更生保護は,犯罪や非行をした人を社会の中で適切に処遇し,その再犯を防ぎ,自立更生を助けることで安全・安心な社会を築くことを目的としている。このコラムでは,新型コロナウイルス感染症が感染拡大していった中で,更生保護がどのように実施されてきたのか,実際の取組例を通して紹介する。
保護観察は,保護観察官や保護司が保護観察対象者との面接等を行い,生活状況等を把握し,指導監督や補導援護を実施する社会内処遇であるが,新型コロナウイルス感染症の感染拡大下という状況において,保護観察対象者との接触を通じて同感染症の感染拡大につながるリスクが懸念される中で,感染症対策を図りながら,保護観察対象者の改善更生や再犯防止のために適正に業務を継続していくことが課題となった。大阪保護観察所では,令和2年4月に新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言(以下「緊急事態宣言」という。)が発令されたことに伴い,感染症対策として,保護観察官が行う個別の面接については延期や代替手段も検討し,保護司については電話等の代替手段による面接を行うこととした。また,同保護観察所では,集団処遇により実施してきた薬物再乱用防止プログラムや性犯罪者処遇プログラムの専門的処遇プログラム(同保護観察所堺支部については,一部のプログラムのみで集団処遇を実施)を延期することとした。それでも,保護観察開始後の最初の面接のほか,遵守事項違反のおそれがあると認められるときなど,保護観察所として介入する必要性・緊急性が高いとみられる場合等には,十分な感染症対策をとった上で保護観察官が対面での面接を行ったり,専門的処遇プログラムについても個別処遇に替えて実施したりするなど,再犯・再非行を防止するための措置を講じてきた。保護司も,生活状況等に不安定な様子が見られた保護観察対象者に対しては,連日のように電話で連絡を取りながら必要な指導や助言を行ったケースもあり,対面で面接できない点を補うよう工夫をしながら処遇したという。
令和2年5月に前記緊急事態宣言が解除されてからは,保護観察官による対面での面接や専門的処遇プログラムにおける集団処遇を徐々に再開するとともに,保護司による対面での面接についても再開していった。その一方で,緊急事態宣言が再び発令されるなど,感染症対策の必要性がより高まったと考えられる時期には,専門的処遇プログラムを個別処遇により実施したり,保護司の面接を電話等で実施したりするなど,状況に応じた柔軟な対応をとっている。大阪保護観察所は,新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響が長期化することが予想されたことから,庁として業務全般に関する感染症対策に係る方針を策定し,同方針に基づいて業務の遂行に当たっている。保護司に対しても,感染症対策を踏まえた保護観察処遇の方法等について文書による確実な情報共有を図っており,面接前にはチェックシートにより保護観察対象者に体調等を確認してもらうようにしているほか,保護司自身やその家族に体調等への不安があり,一定期間面接が困難である場合には,保護観察官が保護司と協議した上で,保護観察官による面接を実施するなどし,保護司との協働による保護観察処遇が適切に行われるよう対策を講じている。同保護観察所によると,同方針を策定以降,常に感染症対策を念頭に置いた処遇を行ってきたが,今後も,同感染症の感染拡大という状況に対応しながら,安全・安心な社会を実現するために,保護観察処遇を適切に実施していくことが何よりも重要であると考えているという。
津市にある更生保護施設三重県保護会は,住居や頼るべき人がないなどの理由で直ちに自立することが難しい保護観察又は更生緊急保護の対象者を受け入れ,宿泊や食事の供与,就労や退所先の確保の支援等を行う更生保護施設である。定員は男性20人で,県外の刑事施設からの仮釈放者も多く受け入れている。令和2年4月に緊急事態宣言が発令された当初は,県外から帰住する者を受け入れることが新型コロナウイルス感染症の感染拡大につながってしまうのではという不安も生じたというが,事前に入所予定者が在所している刑事施設と連絡をとり,入所予定者に注意事項を伝えてもらったり,入所後一定期間は毎日の検温を実施したりするなどの感染症対策をとることで受入れを中止することはなかった。
三重県保護会は,津保護観察所の助言等も受けながら,様々な感染症対策を講じており,入所者に対しても,施設内や外出時に感染症対策を励行することを,入所時に加え,集会等の機会も利用して定期的に注意喚起を図っている。更生保護施設では,入所者一人一人が円滑に自立できるよう,日頃から生活状況を見守りながら,社会復帰に向けた助言や指導を行っており,三重県保護会でも,職員が感染症対策を徹底しながら,施設に常駐し,業務に当たっている。万が一職員が新型コロナウイルス感染症にり患し,その他の職員も自宅待機を余儀なくされるなど,施設の運営に支障が生じる場合等を想定し,津保護観察所の職員が代替で職務に当たれるような対応策を講じており,同保護観察所とは,日頃から具体的な業務の内容や進め方等を共有し,連携体制を構築している。このように,可能な限りの対策を講じながら,更生保護施設としての使命を果たすべく取り組んでいる。三重県保護会によると,入所者は従来と変わりなく,落ち着いて生活を送ることができており,これからも,同感染症の感染拡大という状況に対応しながら,県内唯一の更生保護施設として,一人でも多くの者の自立更生を支えられるよう,地道に取り組みたいと考えているという。
更生保護においては,保護観察対象者の処遇だけでなく,犯罪や非行を防止するとともに,犯罪や非行をした人の立ち直りに理解を求めるための犯罪予防活動が各地域で取り組まれている。新型コロナウイルス感染症の感染拡大という状況においても,毎年7月を強調月間として行われる「社会を明るくする運動~犯罪や非行を防止し,立ち直りを支える地域のチカラ~」(本章第6節6項参照)では,同活動の一環として非接触型の広報が各地で展開された。また,更生保護の民間ボランティア団体である更生保護女性会(同節4項(1)参照)やBBS会(同項(2)参照)の活動においても,新たな取組が模索され,実施されている。
札幌更生保護女性連盟では,様々な活動が中止や延期を余儀なくされる中,札幌刑務所から「出所者に渡すマスクの調達に苦慮しているので,マスクを作ってもらえないか。」との要請を受けたことから,マスクの材料が品薄な中,会員がガーゼ等を調達し,数日間で450枚ものマスクを作り,寄贈する取組を行った。刑務所や出所者からは大変感謝され,その後も手作りマスクを更生保護施設にも配布するなど,最終的に1,200枚ものマスクを寄贈し,同感染症の感染拡大下においても更生保護女性会としての活動に取り組んだ。
また,兵庫県の西宮地区BBS会では,令和2年4月からオンラインを取り入れた活動を始め,同会の毎月の定例会もオンラインで開催した結果,これまでは参加が難しかった保護司の参加も得ることができ,これまで以上に顔の見える関係を築くきっかけになった。定例会のオンライン化により保護司とのコミュニケーションの機会が増えたことで,保護司の側から保護観察対象者の学習支援の提案があり,その後,週1回会員が学習支援を行う「ともだち活動」につながったこともあった。また,他地区のBBS会とのオンラインでの研修会の実施のほか,これまでは実施が困難となっていたグループワークをオンラインで行うことを試みた。グループワークに参加した少年もレクリエーションが「楽しかった。」と感想を述べるなど,会員にとって自信を深める活動となったといい,新たな日常に対応した活動を模索することで,BBS会としての活動に広がりを見いだしている。
更生保護は,新型コロナウイルス感染症の感染拡大下という困難な状況においても,安全・安心な地域社会を構築していくために欠かすことができない重要な取組である。保護観察所や,保護司,更生保護施設等の民間ボランティアや団体は,それぞれの使命を果たそうと,感染症対策を十分に講じ,創意工夫しながら取り組み続けている。