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 昭和41年版 犯罪白書 第二編/第二章/一/3 

3 刑務事故,反則,処遇困難者

(一) 刑務事故,懲罰事犯の発生

 昭和四〇年中に発生したおもな刑務事故は,六七件で,最近五年間で三九年の六二件についで少ない。昭和三五年以降のその内訳別件数は,II-64表のとおりである。このうち,とくに逃走事故について,戦後の経過をみると,II-65表のとおりで,昭和二〇年から二四年までの混乱動揺期には,平均一か年に四一九件,六四九人あり,収容者に対する千分比で八・六八もあったのが,社会情勢全般の安定とともに,急激に減少してきている。昭和四〇年は,戦後最小で,一七件,二二人であり,収容者に対する千分比で〇・三五である。

II-64表 刑務事故,懲罰事犯発生件数および受罰人員(昭和35〜40年)

II-65表 逃走事故の累年比較(昭和20〜40年)

 つぎに,昭和三九年中のおもな懲罰事犯受罰人員は,三二,〇九九人であり,一日平均収容人員が前年より二,六一三人(三・九%)減少しているにもかかわらず,受罰人員は,逆に八八八人(二・八%)増加している。これらの受罰者について,その事犯の種類をみると,II-66表のとおりで,「煙草所持」が最も多く(二〇・四%),「収容者,職員等に暴行」(一九・七%),「不正物品所持,授受等」(一三・四%)がこれについでいる。受刑者のみにみられるものは,「怠役」であり,比較的に多いものは,「不正物品所持,授受等」,「自傷」,「収容者,職員等を殺傷」であり,受刑者以外のものに多くみられるものは,「煙草所持」,「毀棄」,「逃走」である。

II-66表 おもな懲罰事犯別受罰人員(昭和39年)

 さて,刑務所における懲罰事犯のうち最も多い煙草については,所内の特定の場所での喫煙は許すべきではないかとの意見もあるが,監獄法改正準備会の審議のときも,賛否両論があって,なかなか結論の出ないむずかしい問題である。なお,一般の注意を喚起したいことに,煙草の反則のかげに,社会からの煙草の投入れがあるということである。種々の形で所内に投入された煙草を職員の手で収容者に渡る前に発見される量は,年間相当ばく大の数である。
 このような懲罰事犯は,多くの場合,「集団処遇困難者」として分類された者によってくりかえされている。II-67表は,昭和四〇年一二月二〇日現在の受刑者について,集団処遇の難易を調べたものであるが,「集団処遇困難者」は,調査総人員に対し,一五・六%である。分類別にこの割合をみると,H級(精神病,精神病質および精神薄弱で医療の対象となるもの)において,四五・四%と最も高率で,これについで,C級(刑期の長いもの)では,二四・一%,D級(少年法の適用を受けたもの)一六・八%となっている。なお,最近五年間における処遇の難易の状況を比較してみると,II-68表のとおりで,昭和三九年まで,困難者は,漸増の傾向にあったが,四〇年は,三九年の一六・四%から一五・六%と僅かに減少し,また,処遇容易の者も減少したが,それに対して,処遇やや困難の者が増加している。

II-67表 受刑者の分類級別処遇難易調べ(昭和40年12月20日現在)

II-68表 受刑者の処遇難易累年比較(昭和35〜40年)

 監獄法令には,収容者が施設の長の処遇に対して不服のあるときは,法務大臣に情願をすることができるように規定され,収容者の人権を守るための措置が講ぜられている。この情願の数は,最近一〇年間に相当の増加を示している。しかし,この収容者の権利がいつも正しく行使されているとは限らない。施設との闘争の手段として,ことをかまえて情願やその他行政訴訟,民事訴訟を行なう収容者が増加してきている。これらに対しては,カウンセリングその他の新しい処遇技術をもって対処しているほか,各管区に訟務担当者を置いて,不服の対象となりがちな処遇面の適正化について各施設を指導させるとともに,提起された各種訴訟の処理にあたらしめている。

(二) 刑務事故,懲罰事犯の処理

 昭和三九年中に懲罰を科された事犯三二,〇九九人について,懲罰の種類別受罰人員を調べると,II-69表のとおりである。事犯によっては,他の種類の懲罰が併科されることがあるので,受罰人員の合計は,実人員より多くなる。昭和三九年においては,主たる懲罰のほかに一人平均〇・九の他の懲罰が併科されている。

II-69表 懲罰の種類別受罰人員(昭和35〜39年)

 懲罰の種類別で最も多いのは,軽へい禁(二か月以内の期間,懲罰房に収容して,必要と認める場合のほかは,その房から出さないで反省黙居させる。)で,四一・三%,つぎが,文書・図画の閲読禁止で,四〇・六%である。懲罰として多く用いられるのは,以上の二種で,他のものは,一〇%以下である。
 在所中の行為により起訴された収容者の数は,昭和三九年中に三五五人で,その種別のうちでは,傷害が大部分を占めている。この起訴される者の数は,II-70表のとおり,最近引続き増加の傾向にある。

II-70表 在所中の行為により起訴された被収容者(昭和37〜39年)