前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和41年版 犯罪白書 第一編/第一章/三/1 

1 女子犯罪の推移

 昭和二一年から昭和三九年までの女子刑法犯検挙人員および人口比(女子有責人口一,〇〇〇人に対する刑法犯検挙人員),一審有罪人員および新受刑人員を掲げると,I-33表のとおりである。

I-33表 女子刑法犯検挙人員,一審有罪人員および新受刑人員(昭和21〜39年)

 まず,女子刑法犯検挙人員の推移を人口比によってみると,昭和二一年には一・三であったが,昭和二四年には一・九に上昇している。しかし,昭和二八年ごろから再び低下の傾向に転じ,昭和三一年から数年間の人口比は一・〇である。その後は,ごくわずかであるが,再び増加傾向にあり,昭和三九年の人口比は一・四である。昭和二四年から数年間,人口比は一時的に高くなっているが,この時期は,戦後の混乱期を経過したとはいえ,なお,経済状態も不安定であったため,女子の犯罪もまた,一時的に増加したものと思われる。しかし,その後は,一般の経済,社会状態が安定するとともに女子犯罪もまた減少した。
 しかし,最近数年間,女子刑法犯検挙人員は,再び上昇傾向をたどりはじめている。すなわち,昭和三五年における検挙人員は三四,六九九人であったが,昭和三九年には五四,九九三人と一・六倍に増加している。これを罪名別にみると,最も増加割合の高いものは業務上過失致死傷の五倍で,以下,窃盗一・九倍,恐かつ一・八倍の順である。実人員で多いのは窃盗であって,昭和三五年では二〇,七九五人,検挙人員総数の五九・九%であったが,昭和三九年には三八,八四四人で検挙人員総数の七〇・六%を占めるに至っており,増加人員も一八,〇四九人であって,この期間の増加総人員の八九%が窃盗によるものである。
 これら検挙人員の検察庁における処理状況をみると,たとえば,昭和三九年における刑法犯の起訴率(起訴人員/起訴人員+不起訴人員×100)は,女子二七%,男子六四%であり,起訴猶予率は女子六五%,男子二九%であって,女子では男子に比較して起訴されるものの割合は著しく少なく,反対に起訴猶予の割合は高い。この割合は,最近,数年間ほとんど一定している。
 さらに,一審有罪人員についてみると,昭和三四年以降増加の傾向にあり,三九年は,六,五八八人である。このうち,懲役または禁錮に処されたものは,約三分の一である。刑の執行猶予の割合をみると,たとえば,昭和三九年に第一審で懲役または禁錮に処された女子は二,二五八人であり,このうち一,五八六人(七〇・二%)に対し刑の執行が猶予されている(同年次の懲役刑,禁錮刑の男子では四九・二%が執行猶予となっている。)。この数年間女子では執行猶予の割合はおおむね七〇%程度である。このように,女子では刑の執行猶予割合がかなり高率であるため,受刑者として施設に入所する人員はきわめて少なく,しかもごくわずかずつではあるが年々減少傾向をみせている。
 つぎに,女子の犯罪の推移を男子のそれと比較してみよう。
 男子刑法犯検挙人員の人口比(男子有責人口一,〇〇〇人に対する刑法犯検挙人員)は,戦後二〇年間おおむね一六ないし二〇であるから,男子に比較して女子の犯罪は著しく少ない。
 女子の犯罪が男子に比較して少ないのは,女子は,生物学的に男子とは異なることのほかに,男子とは社会的諸条件にも差異があり,女子は社会的に活動することが少ないために,犯罪の機会も少ないためであるといわれている。そして,女子の社会的地位が向上し,活動範囲も広くなれば,女子の犯罪は増加するという論者があるが,わが国では,このような主張は,そのままではあてはまらないようである。けだし,戦後,多くの女子が社会的に進出するようになり,女子の活動範囲も急速に広まってきているが,これと平行して女子犯罪が増加しているとはいえない。
 統計の数字だけについていえば,女子の犯罪は,男子のそれに比して寛大に処分されているように思われるが,それは,女子の犯罪が比較的軽微であるためか,または,その他の事情によるものか,さしあたり不明である。