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 昭和41年版 犯罪白書 第一編/第二章/三 

三 公務員犯罪

 公務員犯罪は,公務員の職務に関して行なわれるもの(たとえば収賄)と,その職務に関係なく行なわれるものとの二つに大別される。
 最近公務員犯罪は漸増の傾向にある。すなわち,公務員で検挙されたものの数を刑法犯と特別法犯に区分してみると,I-48表のとおりである。

I-48表 公務員検挙人員(昭和35〜39年)

 このように,刑法犯も特別法犯も逐年増加し,なかでも特別法犯の増加が目だつ。しかし,I-49表のとおり,特別法犯の九八・八%までは交通関係法令違反となっている。刑法犯を罪名別にみると,窃盗,収賄,詐欺,業務上横領の順に多くなっており,公務員の窃盗が年々増加し,減少傾向にあった横領および業務上横領が昭和三九年に増加しているのが注目される。

I-49表 罪名別公務員犯罪検挙人員(昭和35〜39年)

 なお,公務員犯罪は,警察からの送致事件以外に,検察官が直接認知した事件および検察官に直接告訴または告発した事件が比較的多いので,検察庁の統計によってその推移をみておく必要がある。すなわち,I-50表によると,昭和四〇年の受理人員で最も多いのは収賄で,職権濫用がこれにつぎ,以下窃盗,横領,詐欺,偽造の順となっている。また,起訴率が最も高いのは収賄で,最も低いのが職権濫用となっているが,職権濫用の起訴率がきわめて低いのは,この種の事件の大部分は警察・検察庁・裁判所・矯正施設などの職員に対する告訴・告発事件であるが,もともと証拠が不十分のものが多いためである。

I-50表 公務員犯罪罪名別受理・処理人員調ベ(昭和36〜40年)

 収賄は,公務員の犯罪のなかで重要なものの一つであるが,I-50表にみたとおり,その数において公務員犯罪中最も高い比率を占めているうえに,この種犯罪は,公務員の職務の公正と各般の行政施策などの適正な運営を阻害する可能性の大きいものであり,また,官公庁に対する国民の不信を招来するのみならず,ひいては,国民全般の順法意識をも低下させるなどの弊害を有するものである。そして,この種犯罪に対する世論の批判もすこぶるきびしいのであるが,それにもかかわらず,今日なお依然としてその跡を絶たないばかりか,むしろ増加傾向にある。もとより,この種事犯については,特定の被害者というようなものが存在しないということもあって,その潜在性が強く,取締りもきわめで困難てあるので,統計面にあらわれた数字のみによって,その動向を断ずることは早計であろうが,上述した増加の傾向は,やはり注意を要するといってさしつかえないと考える。他面,近時の事犯は,ますます悪質,巧妙化しつつあるともいわれており,この種事犯に対する取締りの必要性は,いよいよ増大しつつあるということができよう。