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1 裁判の概況 (一) 確定裁判 昭和三九年に確定裁判を受けた者の総数は三,九八七,〇二一人である。この裁判結果別内訳を昭和三五年および同三七年と対比し,昭和三五年を一〇〇とする指数によって,その増減の状況を示すと,II-11表のとおりである。
II-11表 裁判結果別確定裁判を受けた人員(昭和35,37,39年) まず,確定裁判総数についてみると,昭和三五年に比べ,昭和三七年は約一・六倍,昭和三九年は約一・八倍というように,逐年その増加が著しい。つぎに目だっているのは,罰金刑の増加である。昭和三五年を一〇〇とすると,昭和三七年は二三二,昭和三九年は二六九という増加を示しており,かつ,その確定裁判総数のうちにおける割合も,昭和三五年の六七・五%から昭和三九年には九七・三%に達している。これは,昭和三五年以降激増した道交違反の大部分が罰金刑に処されている結果である。 つぎに目につくのは,科料の減少である。昭和三四年には総数の二七・九%を占めていた科料が,昭和三七年には〇・五%,昭和三九年には〇・二%に減少し,指数をみても,昭和三五年を一〇〇とすると,昭和三九年には一となっている。このように,科料が激減したのは,昭和三五年一二月二〇日施行の道路交通法により道交違反の法定刑から科料が大幅に削られ,道交違反に科料が科せられる余地が少なくなったこと,および,科料の上限が一千円未満であるために,それは比較的軽い犯罪行為にのみ適用されることとなり,それ以外の罪で他に選択刑がある場合には,あまり適用されなくなったことなどによるものであろう。 つぎに注目されるのは,禁錮の増加と懲役の減少である。すなわち,禁錮は,昭和三五年を一〇〇とすると,昭和三七年には二〇七,昭和三九年には二七六となっており,最近五年間に二・七倍以上となっている。これは自動車による過失致死傷事件の増加にともない,禁錮に処せられる者が多くなったことによる。これに反し,懲役は,昭和三五年を一〇〇とすると,昭和三七年は八八,昭和三九年には七八と減少している。罪名別にみると,この減少傾向は,窃盗,詐欺,横領,賍物故買等の財産犯に目だっている。 つぎに公訴棄却であるが,昭和三九年は昭和三四年の約二・八倍となっており,その増加が顕著である。これは主として道交違反事件の略式起訴の増加に伴い,略式命令不送達による公訴棄却がふえたためと思われる。しかし,それはそれとして,昭和三八年の三二,〇〇一人に対し,昭和三九年は五,九〇七人の減少を示していることは注目される。 つぎに,懲役と禁錮を刑期別に区分して,昭和三五年および昭和三七年と対比すると,II-12表(1),(2)のとおりである。 II-12表 自由刑の刑期等別人員(昭和35,37,39年) まず懲役についてみると,無期は,各年とも総数の〇・一%で,その実数も五九人ないし九三人にすぎない。有期懲役の中で目だっているのは,その実刑の中で一年以下が各年を通じ約五割を占め,三年以下を加えると,有期懲役実刑中の約九割を三年以下が占めていることである。しかも執行猶予の刑期は三年以下に限られるから,全体として,わが国の懲役の刑期は,比較的短期に集中していることが明らかである。つぎに目につくのは執行猶予が多いことで,例年約五割を占めている。このように執行猶予の率が高いことと,刑が短期に集中し,長期刑が比較的に少ないことが,戦後の科刑の大きな特色となっている。しかし,有期懲役の実刑のうち,三年をこえる刑の占める割合が,昭和三五年には七・〇%であったのが,昭和三七年は八・六%,昭和三九年は九・六%と増加しているのは,注目すべき傾向と思われる。つぎに禁錮についてみると,昭和三九年において,総数の七七・一%が執行猶予であり,残りの実刑のうち九二・二%が一年以下の刑である。ただ,禁錮の実刑のうち,刑期が一年をこえるものの割合が昭和三五年の三・六%から昭和三九年の七・八%と著しく増加しているのが注目される。禁錮刑に処されるのは,大部分が自動車による過失致死傷であるから,右の現象は,この種事犯に対する科刑がしだいに重くなりつつあることを示すものと思われる。 (二) 起訴後の勾留と保釈 裁判所は,被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で,被告人が定まった住居をもたないとき,罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき,あるいは逃亡し,または逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるときは,これを勾留することができる。勾留期間は,公訴提起の日から二か月間であるが,とくに継続して勾留する必要がある場合は,一か月ごとに更新される。しかし特定の場合以外は,この更新は一回に限られている。
II-13表は,最近五年間のうち,昭和三五年,同三七年および同三九年の各年末現在における勾留中の被告人の数とその勾留期間とを比率で示したものである。これによると,勾留期間が二か月以内のものは,総数の六〇%前後であり,これに三か月以内のものを加えると,六四-七四%となり,残りの二六-三六%のものが例外的に三か月をこえる勾留をうけたことになるが,長期の勾留,たとえば勾留期間が一年をこえるものは,総数の三-五%となっている。 II-13表 年末現在勾留中の者の勾留期間別百分率(昭和35,37,39年) つぎに,保釈についてみよう。勾留されている被告人は,保釈によって,一定の条件のもとに釈放される。この保釈には,保釈の請求があったとき,必ず保釈を許可しなければならないもの(必要的保釈という。また普通にこれを権利保釈ともいう。)と,必要的保釈には該当しないが,裁判所が適当と認めた場合に保釈を許すところの裁量保釈,および保釈の請求はないが,裁判所の職権により保釈を許すところの職権保釈,さらに勾留が不当に長くなったとき,請求をまってなされる刑訴法第九一条による保釈がある。昭和三五年から三九年までの五年間に,通常第一審の判決のあった被告人のうち,起訴時に勾留中であったもの,および第一審判決までに保釈によって釈放されたもの等の状況をみると,II-14表のとおりである。すなわち,昭和三九年は,通常第一審の判決があった九三,六七四人のうち,起訴時に勾留中であったものが六八・一%の六三,八一三人で,そのうちの三四・二%にあたる二一,八〇三人が保釈によって釈放されている。この保釈の率は,昭和三五年以降逐年増加の傾向を示している。起訴時勾留中であったものの率および実数は,II-14表の示すとおり,年々減少しているから,通常第一審終局時に身柄を拘束されている被告人の割合と実数が,年とともに減少していることが明らかであろう。 II-14表 通常第一審終局被告人の保釈状況(昭和35〜39年) 保釈されるためには,保釈保証金を納付しなければならない。この金額は,犯罪の性質および情状,証拠の証明力ならびに被告人の性格および資産などを考慮して,裁判所がきめるが,要するに,被告人が逃走することを防ぎ,公判廷へ出頭することを確保するに足りる相当な金額であることが必要である。いま,昭和三五年から三九年に至る五年間の通常第一審終局被告人につき,保釈保証金の金額別の分布をみると,II-15表のとおりである。この表によると,逐年,比較的低額のものが減少し,高額のものが増加していることがわかる。そのうち,とくに,一万円以上五万円未満のものが,昭和三五年には総数の約七七%という多数を占めていたのが,その後減少し,昭和三九年には,総数の約三八%となったのに比べ,五万円以上十万円未満のものが,昭和三五年には総数の約一五%であったのに,その割合が年とともに増加し,昭和三九年には総数の約四〇%となっていることが注目される。II-15表 保釈保証金額別百分率(昭和35〜39年) (三) 公判の審理期間 憲法第三七条は,被告人に対し迅速な裁判を受ける権利を保障し,刑事訴訟法第一条は,これをうけて,適正迅速な裁判の実現を刑事手続の理念の一つとして掲げている。そこで,公判手続による裁判の審理期間の点を,つぎに検討する。
最近七年間における通常第一審の既済事件および未済事件の各平均審理期間(既済事件については,被告人一人当りの起訴から第一審判決までの期間をいい,未済事件については,被告人一人当りの起訴から各年末までの係属期間をいう。)を,通常第一審全体および裁判所別に区別して示すと,II-16表のとおりである。これによると,昭和三九年における地方裁判所の平均審理期間は,既済事件が五・九月,未済事件が一二・〇月であり,簡易裁判所のそれは,既済事件が四・二月,未済事件が九・六月であることがわかる。地方裁判所の平均審理期間が既済,未済いずれについても,簡易裁判所より長くなっているが,これは,地方裁判所が簡易裁判所に比べて,複雑な事件を取り扱うためであろう。また,II-16表により平均審理期間の推移をみると,地方裁判所は,年により多少の増減はあるもののほぼ横ばい状態にあるのに対し,簡易裁判所は,既済,未済いずれにおいても逐年延伸の傾向を示していることは注意を要する現象と思われる。 II-16表 通常第一審事件の平均審理期間(単位・月)(昭和33〜39年) (四) 上訴 第一審判決に対する控訴率は,昭和三一年から昭和三三年にかけ,減少の傾向にあったが,昭和三四年以降増加の傾向をみせている。II-17表は,昭和三一年から昭和三九年までの上訴率の推移を示したものであるが,これによると,控訴率は平均約一二%ないし一五%で,各年とも簡裁事件の控訴率が地裁事件のそれより著しく低いことがわかる。上告率は,控訴率に比べてきわめて高く,四〇%前後を上下している。
II-17表 上訴率の推移(昭和31〜39年) つぎに,控訴,上告には,検察官のする場合と,被告人側のする場合と,その双方からする場合との三とおりがある。司法統計年報により,昭和三九年の控訴審新受人員一二,〇四六人につき,右の三つの場合の比率をみると,検察官の控訴は七・四%で,双方からの控訴を合わせても一〇・九%であり,被告人側の控訴が約九〇%を占めている。上告になると,さらに,この比率の差は著しくなり,昭和三九年の上告審新受人員三,九二三人のうち,検察官の上告は,双方からの上告を合わせても〇・四%にすぎず,九九・六%は被告人側の上告によるものである。右に述べた控訴または上告の申立人別の比率は例年ほぼ同様の数字を示している。つぎに,上訴の結果であるが,最近五年間のうち,昭和三五年,同三七年および同三九年の状況は,II-18,19表のとおりである。すなわち,控訴棄却率は五八・四%ないし六一・三%であり,これに控訴取下げの率を加えると,三年間を通じ,約七五%は,控訴がその目的を達しなかった率といえる。これは全控訴申立事件についての裁判結果であるが,検察官控訴の棄却率は右三年間を通じ約三七%であり,被告人側の控訴が棄却される率よりかなり低くなっている。また上告棄却は八一・七%ないし八四・五%で,これに上告取下げを加えると,その合計は約九九%にも達し,破棄率は,わずか約一%にすぎない。このことと,上告申立ての約九九%が被告人側の上告であることを考えあわせると,被告人側が行なう上訴申立て,とくに上告申立てには,理由のないものが多く,これが裁判所の大きな負担となり,ひいては,全般の訴訟遅延の一原因ともなっているのではないかと疑われる。 II-18表 控訴審終局被告人の終局区分別人員と率(昭和35,37,39年) II-19表 上告審終局被告人の終局区分別人員と率(昭和35,37,39年) つぎに,最近七年間における控訴事件および上告事件の各平均審理期間をみると,II-20,21表のとおりである。昭和三九年における控訴事件の平均審理期間は,既済事件が六・四月,未済事件が七・七月となっており,上告事件のそれは,既済事件が七・四月,未済事件が六・六月となっている。また上告事件の平均審理期間が,既済,未済のいずれにおいても逐年短かくなっているのに比べ,控訴事件の平均審理期間は,さきに指摘した簡易裁判所事件(七四頁参照)と同様,既済,未済ともに延伸の傾向を示しているのが注目される。II-20表 控訴事件の平均審理期間(単位・月)(昭和33〜39年) II-21表 上告事件の平均審理期間(単位・月)(昭和33〜39年) |