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令和3年版 犯罪白書 第8編/第4章/第2節

第2節 更生保護

この節では,更生保護における詐欺事犯者に対する処遇について概観する。

地方更生保護委員会においては,生活環境の調整(第2編第5章第2節2項参照)において保護観察所に対する指導・助言・連絡調整を行い,調整機能の充実強化を図るとともに,刑事施設からの仮釈放又は少年院からの仮退院の審理において,被害者等から仮釈放・仮退院に関する意見等を聴取する意見等聴取制度を実施している(第6編第2章第1節5項参照)。

保護観察所においては,生活環境の調整により改善更生に適した環境作りを行うとともに,CFP(第2編第5章第3節2項(1)参照)を活用し,犯罪又は非行に結び付く要因や過程等に関する適切な仮説に基づく的確かつ最もふさわしい介入方法を選択して保護観察処遇を実施するとともに,保護観察の実施状況に応じアセスメントに基づく各種措置等の判断を適期適切に行うことにより,実効性のある保護観察を実施している。また,保護観察対象者の問題性その他の特性を,その犯罪・非行の態様等によって類型化して把握し,類型ごとに共通する問題性等に焦点を当てた類型別処遇(同項(2)ア参照)を行っている。

詐欺事犯者についても,同様に前記の生活環境の調整及び保護観察が実施されているが,特殊詐欺事犯者に対しては,令和3年1月から,保護観察処分の対象となった事案に特殊詐欺への関与が含まれる者やそれ以外の者で,現に特殊詐欺グループへの関与が認められる者を「特殊詐欺類型」の保護観察対象者に認定し,最新の知見に基づく,より効果的な処遇が行われている。同年3月31日現在,特殊詐欺類型に認定された保護観察対象者は852人(保護観察処分少年224人,少年院仮退院者124人,仮釈放者(全部実刑者)288人,保護観察付全部執行猶予者216人)である(法務省保護局の資料による。)。

特殊詐欺類型の保護観察対象者に対する処遇として,特殊詐欺グループとの関係に焦点を当てた指導が行われている。特殊詐欺グループは,暴力団等と比較すると集団としての凝集性が低い傾向があり,本人自身がグループに所属しているという感覚を持っていない場合もある。このような場合は,離脱意思を強化するような働きかけに代えて,グループ以外の居場所を持てるような働きかけが有効な場合があるため,特殊詐欺類型の保護観察対象者に対しては,就労や就学を中心とした健全な生活を送るための指導等を行っている。

一方,特殊詐欺類型の保護観察対象者がグループの実態を認識していたり,所属しているという意識があったりする場合は,まず離脱意思やグループへの関与の程度を把握し,その程度に応じた指導や支援を行っている。さらに,少年の場合には地元不良集団とのつながりから詐欺グループ加入に至る場合も見られることから,交友関係改善の指導を行い,離脱を実行させるための規制として,特別遵守事項(第2編第5章第3節参照)や生活行動指針(同節参照)に基づく指導も行っている。特殊詐欺グループには暴力団等が関与している場合も少なくないことから,同グループからの勧誘や脅迫等への対応に警察の協力を得るほか,保護者との関係が不良又は希薄である少年等の場合には,生活環境の調整等の段階から,家族に対して本人の自立に向けた問題解決能力の伸長への協力を求めるなどしている。

また,特殊詐欺類型の保護観察対象者の中には,仲間からの影響により,犯罪を容認し,自らの詐欺行為を自分達にとって都合の良い受け止め方をして,多額の金銭を得るなどの成功体験によってその考え方がより強化されているものも少なくない。そこで,特殊詐欺類型の保護観察対象者に対しては,特殊詐欺が被害者に与えた影響について理解させ,罪障感を深めさせるとともに,謝罪や被害弁済等の今後行うべきことを考えさせている。さらに,老人ホームでの社会貢献活動(第2編第5章第3節2項(5)及び第3編第2章第5節3項(4)参照)に参加させるなど特殊詐欺の被害に遭いやすい高齢者と身近に接し,その思いの一端に触れさせることも行っている。