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2 両親のそろった家庭の少年による犯罪の増加 欠損家庭の少年に非行に走るものが多いことを理由として,親の欠損が非行化の要因の一つであると考えられたことがある。たしかに,少年の非行は,環境と密接な関連をもっており,家庭環境の影響はとくに大きい。家庭は,子供にとって最初の社会的環境であり,社会的,道徳的規範の基盤は,幼年期に形成され,家庭が重要な役割をもつことは否定することができない。
しかしながら,両親がそろっていても,ただそろっているというだけで,家庭が家庭としての役割を十分に果たしていない場合には,子供の健全な発達は阻害され,少年が非行化する例は,決してまれではないのである。 この点をまず矯正施設等に収容されている少年についてみると,この種の少年においては,たしかに欠損家庭の少年の割合が高い(三五%程度)。そして,これは,この種の少年が保護環境不充分のために施設に収容されたことを反映するものである。ところが,これに対して,警察で検挙された刑法犯少年をみると,両親のそろっている家庭の少年がはるかに多い。 そこで,刑法犯少年の両親の状況について,最近十年間の推移をみると,III-23表のとおりである。すなわち,昭和三〇年には,両親のそろっている家庭の少年は全体の七四%,欠損家庭の少年は二五%であったが,昭和三九年には,両親のそろっている家庭の少年は八四%と上昇し,欠損家庭の少年は一六%と低下している。 III-23表 家庭状況別刑法犯少年検挙人員(昭和j30,35,39年) 検挙人員総数は,昭和三九年には,昭和三〇年に比較して約二倍に増加しているが,両親の状況別にみると,両親のそろっている少年の増加が最も大きく,昭和三九年には昭和三〇年の二・二倍となっている。これに対して,両親ともにいない少年は,昭和三九年には昭和三〇年に比較して減少している。さらに刑法犯少年の検挙人員総数は,昭和三〇年には九六,九五六人であったが,昭和三九年には一九〇,四四二人であって,九三,四八六人の増加である。ところが,この増加人員のうちの八七,六九六人は,両親のそろっている家庭の少年であり,これは,増加人員の九四%にあたる。 このように,両親のそろっている少年の刑法犯が増加していることは,関係の家庭がその機能を十分に果たしておらず,その中になんらかの障害を有することを推察せしめるものである。その一例としてのいわゆる共稼ぎの問題を以下に指摘しておきたい。すなわち,法務総合研究所および法務省刑事局は,昭和四一年一月から同年三月までの期間に,東京,横浜,大阪,神戸の四地方検察庁で受理した少年事件のうち,無作為に抽出した八四五人の少年について実態調査を行なった(なお,これらの調査結果については,前節においても述べた。)。その結果によると,両親がそろっており,しかも,経済的生活状態が中以上の家庭において,全体の二一%は,両親が共稼ぎをしている家庭であった(ちなみに,昭和三九年の東京都民生局の調査によれば,都内の公立中学校では,両親共稼ぎ家庭の在籍児童生徒数に対する割合は一〇・九%である。)。いうまでもなく,これは,さしあたり検討を要すると考えられる一例にすぎないものであって,われわれは,共稼ぎが少年の非行化について有力な原因であることをただちに断定しようとするものではないけれども,最近の少年犯罪の増加の背景には,このような家庭がありうるということは忘れてはならないと考える。 |