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 昭和41年版 犯罪白書 第三編/第三章/二 

二 少年検察

 少年検察のおもな対象は,犯罪少年の事件であるが,罰金以下の刑にあたる罪を犯した少年は,警察から直接に家庭裁判所に送致されることになっている(少年法第四一条)から,少年検察の対象となる犯罪少年は,それ以外の禁錮以上の刑(すなわち,禁錮,懲役または死刑)にあたる罪を犯した者である。
 ところで,全国の検察庁が昭和三九年に新たに受理した少年事件の被疑者総数は,検察統計年報によると,七三九,一六七人(検察庁間の移送,家庭裁判所からの送致および再起を除いた数であって,これを通常受理人員数という。)である。これを,刑法犯,道交違反および道交違反以外の特別法犯の三者別にその内訳をみると,刑法犯は,総数の二六・二%にあたる一九三,八九五人,特別法犯は,総数の二・八%にあたる二〇,六七六人で,道交違反は,総数の七一・〇%を占める五二四,五九六人である。
 III-46表は,少年事件の通常受理人員総数について,年令層別に過去五年間の動きを示したものであるが,これをみると,年により多少の起伏はあるものの,刑法犯,特別法犯および道交違反のいずれにおいても増加の傾向にあり,とくに,一四〜一五歳の年少少年において増加率が顕著である。すなわち,昭和三五年に比べ,昭和三九年には,受理人員総数において,一六〜一七歳の中間層で約一・五倍,一八〜一九歳の年長層で約一・〇一倍であるのに対し,一四〜一五歳の年少層では約一・八倍になっている。

III-46表 少年被疑者の年令層別通常受理人員(昭和35〜39年)

 さて,検察官は,少年の被疑事件について捜査を行ない,その結果,犯罪の嫌疑がなく,家庭裁判所の審判に付すべき理由もないと思料する場合には,その事件を不起訴処分に付する。また,重要関係人の取調べができず事実関係が明らかにできないなどの理由で,事件の処理を一時中止することもある。しかし,このような例外の場合を除いて,検察官は,少年事件について捜査を遂げたときは,必ず事件を家庭裁判所に送致しなければならない(少年法第四二条)。少年事件以外の一般の事件については,検察官には,捜査完了の後,起訴,不起訴の処分を決する権限が専属させられているが,少年事件では,検察官にかような処分権限はない。家庭裁判所に送致するにあたっては,検察官は,少年の処遇に関し意見をつけることができることになっている。この検察官の意見は,家庭裁判所を拘束するものではないが,検察官が治安の維持および国の一貫した刑事政策の実現に寄与すべき職責をもつことにかんがみれば,それは重要な意義を有するものである。
 そこで,昭和三九年における検察庁の少年事件処理状況を検察統計年報によってみると,既済総数(家庭裁判所からいわゆる逆送を受けたものを除く。)は,八〇九,六〇四人であり,そのうち,家庭裁判所送致は,九〇・三%にあたる七三一,五〇〇人である。そのほか,検察庁間の移送等が七七,五七一人で,不起訴・中止は五三三人となっている。検察官は,少年を家庭裁判所に送致するにあたり,前述のように処遇意見を付しているが,その意見別に,送致人員を刑法犯,特別法犯および道交違反の三つに分けてみてみると,III-47表のとおりである。この表によると,刑事処分を相当とする旨の意見を付したものの割合が最も多いのは,道交違反の四七・六%で,刑法犯の一四・一%,特別法犯の四・三%の順となっている。つぎに,少年院送致の処分を相当とする旨の意見を付したものおよび保護観察処分を相当とする旨の意見を付したものの割合をみると,いずれも刑法犯が最も多く,特別法犯,道交違反の順となっていることがわかる。道交違反の約半数について,刑事処分を相当とする意見を付しており,保護処分を相当とする意見を付したものが著しく少ないことが目だっているが,これは,道路交通関係法規が行政取締法規であることを重視しているとともに,道交違反には保護処分になじむものが少ないことによるものと思われる。

III-47表 罪種別検察官処遇意見(昭和39年)

 ところで,検察官の扱う少年事件には,右のほかに,家庭裁判所からいわゆる逆送されたものもあり,この逆送を受けなければ,検察官は,少年事件に対して公訴を提起できないし,また,逆送を受けた事件は,原則として公訴を提起しなければならない(少年法第四五条第五号)。そこで,少年法第二〇条等の規定によって,家庭裁判所から送致されたものについて,各罪種別に,昭和三九年中における検察庁の処理状況をみると,III-48表のとおりである。これによると,既済総数二二九,二七九人のうち,道交違反が二〇四,八六一人で,総数の八九・三%を占め,刑法犯は二四,〇四三人で,一〇・五%,その他の特別法犯は三七五人で,〇・二%となっている。

III-48表 検察庁における少年被疑事件の処理状況(既済) (少年法20条等の規定により家庭裁判所から送致のあったもの)(昭和39年)

 つぎに,起訴された者について罪種別にみると,起訴総数一〇二,一九三人のうち,道交違反が九一,一八一人と圧倒的に多数であり,刑法犯は一〇,八一五人である。刑法犯について,さらに罪名別にみると,過失傷害が八,五五二人で大多数を占め,窃盗の七一八人,傷害の五八三人,強かんの二三五人,恐かつの一九八人,強盗の一九四人,殺人の一一八人がこれについでいる。過失傷害の大部分は,交通関係の過失事犯であるから,結局,少年事件の起訴人員のきわめて多くが,交通関係事犯によって占められていることがわかる。