3 少年犯罪の特徴および少年の犯罪性の問題 右に述べたような青少年期(とくにその中期以前の時期)にある者の精神特徴は,かなりの程度までかれらの犯罪面にも反映している。すなわち,少年の犯罪は,外形的に成人のそれに似ていても,注意して観察すれば,しばしば,いかにも少年らしいともいうべき特徴を示す。いまその主な数点を思いつくままに列挙しつつ,多少の説明を加えれば,つぎのとおりである(ただし,以下の諸点が必ずしも絶対的特徴とはいえないものであることは,念のため付言する。)。 (1) 犯罪の動機が著しく自己中心的で,かつ,犯罪行動が衝動的であり,欲求不満を,他人を攻撃したり,物品を破壊したりすることによって解消しようとする傾向が強い。 (2) 犯罪の手口などについて模倣性が強く,また,流行を追う傾向を示す。これについては,いわゆる不良文化財の影響などの社会的環境要因が重要な役割を演じうるわけであるが,罪を犯す少年の側に,青少年期心理の特徴である被影響性または被暗示性のこう進という要因の存することも無視できない。つぎに,流行に敏感であることは,青少年期の一特徴であり,このことは,犯罪実行の面についても肯定しうることである。 (3) 犯罪行為について,無計画性と連続性が認められる。この二つは相互に関連するものであるが,なお,これに地域移動性が加わると,いわゆる連鎖的犯罪を発生せしめる。最初,無計画になされた犯罪(偶発犯罪とも考えられるようなもの)が,一回の成功によって次回の犯罪を誘発し,さらに,あたかも下り坂を転落するように,加速度的に多数の犯罪を発生せしめることがありうる。このような場合,発見または検挙がおくれると,犯罪が常習化し,固定化する危険がある。このような事実は,青少年期心理の一特徴である「ブレーキの喪失」と関連するものであり,少年の精神的・社会的成熟における遅滞が高度であればあるほど,将来,常習性犯罪者への運命をたどることが懸念される。 (4) 犯罪行為の無軌道性が認められる。これは,前述の(3)の点とも関連する点であり,「目的のためには手段を選ばない。」という傾向が強いことをいう。青少年期心理の一つとして,権威に対する反抗などのあることはすでに述べたが,このような心理機制が無軌道性に加わると,学校教師に対する暴行,尊属殺人などの形式で発現することがありうる。 (5) 弱者・抵抗力のない者に対し,きわめて残忍ともいいうる攻撃性を示すことがある。精神的成熟の遅れた少年の心理の根底にサド・マゾヒズム欲求が内在することは,よく知られた事実である。かれらは自分より強い者には屈伏し,自分より弱い者は徹底的にいじめようとする。いわゆるチンピラやくざ気質には,この傾向が顕著である。 (6) 異性関係において歪曲性が認められる。これは,いわば極端な独占欲から生ずるものであるが,愛情のもつれ,ライバル意識などからの殺人,傷害などは珍しいことではない。青少年期において情愛欲求が異常にこう進するとき,しばしばそれの社会化,人間化,昇華が行なわれず,反社会的行動を招来するということは,たやすく肯定しうるところである。 以上,少年犯罪について若干の特徴的事実を述べたが,つぎに,少年の犯罪性の問題について一言する。ここに犯罪性の問題というのは,行為者が将来犯罪を累行する傾向を有するかどうかという問題である。 周知のように,青少年期に犯罪を行なった者が,すべて一生を犯罪者として送るわけではない。われわれは,青少年期に窃盗,暴行その他の非行を重ねて,両親,友人,学校教師,警察などをてこずらせた少年が,青少年期の経過とともにいわば自然治癒的にその態度を改め(もちろん両親その他の人々の改善の努力が影響している場合も多かろうが,この点は,さしあたり別論とする。),その後は,社会人として人並または人並以上の生活をしている例をかなり多く知っている。ちなみに,アメリカの学者の二,三の研究によれば,普通の(すなわち一応非行がないと想像される。)若干の高校生に対して,窃盗などの非行経験の有無について質問調査を行なったところ,相当数の者が,その経験があると答えたとのことである。おそらく,この高校生の大部分は,窃盗などの非行が未発覚のうちに各自その態度を改めるにいたったものと想像される。これらの事実にかんがみるときは,青少年期の犯罪のうちには,青少年期の特徴である情緒不安定その他の要因により発生をみるが,青少年期が経過し,これらの要因の影響力がおさまるにつれて発生しなくなるもの,つまり一時的ともいいうるものがあり,そして,その例はかなり多数に上るように思われる(もちろん,これだけのことから,ただちに処遇または対策についての結論を導き出すことは妥当ではないと思うが,このような事実は,事実として留意しなければならないであろう。)。他方,従来,学者の指摘するところによれば,前述のごとく,精神病がしばしば青少年期に発病し,また精神病質的特性がこの時期に顕著となるように,のちに改善困難となる犯罪者の初期の犯罪が,多く青少年期に発生しているという注目すべき事実がある。それゆえに,少年犯罪の各事例については,必ずしも行為の外形にとらわれることなく,それが前述の一時的といいうる現象にすぎないか,または,改善困難な持続的犯罪の第一歩であるかを正確に判別することがきわめて緊要となってくる。そして,この判別のためには,豊かな精神医学その他の専門知識,洞察力,臨床経験などを必要とするのであり,実務家の中にそのような経験者がいるであろうとも考える。しかしながら,このような名人芸的能力のほかに,望ましいのは,判別のための具体的基準であるが,遺憾ながら,今日までの学問的水準では,このような具体的規準が確立されていないように思われる。もとより,従来一部の臨床精神医学者や臨床心理学者などが行ないつつある研究のらちには,この点の解明に役だつものも少なくないが,しかし,それらは,いずれもそれぞれの特殊領域内のものであり,問題を総合的立場において解決しうるものではない。思うに,この問題は,少年犯罪について,というよりは刑事学においての難問の一つであり,解決がきわめて容易ではない。今後,総合的な,また永続的な研究が期待されるゆえんである。
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