全対象者の人員は,1,343人(男性1,189人,女性154人)であり,犯行時の平均年齢は,38.5歳(男性38.2歳,女性41.6歳)であった。なお,最低年齢は,男性・女性共に18歳で,最高年齢は,男性77歳,女性80歳であった。
全対象者の総数(1,343人)から,異なる手口により2件以上の詐欺を行っていた者を除いた人員は,1,271人であった。異なる手口により2件以上の詐欺を行っていた者について見ると,無銭飲食等及び借用名目の金品詐取を行った者が5人,通帳等・携帯電話機の詐取及び偽造クレジットカード等使用詐欺を行った者が3人であるなど,いずれの組合せも多くはなかった。なお,異なる手口により2件以上の詐欺を行っていた者のうち,その手口に特殊詐欺を含む者について,特殊詐欺以外に行った詐欺の手口を見ると,通帳等・携帯電話機の詐取が2人,偽造クレジットカード等使用詐欺が1人,不動産利用詐欺が1人,その他が4人であった。
全対象者の総数(1,343人)から,異なる手口により2件以上の詐欺を行っていた者を除いた人員(1,271人)について,犯行の手口別構成比を見ると,8-5-2-4図のとおりである。特殊詐欺が31.5%(401人)と最も高く,次いで,通帳等・携帯電話機の詐取15.3%(194人),無銭飲食等11.3%(144人),保険金詐欺11.0%(140人),偽造クレジットカード等使用詐欺6.3%(80人)の順であった。以下,本章において,犯行の手口ごとの特徴を把握するため,犯行の手口別に全対象者の調査結果を見ることがあるが,その場合には,異なる手口により2件以上の詐欺を行っていた者を除くとともに,該当者数が多かった上位4手口を見ることとする(その他の手口については,CD-ROM参照)。
全対象者(各属性等が不詳の者を除く。)の属性等を総数・犯行の手口別に見ると,8-5-2-5表のとおりである。
犯行時の年齢層を見ると,特殊詐欺は30歳未満の者の構成比が56.6%と最も高く,無銭飲食等は50~64歳の者の構成比が34.7%と最も高い。
前科(調査対象事件より前の,道交違反又は道路交通取締法,同法施行令若しくは道路交通取締令の各違反を除く,罰金以上の刑に処せられた事件をいう。以下断りのない限り,この章において同じ。)の有無及びその内容を見ると,特殊詐欺(63.6%),通帳等・携帯電話機の詐取(62.4%)及び保険金詐欺(62.9%)は,前科を有しない者の構成比が高く,無銭飲食等(52.8%)は,同種前科を有する者の構成比が高かった。
全対象者のうち,確定判決において詐欺以外の罪も認定された者は341人(25.4%)であり,その主な罪名(重複計上による。)は,窃盗(158人)が最も多く,次いで,文書偽造(91人),薬物犯罪(覚醒剤取締法違反等の違法薬物に関する犯罪。以下この章において同じ。)(58人),住居侵入(29人),横領(遺失物等横領を含む。)(25人)の順であった。
全対象者(前科を有する者に限る。)について,同種前科の回数別構成比を総数・犯行の手口別に見ると,8-5-2-6図のとおりである。特殊詐欺(81.5%),通帳等・携帯電話機の詐取(79.5%)及び保険金詐欺(90.4%)は,同種前科を有しない者の構成比が高かったが,無銭飲食等は,同種前科を有しない者の構成比は37.2%にとどまり,同種前科5回以上を有する者の構成比が17.4%に上った。
全対象者(異なる手口で2件以上の詐欺を行っていた者を除く。)について,調査対象事件の詐欺被害額別(1人の対象者が2件以上の詐欺を行っていた場合はその合計金額をいい,複数の対象者による共犯事件については,それぞれの対象者に詐欺被害額を計上している。)構成比を総数・犯行の手口別に見ると,8-5-2-7図のとおりである。特殊詐欺(出し子がATMから引き出した現金を含む。)について,「なし」(22.2%)を除く構成比は,1,000万円以上5,000万円未満(27.4%)の構成比が最も高く,次いで,100万円以上500万円未満(24.2%),500万円以上1,000万円未満(12.0%),1億円以上(6.2%)の順であり,「なし」を除いて10万円未満はいなかった。無銭飲食等(59.0%)は1万円未満の構成比が,通帳等・携帯電話機の詐取(8.2%。なお,詐取した物が携帯電話機やタブレット等の販売価格があるものに限る。),偽造クレジットカード等使用詐欺(42.5%)及び借用名目の金品詐欺(24.6%)は10万円以上100万円未満の構成比が,買受け名目の金品詐取は1万円未満及び10万円以上100万円未満(それぞれ23.5%)の構成比が,保険金詐欺(43.6%),及び売付け名目の金品詐欺(25.4%)は100万円以上500万円未満の構成比が,それぞれ最も高かった(CD-ROM参照)。
全対象者(既遂事件を行った者に限る。また,被害回復・弁償の有無,示談の有無が不詳の者は,それぞれ除く。)の被害回復・示談別構成比を全対象者・全部執行猶予者別に見ると,8-5-2-8図のとおりである。全部執行猶予者のうち全部の被害回復・弁償をした者の構成比(40.1%)は,全対象者のうち全部の被害回復・弁償をした者の構成比(26.0%)を上回った。全部執行猶予者のうち全部の被害者と示談に至った者の構成比(37.8%)は,全対象者のうち全部の被害者と示談に至った者の構成比(24.1%)を上回った。
本特別調査においては,(特殊)詐欺に至る動機・理由及び背景事情・原因(以下「動機・背景事情」という。)として想定し得る項目をあらかじめ複数設定した上で,主として,全対象者調査及び再犯調査では,裁判書の記載内容を,確定記録調査では,これに加えて調査対象者の捜査段階及び裁判時における供述内容を基に,犯行に至った動機・背景事情として前記項目に該当するものを選別して集計する調査を行った(重複計上による。以下この章において同じ。)。
全対象者(犯行動機・理由が不詳の者を除く。)が詐欺を行った動機・理由を総数・犯行の手口別・年齢層別に見ると,8-5-2-9図のとおりである。
総数では,「金ほしさ」(60.4%),「生活困窮」(20.5%),「友人等からの勧誘」(19.1%),「軽く考えていた」(3.3%)の順に割合が高かった。犯行の手口別に見ると,特殊詐欺では,「金ほしさ」(70.1%)の割合が最も高く,次いで,「友人等からの勧誘」(36.1%),「生活困窮」(7.2%)の順であったが,他の手口と比べると,「友人等からの勧誘」の割合が高く,「生活困窮」の割合が低かった。また,「軽く考えていた」(5.8%)の割合は,総数(3.3%)及び他の手口より高かった。無銭飲食等では,「生活困窮」(51.4%)の割合が顕著に高く,「金ほしさ」(9.7%)の割合が総数及び他の手口より顕著に低かった。保険金詐欺では,「金ほしさ」(75.0%)の割合が総数及び他の手口より高く,「軽く考えていた」(1.3%)の割合が総数及び他の手口より低かった。
年齢層別に見ると,いずれの年齢層でも,「金ほしさ」の割合が最も高かった。「金ほしさ」に次いで高い割合を占めたのは,30歳未満の者では「友人等からの勧誘」(26.1%)であったが,その他の年齢層では「生活困窮」であった。特に,50~64歳の者及び65歳以上の者では,動機・理由に「生活困窮」があった者が約3分の1を占めた。
全対象者に対する有期の懲役の科刑状況別構成比を,総数・犯行の手口別に見ると,8-5-2-10図のとおりである。なお,全対象者の中には,詐欺以外の事件も含めて有罪判決を受けたものが含まれていることに留意する必要がある。
総数では,全部実刑の者(なお,一部執行猶予の者はいなかった。)が50.6%,全部執行猶予の者が49.4%であった。全部執行猶予の者のうち保護観察付全部執行猶予の者(50人)は3.7%であった(CD-ROM参照)。全部実刑の者の構成比は,詐欺の令和2年の地方裁判所における全部実刑の者の構成比(47.2%。8-3-1-36図参照)とおおむね同程度であった。総数について,実刑の刑期を見ると,2年以上3年以下の者の構成比(22.0%)が最も高く,次いで,3年を超え5年以下の者(12.4%),1年以上2年未満の者(10.0%),5年を超え10年以下の者(3.6%)の順であった。全部執行猶予を付された懲役刑の刑期を見ると,2年以上3年以下の者の構成比(28.4%)が最も高く,次いで,1年以上2年未満の者(20.6%),1年未満の者(0.4%)の順であった。
犯行の手口別に見ると,全部実刑の者の構成比は,無銭飲食等(69.4%)が最も高く,次いで,特殊詐欺(67.3%),保険金詐欺(25.0%),通帳等・携帯電話機の詐取(17.5%)の順であった(なお,無銭飲食等は同種前科を有する者の構成比が高いことに留意する必要がある(8-5-2-6図参照)。)。実刑の刑期を見ると,特殊詐欺及び保険金詐欺では,いずれも2年以上3年以下の者の構成比(それぞれ30.2%,12.9%)が最も高く,次いで,3年を超え5年以下の者(それぞれ21.2%,5.7%)の順であり,無銭飲食等及び通帳等・携帯電話機の詐取では,いずれも1年以上2年未満の者の構成比(それぞれ29.9%,6.7%)が最も高く,次いで,2年以上3年以下の者(それぞれ25.0%,5.7%)の順であった。5年を超える者の構成比は,特殊詐欺(9.0%(うち10年を超える者は0.7%))が顕著に高く,次いで,保険金詐欺(1.4%(同0.7%))であった。