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 昭和41年版 犯罪白書 第三編/第一章/二/1 

1 中流家庭少年による犯罪の増加

 かつて,犯罪少年が貧困な家庭に多いということを理由として,貧困その他の経済生活的要因が少年犯罪発生の有力な原因と考えられたことがある。しかし,前節でも抽象的に述べたとおり,近時の少年犯罪の増加が経済生活的要因によるものとは,たやすく永認することはできない。他方,これまでにしばしば指摘されていることであるが,近時,比較的に経済的に余裕のある中流以上の家庭に,かなり多くの非行少年がみられるのであって,これは,顕著な事実である。たとえば,警察に検挙された刑法犯少年の経済的生活状態別の推移を示せば,III-22表のとおりである。

III-22表 生活状態別少年刑法犯検挙人員(昭和30,35,39年)

 この表で明らかなように,経済的生活状態を五つの階層に分けると,昭和三〇年では,下流階層に属するものが最も多く,極貧層を含めると全体の六七%をしめ,中流階層に属するものは三二%であったが,昭和三九年には,この割合は,下流および極貧階層が四八%に減少し,中流階層が五一%に増加している。
 刑法犯少年の検挙人員総数は,昭和三〇年に比較すると,昭和三九年には約二倍に増加している。ところが,これを経済階層別にみると,下流階層では一・五倍に増加したにとどまっているのに反して,中流階層では三・二倍にと,いちじるしく増加している。また,検挙人員数は少ないが,上流,極豊層でも三倍以上に増加している。
 右の関係を一層わかりやすく看取するために,昭和三〇年を基準とした指数によって,経済階層別に,少年刑法犯検挙人員の昭和三九年までの年次別推移を示せば,III-3図のとおりである。これによれば,中流以上の家庭に属する少年に刑法犯の発生が増加しつつあることがきわめて明らかである。

III-3図 生活状態別少年刑法犯検挙人員の推移(昭和30〜39年)