保護観察所では,保護観察対象者が,適切な医療,食事,住居その他の健全な社会生活を営むために必要な手段を得ることができないため,その改善更生が妨げられるおそれがある場合は,医療機関,福祉機関等から必要な援助を得るように助言・調整を行っているが,その援助が直ちに得られないなどの場合,保護観察対象者に対して,食事,衣料,旅費等を給与若しくは貸与し,又は宿泊場所等の供与を更生保護施設に委託するなどの緊急の措置(応急の救護)を講じている。
また,満期釈放者,保護観察に付されない全部又は一部執行猶予者,起訴猶予者,罰金又は科料の言渡しを受けた者,労役場出場者,少年院退院者・仮退院期間満了者等に対しても,その者の申出に基づいて,応急の救護と同様の措置である更生緊急保護の措置を講じている。更生緊急保護は,刑事上の手続等による身体の拘束を解かれた後6月を超えない範囲内(特に必要があると認められるときは,更に6月を超えない範囲内)において行うことができる。
2-5-4-1表は,令和2年における応急の救護等(補導援護としての措置を含む。以下この章において同じ。)及び更生緊急保護の措置の実施状況を見たものである。
起訴猶予者については,その再犯防止に資するため,平成27年度から,全国の保護観察所において,検察庁と連携の上,特に支援の必要性が高い者に対し,継続的かつ重点的に生活指導等を行った上で福祉サービスの調整や就労支援等を行う「起訴猶予者に係る更生緊急保護の重点実施等の試行」が実施されてきた。30年度からは,高齢又は障害のある更生緊急保護対象者等に対する支援等に特化した業務を行う特別支援ユニットが設置された保護観察所において,高齢又は障害により福祉サービス等を必要とする保護観察に付されない全部執行猶予者,起訴猶予者,罰金又は科料の言渡しを受けた者等を対象として,本人の希望に基づき,検察庁(起訴猶予者及び略式命令により罰金又は科料の言渡しを受けた者に限る。)や地方公共団体等と連携しながら,更生緊急保護の措置として福祉的な支援を実施する「保護観察所が行う入口支援」が開始された。令和2年度に実施された入口支援の対象者の人員は44人であり,このうち41人については,検察庁との事前協議が行われている。入口支援の内容は,更生保護施設又は自立準備ホームへの入所支援35人,生活保護申請支援17人,帰住援助4人,医療支援9人,障害者福祉に係るサービスの利用支援4人等であった(法務省保護局の資料による。)。
令和3年度からは,各都道府県が設置する地域生活定着支援センター(厚生労働省の地域生活定着促進事業により設置。本章第2節2項参照)により,高齢又は障害のある被疑者・被告人の福祉サービス等の利用調整や釈放後の継続的な援助等を行う「被疑者等支援業務」が実施されることとなったことを踏まえ,更生緊急保護の重点実施等の枠組みについて見直しを行い,全国の保護観察所において,更生緊急保護の措置として社会復帰支援をすることが適当である保護観察に付されない全部執行猶予者,起訴猶予者,罰金又は科料の言渡しを受けた者等を対象として,検察庁等と連携した「起訴猶予者等に係る更生緊急保護の重点実施等」を行い,その枠組みにおいて,高齢又は障害により福祉サービス等を必要とする者については,本人が支援を希望する場合に,地域生活定着支援センターと連携した支援を実施している。
また,満期釈放者等については,令和元年12月に決定された「再犯防止推進計画加速化プラン~満期釈放者対策を始めとした“息の長い”支援の充実に向けて~」(第5編第1章第3項参照)において,「令和4年までに,満期釈放者の2年以内再入者数を2割以上減少させる」という成果目標が掲げられたことを踏まえ,満期釈放者対策の充実強化に向けて,更生保護施設等による受入れ促進,更生保護施設による退所者へのフォローアップ事業(本章第6節2項参照)等の取組を進めている。こうした満期釈放者対策を一層推進するため,3年度から,特別支援ユニットを廃止して,保護観察所15庁に社会復帰対策官を配置し,これらの庁では新設した社会復帰対策班の下,関係機関等と連携するなどして,帰住先の確保や地域への定住等に困難が見込まれる矯正施設被収容者に対して,生活環境の調整から出所後の保護観察や更生緊急保護の措置の実施まで一貫して関与し,効果的な社会復帰支援を行っている(法務省保護局の資料による。)。同班が設置されていない庁においても,帰住先の確保等の調整が特に必要であると認められる者に対する継続的な支援を行う処遇体制を構築している。