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令和4年版 犯罪白書 第7編/第3章/第1節/2

2 新型コロナウイルス感染症の感染拡大下における経済対策として新設された制度を悪用した犯罪

新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、多くの国民が生活や事業に影響を受けたことから、これを支援するために各種の給付金等を支給する制度が設けられたが、これらの制度を悪用し、給付金等をだまし取る詐欺(電子計算機使用詐欺を含む。以下この項において同じ。)事案が発生した。具体的には、<1>持続化給付金制度、<2>家賃支援給付金制度、<3>サービス産業消費喚起事業(Go Toトラベル事業)給付金制度、<4>雇用調整助成金・緊急雇用安定助成金制度、<5>総合支援資金制度等その他の給付金制度等をそれぞれ悪用した詐欺事案があった。

(1)持続化給付金制度の悪用事案

持続化給付金制度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、特に大きな影響を受けている事業者に対して、事業の継続を支え、再起の糧となるべく、事業全般に広く使える給付金を支給することを目的とした制度であり、令和2年5月から3年2月までの間に約441万件の申請がなされ、約424万件の中小企業・個人事業者に約5.5兆円の給付金が支給されたが、これらの申請の中には、事業を実施していないのに実施しているように装う、売上げの減少理由が同感染症の影響によらないのにそうであるかのように装う、支給対象であるかのように売上高を装うなど、実際は同給付金の支給要件を満たさないのにこれを満たすかのように装った不正な申請が含まれていた。このような不正な申請により持続化給付金をだまし取った詐欺事案につき、3年末までの検挙件数及び検挙人員は、4年8月17日時点の集計値で検挙件数2,578件、検挙人員2,866人(立件された被害額は合計約25億6,000万円)であった(警察庁刑事局の資料による。)。なお、同月10日時点で、持続化給付金の給付要件を満たさないにもかかわらず誤って申請を行い受給したなどとして同給付金の自主返還の申出が行われた件数は2万2,982件であり、そのうち返還済み件数は1万6,159件、返還済み金額は約173億3,500万円であった(経済産業省の資料による。)。

(2)家賃支援給付金制度の悪用事案

家賃支援給付金制度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い発出された緊急事態宣言(本編第2章3項参照)の延長等により売上げの減少に直面する事業者の事業継続を下支えするため、事業者に対し、その事業のために占有する土地、建物の賃料負担を軽減する給付金の支給を目的とした制度であるが、同給付金の申請の中にも、賃料を実際よりも高く偽って申請するなどの不正な申請が含まれていた。このような不正な申請により家賃支援給付金をだまし取った詐欺事案につき、令和3年末までの検挙件数及び検挙人員は、4年8月17日時点の集計値で検挙件数64件、検挙人員61人(立件された被害額は合計約1億7,400万円)であった(警察庁刑事局の資料による。)。なお、同月10日時点で、家賃支援給付金の給付要件を満たさないにもかかわらず誤って申請を行い受給したなどとして同給付金の自主返還の申出が行われた件数は1,212件であり、そのうち返還済み件数は1,109件、返還済み金額は約8億6,900万円であった(経済産業省の資料による。)。

(3)サービス産業消費喚起事業(Go Toトラベル事業)給付金制度の悪用事案

サービス産業消費喚起事業(Go Toトラベル事業)給付金制度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、全国の旅行業、宿泊業はもとより、旅客運送業や飲食業、物品販売業など地域経済全体が深刻な状況に追い込まれたことから、一定の条件を満たす旅行者に対し、給付金を支給することにより、感染拡大により失われた観光客の流れを取り戻し、観光地全体の消費を促すことで、地域経済に波及効果をもたらすことを目的とした制度である。同給付金の申請の中にも、実際は宿泊した事実がないのに宿泊したように装って給付金の申請を行うなどの不正な申請が含まれており、宿泊予約をすることによって、旅行先における商品購入に使用できる「地域共通クーポン」を受け取った後、宿泊予約をキャンセルする手口で「地域共通クーポン」をだまし取るなどの詐欺事案が発生した。このような不正な申請により、同給付金をだまし取った詐欺事案につき、令和3年末までの検挙件数及び検挙人員は、4年8月17日時点の集計値で検挙件数45件、検挙人員14人(立件された被害額は合計約1億4,800万円)であった(警察庁刑事局の資料による。)。

(4)雇用調整助成金・緊急雇用安定助成金制度の悪用事案

雇用調整助成金・緊急雇用安定助成金制度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、従業員の雇用維持を図るために、事業主に対して、休業手当等の一部を助成する制度であるが、これらの助成金の支給申請の中にも、雇用関係のない者を雇用関係があるように装ったり、休業の実態がないのに休業をしたことにするなどの不正な申請が含まれていた。このような不正な申請により雇用調整助成金・緊急雇用安定助成金をだまし取った詐欺事案につき、令和3年末までの検挙件数及び検挙人員は、4年8月17日時点の集計値で検挙件数24件、検挙人員23人(立件された被害額は合計約1億4,600万円)であった(警察庁刑事局の資料による。)。

(5)その他の給付金制度等の悪用事案

(1)ないし(4)以外にも、その他の給付金制度等を悪用した詐欺事案も確認されており、例えば、新型コロナウイルス感染症の影響によって失業するなどして収入が減少し、その収入減少が長期にわたることで日常生活の維持が困難な世帯に生活費を貸与する総合支援資金制度、同感染症の影響によって休業するなどして収入が減少した世帯に生活費を貸与する緊急小口資金制度、同感染症及びそのまん延防止の措置の影響により休業させられた労働者のうち、休業中に賃金(休業手当)を受けることができなかった者に対して支給される新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金制度、同感染症の感染拡大下において、家計への支援を行うための特別定額給付金制度、緊急事態宣言に伴う飲食店の時短営業等により影響を受け、売上げが減少した中小法人・個人事業者に対して、事業の継続を支援するため事業全般に広く使える支援金を給付する一時支援金制度等を悪用し、不正な申請により給付金等をだまし取った詐欺事案があった。これら(1)ないし(4)以外の給付金制度等を悪用した詐欺事案につき、令和3年末までの検挙件数及び検挙人員は、4年8月17日時点の集計値で検挙件数196件、検挙人員208人(立件された被害額は合計約6,490万円)であった(警察庁刑事局の資料による。)。