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 昭和41年版 犯罪白書 第二編/第三章/一/2 

2 仮釈放の決定

(一) 仮釈放の準備手続としての在監・在院中の環境調査調整

 一般に,犯罪は素質と環境との相関関係であるといわれる。それだけに,犯罪者の更生を期する仮釈放においては,釈放前に,あらかじめ,釈放後の帰住先の環境が十分に調査され,望ましい環境に調整されておくことが強く要請される。
 この要請にもとづき,犯罪者が矯正施設に収容されると早々に,帰住先の環境が更生の場としてふさわしいかどうかを詳しく調査する。また,もし,保護者や家族から帰住を拒否されたり,家庭,近隣,職場,友人関係等に更生を妨げるような事情があれば,それを施設収容中に解決するなど,本人の円滑な社会復帰をはかるための調整を行なう。
 この環境の調査調整は,仮出獄および仮退院後の保護観察に先行する活動であるとともに,保護観察に直結する問題でもあるため,全国四九の保護観察所がこれを行なう。具体的には,保護観察所長の指名する担当者(保護観察官または保護司,二「更生保護」において詳述)がこれを行ない,その状況を,環境調査調整報告書によって,所属の保護観察所長に提出し,保護観察所長は,これに意見を付して地方更生保護委員会に送付する。
 この報告書は,仮釈放審理の重要な資料となる。また,その写しは,保護観察所長から本人が収容されている施設にも送付され,矯正施設における処遇の重要な参考ともなる。担当者は,本人が収容されている間は継続して調査調整を行ない,環境に著しい変動が生じたときは,そのつど,そうでない場合でも,少なくとも六月に一回は,その状況を環境追報告書によって保護観察所長に報告することになっている。
 最近五年間の環境調査調整事件の受理状況(保護観察所の長が,環境調査調整に関し,矯正施設の長あら身上調査書の送付を受けた数)はII-84表のとおりで,矯正施設収容者の増減に平行して,昭和三九年までは累年減少し,昭和四〇年には増加している。また,その処理状況はII-85表のとおりで,環境調査調整報告は,五年間の平均で,九三%が二月以内になされ,環境追報告も,相当数にのぼっている。さらに,保護観察所長が,地方更生保護委員会から,仮釈放の審理にあたり,環境の状況等について不明な事項または調整を要すると思料される事項の調査調整の委嘱を受けた状況は,II-86表のとおり,昭和四〇年はやや減少しているが,昭和三九年までは累年増加している。

II-84表 環境調査調整事件の受理状況(昭和36〜40年)

II-85表 環境調査調整報告と環境追報告状況(昭和36〜40年)

II-86表 地方更生保護委員会からの環境調査調整委嘱受理状況(昭和36〜40年)

 これらのことから,環境の調査調整が円滑に,しかも,綿密・積極的に行なわれていることがうかがわれる。

(二) 仮釈放の決定の状況

 仮釈放のうち,仮出場は保護観察との結びつきもなく,その人員もきわめて少ないので,ここでは省略し,仮出獄,婦人補導院仮退院および少年院仮退院の決定状況をみることにする。ただし,少年関係の仮釈放(少年院仮退院ほか)の詳細については,第三編第三章六「少年の仮釈放および保護観察」においてのべる。

(1) 仮出獄

(イ) 仮出獄許否の決定
 最近五年間の仮出獄許否決定の状況をみると,II-87表のとおりで,決定の人員は,累年減少しているにもかかわらず,棄却・不許可の人員は漸増し,したがって,棄却・不許可率も累年増加している。

II-87表 仮出獄許否の決定状況(昭和36〜40年)

 このように,仮出獄不相当として棄却・不許可になった者が増加していることは,審理の対象となる者のうち,再犯の危険性の強い者や更生を甚だしく困難ならしめる諸条件をもった者が少なくなく,これらに対する審理がきわめて慎重厳正に行なわれているためであろう。
 昭和三九年の仮出獄許否の決定状況を罪名別にみると,II-88表のとおりで,特別法犯の棄知・不許可率に,二八・五%で刑法犯の一三・五%の二倍以上の高率を示している。刑法犯で棄却・不許可率の高いのは,脅迫三四・〇%,とばく二一・〇%,強盗強かん二〇・〇%,住居侵入二〇・〇%,傷害一七・一%,殺人一六・一%,恐かつ一五・二%,放火一五・一%,わいせつ一四・九%の順であり,逆に低いのは,偽造六・九%,傷害致死七・一%,横領八・〇%,強かん九・六%,単純強盗一〇・八%,賍物一一・二%,強盗致死傷一二・三%,詐欺一二・九%の順となっている。特別法犯では,覚せい剤取締法違反三六・八%,麻薬取締法違反三二・〇%の棄却・不許可率がとくに高い。

II-88表 罪名別仮出獄決定ならびに仮出獄取消状況(昭和39年)

 つぎに,年令別に二三歳以上と二三歳未満に区分してみると,II-89表のとおりで,二三歳以上の者が二三歳未満の者より棄却・不許可率が各年度を通じて高い。

II-89表 年令別仮出獄決定状況(昭和35〜39年)

(ロ) 仮出獄処分の当否
 仮出獄処分(仮出獄許否の決定)の当否を事後的に判断するための一つの判定資料として,仮出獄期間中の再犯または遵守事項違反による仮出獄取消の有無をみることが考えられる。
 最近五年間の仮出獄者の各経過年次ごとの仮出獄取消状況をみると,II-90表のとおりである。仮出獄当年に仮出獄を取り消された者は,五年間を通じて二%前後であり,この取消率は,次年度も同様であるが,三年目からは急減している。仮出獄当年を一年に数え,三年以内に仮出獄取消になった者は,昭和三五年の仮出獄者が四・一%,昭和三六,三七年がともに四・四%である。また,五年以内の取消率は,昭和三五年の仮出獄者で四・三%を示している。これらのことから,仮出獄の取消率は,一般に低率ということができよう。

II-90表 仮出獄の取消を受けた者の状況(昭和35〜39年)

 もっとも,この場合,仮出獄や取消しの年次は同一であっても,年度始めと終りのそれでは,その間一年ないし二年近い日時のずれがあって,仮出獄取消までの期間は正確とはいえない。また,仮出獄期間中に犯罪を犯しても,仮出獄取消の手続がとられないうちに仮出獄期間を経過する等の事情により,取り消されるまでに至らなかった者が含まれていないことから,取消率がそのまま仮出獄期間中の再犯を示すものとはいえない。そこで,さきに法務総合研究所が仮出獄者の一部について,その成行きを調べた資料(関東地方更生保護委員会が昭和三六年に仮出獄許否の決定をした全ケースのうちから三,三二〇人を抽出し,うち,同委員会の記録および警察指紋原紙による調査が可能で,仮出獄許可となり,現に仮出獄した二,五四〇人について,仮出獄後一年六月の間に警察に逮捕された者の割合―再逮捕率―を調べたもの)があるので,これによって仮出獄後一年六月以内で,仮出獄期間中再犯(再逮捕をもって再犯とみなす。)を犯したものをみると,II-91表のとおりで,その再犯率は五・〇%で,やはり低率ということができよう。

II-91表 再犯と再犯時の状況

 以上のことから,仮出獄の審理,許否の決定は適正・妥当に行なわれているとみることもできよう。
 しかし,II-91表にみるとおり,仮出獄期間終了後の再犯が期間中のそれに比べ相当の高率を示していることは,仮出獄処分が,単に仮出獄期間中だけでなく,仮出獄期間経過後も,再犯におちいらないことを期待しているだけに,仮出獄の決定の現状は,必ずしも当をえたものとはいえまい。また,個々の事項について考察すれば,罪名別では,前掲II-88表のとおり,棄却・不許可率の低い単純強盗,強盗致死傷に仮出獄取消率が高く,年令別でも,棄却・不許可率の低い二三歳未満(前掲II-89表)の者に仮出獄取消率がII-92表のとおり高くなっていることから,仮出獄許否の決定には,なおいっそうの検討を要するものがあるといえよう。そして,この検討には,今日,委員が事務負担過重のため(昭和四〇年関東地方更生保護委員会委員の一人当りの月平均処理件数約一〇〇件),仮出獄の審理により以上の力を傾注できない苦境にあることも,十分にしんしゃくされなければならないことはいうまでもなかろう。

II-92表 年令別仮出獄許可人員,取消人員とその率(昭和35〜39年)

 また,仮出獄が,保護観察によって,改善・更生をはかろうとするものであることを考えれば,保護観察期間(仮出獄期間)があまり短くては,その効果をあげることは困難である。このことは,前述の法務総合研究所の調査で,仮出獄期間別の成行きをみたII-93表によって,仮出獄期間一五日以内の仮出獄者の再逮捕率が四五・五%,同じく一五日をこえ一月以内の者で四二・八%,一月をこえ二月以内の者で三三・三%,二月をこえ三月以内の者で二八・七%の再逮捕率というように,短期仮出獄者の再逮捕率の高いことが示されていることからもうかがえよう。そこで最近五年間の仮出獄期間を全国統計によってみれば,II-94表のとおり,五年間の平均で一五日以内が九・三%,一五日をこえ一月以内が二〇・一%,一月をこえ二月以内が二三・一%で,二月以内の累計では,実に五二・五%を占め,短期の仮出獄者がきわめて多い。

II-93表 仮出獄期間別再逮捕状況

II-94表 全国仮出獄者の仮出獄期間別人員(昭和35〜39年)

 このように仮出獄期間が短いことは,一般に刑期の短いものが多いこと(最近五年間の平均でみて,新受刑者中刑期一年以下が約五〇%,二年以下の累計では約八〇%),有期刑では刑期の三分の一を経過しなければ仮出獄は考えられないこと,刑務所で必要な矯正教育を行なうには相当の期間が必要であることなどの諸事情が交錯し,結局,最後の仮出獄の段階になると,もはや,刑期がわずかしか残されていないことに起因するところが大きいと思われる。しかし,いずれにしても,仮出獄期間二月以内が半数以上を占めるということは,仮出獄者の社会復帰を助長するために必要にして十分な保護観察がほとんどの者に行なわれえないことを示すもので,これでは,せっかくの仮出獄制度も十分に生かされていないといえよう。そこでこのような現状を打破し,仮出獄制度を十分に活用しうる方策を樹立することが必要とされる。刑法改正準備草案第九〇条第二項において,仮釈放を許された者の保護観察期間は残刑期間とするが,その期間が六月に満たないときは六月としているのも,右の必要にこたえるものといえよう。

(2) 婦人補導院からの仮退院

 最近五年間における仮退院申請受理人員と許否決定の状況は,II-95表のとおりで,その人員はきわめて少なく,申請受理人員では,昭和三六年の九二人から同四〇年の七人に,許否決定人員では,同じく九〇人から四人に急減している。棄却・不許可率も仮出獄のそれに比べ低い。

II-95表 婦人補導院仮退院の申請受理と許否決定の状況(昭和36〜40年)

 つぎに,婦人補導院からの退院・仮退院別の出院状況をみると,II-96表のとおり,仮退院はきわめて少なく,しかも,累年急減し,昭和三六年の八七人から,同四〇年にはわずか三人となり,仮退院率も,昭和三六年は二一・九%であったものが,同四〇年には一・二%にまで低下し,大部分のもの,ことに昭和四〇年においては九八・八%までが退院で出院している。

II-96表 婦人補導院退院・仮退院別人員(昭和36〜40年)

 このように,婦人補導院収容者には,仮退院制度が活用されていないが,これは,娠人補導院収容者の多くが,心身面や家庭環境などに複雑な事情を有しており,しかも,法律上,収容期間が六月と定められているなど,活用困難な事情のためと思われる。しかし,右のような収容者であるだけに,仮退院制度を活用し,出院後ある期間,保護観察によって,社会復帰のための指導監督や補導援護の手がさしのべられるような工夫なり,施策が必要とされよう。