。一方,少年鑑別所の鑑別結果および家庭裁判所から送付される少年調査記録などを参考にしながら,本人に対する最も適切な処遇と教育の計画がこの期間にたてられる。ついで,この計画を実施するため,段階処遇に移行する。 [2] 段階処遇 段階処遇とは,在院者の改善と進歩の程度に応じ,順次に向上した取扱いをして行く制度である。少年院の在院期間は,不定期に近いものであるため,この制度のもつ意義は大きい。 現行の処遇段階は,一級の上,一級の下,二級の上,二級の下および三級に分けられている。新たに入院した者は,まず,二級の下に編入され,以後,順次に進級して行くようになっているが,とくに成績が優秀な場合は,三級から二級の上に昇進される。成績がとくに悪い場合は,一段階下げることができることになっている。 昇進および降下は,在院者の平素の成績を毎月一回以上審査して定める。また,成績は, (イ)学業の勉否およびその成績, (ロ)職業補導における勉否およびその成績, (ハ)操行の良否, (ニ)責任観念および意志の強弱,の各項目に対する評価を総合して定めることになっている。 一級の在院者に対しては,特別の居室,日用品および器具の使用や,特別の服装が許されるほか,単独外出,単独帰省などが許され,また,自治委員会をつくらせるなど,とくに向上した取扱いがなされることになっている。 [3] 教科教育 すでにIII-82表で示したように,三九年における義務教育未修了者は,新収容者八,三〇〇人のうち,二,〇三四人(二四%強)である。そこで,少年院,とくに初等少年院においては,これらの者に対して,義務教育を授けることに重点がおかれている。教育の対象者である在院生の多くは,規則正しい勉学の習慣に乏しいばかりか,学習の意欲に欠けた者が多いうえに,学力の程度が,不就学,小学卒,中学中退などまちまちであり,それに加えて,入院の時期が一定でないため,少年院における教科教育には,一般の学校教育とは比較にならない困難な条件が重なっている。 なお,少年院の長は,右の教科に関する事項については,文部大臣の勧告に従わねばならないが,他面,教科を修了した者に対し,教科を修了した事実を証する証明書を発行することができることになっている。この証明書は,各学校の長が授与する卒業証書その他の証書と同じ効力を有する。当局の調査によれば,昭和三九年度に修了または卒業証明書を授与された人員は,小学校卒業八人,中学校修了七九人,同卒業一,一四九人となっており,合計一,二三六人の在院生が証明書を得ている。 なお,義務教育をすでに修了してきた者に対しては,社会生活に必要な知識,技能の補修教育を施すことを主眼とした教科教育を実施しており,III-89表は,昭和三九年一二月三一日現在の教科学級編入人員と学級数を示したものである。ちなみに,同日現在における教員免許状を取得している少年院の職員数は,四六九人である。 [4] 職業補導 III-80表で前述したように,三九年の新収容者のうち,無職者は四,〇〇四人で,その割合は,男子において四七・二%,女子において五八・八%の高率を占めている。したがって,在院者の大部分は,職業に関する経験,知識,理解が乏しく,かりに,職業経験をもつ者も,そのほとんどが単純労働であり,しかも,転職回数が多いため,その年令とも相まって,職業的な技能を有する者は,きわめて少数である。このような少年に対して,労働を重んずる態度と規則正しい勤労の習慣を養い,職業生活に必要な知識と技能を授けることにより,退院後の職業選択の能力を伸ばし,さらには,独立自活できるように指導することは,容易なことではないのである。 現在,少年院において実施されている職業補導の種目および補導を受けている人員は,III-90表に示すとおりである。同表にみられるように,農耕(一,八二四人),木工(六九五人),園芸(五六五人),工作(五一六人)などが男子に多く,女子にあっては,洋裁,手芸,家事サービスなどが多い。 職業補導を受けた在院者が,在院中に,なんらかの職業に関する資格や免許を取得することは,出院後の就職を容易にするばかりでなく,自己の知識や技能に自信をもたせる意味で,本人の更生上きわめて意義のあることが明らかなものとして,少年院においては,少年が在院中にできるかぎりの資格や免許取得の機会を与えるよう努めている。III-91表は最近五か年間における諸種の資格免許の受験者とその合格者の人数を示したものである。同表によれば,積極的に受験する在院生が,逐年増加していることがわかる。 さらに,資格や免許の取得人員と合格率を種目別にみたのがIII-92表で,種目としては珠算が最も多く,自動車運転がこれについでいる。 少年院には,教科教育および職業補導と関連して,公費による通信教育制度がある。当局の調査によれば,三九年度における受講者の総数は三,一四四人で,講座の内容は簿記事務,孔版,自動車,英語,書道,洋裁,編物,ラジオ・テレビ,電気・無線,建築,美術絵画,などがあって,受講者数は,自動車の九九四人を筆頭に,孔版五九六人,洋裁・編物二九六人,簿記事務二四八人が多く,この制度を活発に利用するための努力がなされている。 [5] 生活指導 少年院における生活指導は,少年の反社会的な考え方や行動様式などを改善するために,教科教育,職業補導など他の教育活動と関連を保ち,あるいはそれらを補足深化して統合する役割をもつ,重要な矯正教育活動の一つである。すなわち,入院当初には,日常生活における基本的な行動様式を身につけることを主眼に指導し,期間の経過に伴って,漸次,社会生活上必要な生活訓練を行ない,退院が近づいた者には,出院後の生活設計などについて指導する。 具体的な指導方法としては,社会教育講話,余暇活動,篤志委員面接,集団ならびに個別的心理療法などが活用されているほか,収容生活のあらゆる場面を利用して,職員による個別指導が行なわれている。 在院者に対する余暇活動のおもなものは,クラブ活動である。昭和三九年中のクラブ数は,五四六で,それに参加した延人員は,一〇,九八二人となり,実施回数は,一九,八九四回に及んでいる。そのおもな文化活動としては,音楽(声楽,器楽),美術(絵画,版画,工芸,書道),文学(文芸,短歌,俳句)等が活発に行なわれており,体育活動としては,バレーボール,野球,卓球などに多くの者が参加している。 これらのほかに,少年院の教育行事として,在院生が参加する,映画観賞,運動会,遠足,作品展,弁(討)論会などを行なっている。 在院者のさまざまな悩みや問題解決に援助を与えるために,篤志面接委員制度があるが,昭和三九年中には,五七七人の委員が合計五,九二一回の面接を行なっている。最近三年間の面接回数および内容については,III-93表のとおりで,社会生活に破れた自己の精神的はんもんに関するものが最も多く,家庭や職業に関連した相談がこれについでおり,在院者の悩みの一端を示している。 なお,性格のかたよりが著しい少年に対しては,心理学,教育学,社会学などを専攻した職員などによる個別または集団カウンセリング,心理療法などを実施しており,かなりの効果を収めているが,この種の専門技術者の数が少ないため,一部の在院者に実施されるにとどまっている現状である。しかし,将来は,専門技術者による処遇を体系的に恒常化した組織的な活動とすることが望ましい。 III-89表 教科学級編入人員と学級数(昭和39年12月31日現在) III-90表 少年院職業補導種目別人員(昭和39年12月31日現在) III-91表 資格免許の受験者合格者数(昭和35〜39) III-92表 資格免許の取得人員(昭和39年) III-93表 篤志面接の内容別実施回数(昭和37〜39年) (三) 医療衛生・給養 心身に著しい故障のある者を収容し,これに治療を施す専門の施設である医療少年院,少年院付設医療センターおよび専門施設は,III-94表のとおりで,それら施設の総収容定員は一,〇二六人である。矯正局の調査によれば,昭和三九年一二月末日現在,医師七七人,非常勤医師一七人,薬剤師七人のほか,レントゲン技師三人,栄養士一七人,衛生検査技師二人および看護婦(夫)の資格を有する者五七人がおり,それぞれの医療関係業務に従事している。
III-94表 少年関係医療センター(昭和40年6月30日現在) 患者については,矯正局の調査によれば,昭和三九年一一月末日現在,休養患者(一般の入院患者にあたる。)二四五人,非休養患者(一般の通院患者にあたる。)一,四五七人であって,これを病名別にみると,精神病などの精神障害が最も多く(二二・六%),ついで,伝染病および寄生虫病(一八・〇%),神経系および感覚器の疾患(一四・八%),消化器系の疾患(一三・〇%)の順になっている。矯正施設では,衛生管理,とくに伝染病の予防については,細心の注意がはらわれており,各施設とも,上下水道,し尿処理設備の改善,衛生教育,予防接種の励行,検便などを行なうよう努力している。 在院者に与えられる食事は,男子一人一日三,〇〇〇カロリー(主食二,四〇〇カロリー,副食六〇〇カロリー),女子の場合は,主食が一〇〇カロリー少なく,二,九〇〇カロリーとなっている。副食費は,昭和四〇年一二月末日で,在院者一人一日あたり,三三円七二銭である。 なお,在院者には,一定の衣類や寝具,学用品その他日常生活に必要な物品が貸与または給与されている。自弁品の使用は,規律および衛生に害がないかぎり許可される。 (四) 規律違反と懲戒 在院者のすべては,なんらかの形で,一般社会の秩序を乱し,または,乱すおそれが多く,その矯正を目的として,少年院に送致されたものであるので,入院後も,にわかに少年院の規律ある生活になじめず,ともすれば,入院前の気ままな生活様式を院内にもちこみ,明るく平和であるべき院内の教育的なふん囲気を乱しがちである。その行動のおもなものは,逃走,暴行,ボス的行動,反則行為などである。
少年院の長は,規律に違反した在院者に対して,つぎに掲げる範囲にかぎり,懲戒を行なうことができることになっている。すなわち, [1]厳重な訓戒を加えること, [2]成績に対して通常与える点数より減じた点数を与えること, [3]二〇日を超えない期間,衛生的な単独室で謹慎させること,の三種である。なお,懲戒は,本人の心身の状況に注意して行なうことはいうまでもない。これらの懲戒を受けた者の規律違反行為をみると,同僚同志のけんか,暴力行為,喫煙,逃走,不正物品所持,自傷行為,物品窃取,物品破棄などがあげられる。 規律違反者に対する以上のような懲戒は,いわば応急的な処置であり,真の対策は,そのような違反行為の裏側に潜む原因を追求し,規律違反の再発のみならず,これを未然に防止するのでなければならない。そして,この使命を果たすためには,なお,少年院における職員の増員と施設の整備が望まれるわけである。 |