全対象者調査で把握した再犯ありの者のうち,特に,調査対象事件(平成28年1月1日から同年3月31日までの間に,第一審で詐欺により有罪判決の言渡しを受け,その後,有罪判決が確定した事件をいう。本章第1節参照)により全部執行猶予の判決の言渡しを受けた者であり,かつ,同年4月から31年3月までの約3年間に再犯に及び,再び有罪判決の言渡しを受けた者(最終的に有罪の裁判が確定した者に限る。)を対象として,裁判書等の資料に基づき,再犯状況に関する調査を行った。本調査では,調査対象事件の第一審判決言渡し後に一定期間の社会内生活を送ることが想定され,調査期間の確保も可能となる全部執行猶予者に焦点を当て,再犯者の特徴に関する示唆を得る目的で調査を実施した。再犯調査における「再犯」とは,調査対象事件の判決言渡し後に新たに行った犯罪により,再び罰金以上の刑で有罪判決の言渡しを受けた事件をいう(過失運転致死傷,道路交通法違反等による事件を含む。)。
再犯調査の対象者の総数は,84人であった。性別を見ると,男性79人(94.0%),女性5人(6.0%)であり,9割以上は男性であった。再犯の犯行時の年齢層を見ると,30歳未満の者(38人,45.2%)の構成比が最も高く,次いで,30歳代の者(18人,21.4%),40歳代の者(14人,16.7%),50~64歳の者(12人,14.3%),65歳以上の者(2人,2.4%)の順であった。調査対象事件の刑の種類を見ると,保護観察付全部執行猶予であった者が21人(25.0%),単純執行猶予であった者が63人(75.0%)であった。調査対象事件の手口(複数の事件で異なる手口がある者を除く。)を見ると,無銭飲食等(22人,27.8%)の構成比が最も高く,次いで,特殊詐欺(17人,21.5%),通帳等・携帯電話機の詐取(16人,20.3%)の順であった。調査対象事件の被害回復・示談の状況(既遂事件を行った者に限り,被害回復・示談の状況が不詳の者を除く。)を見ると,被害回復・弁償あり(一部の被害回復・弁償を含む。)の構成比(16人,34.8%)は,全対象者の構成比(64.6%。8-5-2-8図<1>参照)と比べて顕著に低く,示談あり(一部の被害者との間における示談を含む。)の構成比(7人,38.9%)も,全対象者の構成比(44.8%。8-5-2-8図<2>参照)と比べて低かった。再犯以前の前科の回数(自由刑に限る。調査対象事件を含む。)を見ると,2回以上の構成比が25.0%(21人)であり,このうち,調査対象事件以外に詐欺の前科を有する者は4人であった。再犯期間(不詳の者を除く。)を見ると,1年未満(37人,49.3%)の構成比が約5割を占めて最も高く,次いで,1年以上2年未満(19人,25.3%),2年以上3年未満(18人,24.0%)の順であった。
再犯調査対象者の再犯の罪名(重複計上による。)は,8-5-4-6図のとおりである。窃盗(32.1%)の割合が最も高く,次いで,詐欺(27.4%),傷害・暴行,住居侵入(いずれも7.1%),薬物犯罪(6.0%)の順であった。殺人,強盗及び性犯罪は,いずれも該当者がいなかった。
さらに,再犯の罪名が詐欺であった者(23人)について,犯行の手口別構成比を見ると,無銭飲食等(34.8%,8人)の構成比が最も高く,次いで,特殊詐欺(21.7%,5人)であった。再犯の事件数を見ると,1件の者の構成比が最も高く(65.2%,15人),2件以上の者は全て同じ手口を反復したものであった。また,調査対象事件と同じ手口であった者の人員は,13人(56.5%)であり,このうち,7人が無銭飲食等であり,3人が特殊詐欺であった。
再犯調査対象者の居住状況(再犯の判決時による。)別構成比は,8-5-4-7図のとおりである。住居なしの者の構成比は,約2割であり,全対象者の住居なしの者の構成比(19.9%。8-5-2-5表参照)と同程度であった。調査対象事件の刑の種類別に住居なしの者の構成比を見ると,保護観察付全部執行猶予であった者(28.6%)は,単純執行猶予であった者(15.9%)と比べて高かった。
再犯調査対象者の就労状況(再犯の判決時による。)別構成比は,8-5-4-8図のとおりである。無職の者の構成比は,約7割であり,全対象者の無職の者の構成比(58.5%。8-5-2-5表参照)と比べて高かった。調査対象事件の刑の種類別に無職の者の構成比を見ると,保護観察付全部執行猶予であった者(76.2%)は,単純執行猶予であった者(66.7%)と比べて高かった。
再犯調査対象者の再犯の動機・理由(重複計上による。)を見ると,「金ほしさ」の割合(14人,63.6%)が最も高く,次いで,「生活困窮」(9人,40.9%),「軽く考えていた」(8人,36.4%)の順であった。再犯の犯行の手口別に見ると,再犯の動機・理由に「金ほしさ」があった者は,特殊詐欺の構成比が最も高く(5人,35.7%),「生活困窮」があった者は,無銭飲食等の構成比が最も高かった(6人,66.7%)。また,再犯の動機・理由に「金ほしさ」があった者のうち,調査対象事件の動機・理由に「金ほしさ」があった者は3割に満たなかった一方,再犯の動機・理由に「生活困窮」があった者のうち半数以上は,調査対象事件の動機・理由に「生活困窮」があった(全対象者の調査対象事件の動機・理由は,8-5-2-9図参照)。