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5 被疑事件の処理 (一) 概況 昭和三九年中に全国の検察庁で処理した被疑者の総数は七,六三二,〇〇四人であるが,この年間処理総数は,昭和三五年以来逐年増加しており,昭和三五年の処理総数を一〇〇とする指数により,その増加の状況を示すと一七三となる。これを処理区分別に示すと,II-6表のとおりである。
II-6表 処理区分別被疑者総数(昭和35〜39年) これによると,起訴数と検察庁間の移送の数が逐年増加し,昭和三九年においては昭和三五年のいずれも約二倍となっているのが目だっている。これら起訴数等の増加は,主として道交違反の増加による。つぎに,起訴された者について,起訴の手続別,すなわち公判請求,略式命令請求および即決裁判請求の三区分別に,最近五年間の推移をみると,II-7表のとおりである。これによれば,前述の起訴合計数の増加が主として略式命令請求の増加によるものであることが明らかである。また,公判請求の実数が昭和三六年以降減少していたのに,昭和三九年にはやや増加していること,および即決裁判請求が昭和三七年まで逐年増加していたのに,昭和三八年以降急激に減少していることが注目される。即決裁判手続は,元来道交違反事件を迅速に処理するために設けられた制度であるが,昭和三八年以降かように激減していることについては,同年一月一日から交通切符制度が実施されたことなどによるものと考えられる。 II-7表 起訴区分別被疑者処理人員(昭和35〜39年) (二) 起訴猶予 検察官は,捜査の結果,犯罪の嫌疑が証拠上充分である場合でも,犯人の性格,年令および境遇,犯罪の軽重および情状ならびに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは,公訴を提起しないとする処分をすることができる。これを起訴猶予という。起訴猶予は,検察官が刑事政策上の立場から,諸般の事情,すなわち,犯人の性格,年令,境遇といった主として犯人の危険性をあらわす要素や,犯罪の軽重,情状のような犯人の刑事責任に影響をおよぼす事情,さらには犯人の改悛とか示談の成立等犯罪後の情況を考慮して,必要ならざる刑罰をできるだけさけようとするものであり,これにより,真に裁判に値する事件だけが,検察官の手許で選択されて裁判所に持ちこまれるとともに,犯人に前科者という烙印を押すことなくその更生を可能にすることが期待されているわけである。ただ,現行の起訴猶予制度については,犯罪者の更生を積極的に助ける面で十分でないうらみがあるといわれている。そこで,昭和三四年一〇月以降,横浜地方検察庁ほか一一地検においては,主として二〇歳以上二五歳以下の犯罪者の一部の者を起訴猶予処分に付する際,本人の同意を条件として保護観察類似の更生保護の措置が講じられており,かなりの成績を上げている。以下主として統計面から,その運用状況をながめてみよう。
昭和三〇年から昭和三九年までの一〇年間のうち,昭和三〇年,同三三年,同三五年,同三七年および同三九年につき,検察官が起訴不起訴の終局的処理をした総数と起訴猶予人員との比率を,刑法犯,特別法犯および道交違反の三者別にみてみると,II-8表のとおりである。これによると,各年を通じ,起訴猶予率が最も高いのは特別法犯で,刑法犯,道交違反の順となっているが,道交違反の起訴猶予率が前二者と比べ著しく低いのが目だっている。また昭和三〇年以降の起訴猶予率の推移をみると,昭和三〇年において,刑法犯は四四・八%,特別法犯は四八・九%,道交違反は三一・九%であったのが,逐年低下の傾向を示し,昭和三九年においては,刑法犯は三一・一%,特別法犯は三八・六%,道交違反は一〇・二%となり,昭和三〇年と比べ,一〇%ないし二一%低い数字を示すに至っている。このように起訴猶予率が大幅に低下した理由につき検討してみると,まず道交違反については,最近におげる自動車等の急激な増加とこれに伴う道交違反の激増にかんがみ,交通秩序維持の強い要請に対処して採られた厳しい措置のあらわれということができるであろう(もっとも,年間数百万人に達する道交違反の約九〇%に刑罰を科していることが,現行法のもとにおける運用として止むを得ない措置としても,刑事政策的な見地から見て果して妥当であるか否かについては疑問をさしはさむ余地があり,すでに述べた道路交通法の反則行為に関する通告制度要綱案(四六頁参照)は,これが改善のための抜本的な対策として立案されたものである。)。 II-8表 検察庁処理事件中の起訴・起訴猶予等の百分率(昭和30,33,35,37,39年) つぎに,刑法犯および特別法犯につき,検察統計年報によって罪名別に起訴猶予率の推移をみると,昭和三〇年から昭和三九年にかけ,刑法犯および特別法犯を通じ,暴行,傷害,脅迫,恐かつ,暴力行為等処罰に関する法律違反等の暴力犯罪および公然わいせつ,わいせつ文書頒布等,とばく,風俗営業取締法違反等の風俗犯罪に対する起訴猶予率が累年著しく低下し,その反面,起訴率が高くなっているのが目だっており,このことが刑法犯および特別法犯全体の起訴猶予率の低下に大きく影響していることがわかる。このように暴力犯罪および風俗犯罪の起訴猶予率が低くなった理由については,なお詳細な検討を必要とするが,これらの犯罪に対する検察庁の処理方針が,しだいにきびしくなってきたことも,有力な原因の一つと思われる。 |