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令和2年版 犯罪白書 第7編/第8章/第4節/2

2 薬物の害悪や薬物乱用の弊害,相談・支援窓口に関する情報提供の必要性

薬物がその乱用者の身体・精神に与える影響は大きい。我が国においては,いわゆる「ダメ。ゼッタイ。」普及運動等の取組を通じて,国民一人一人の薬物乱用問題に関する認識を高める努力を行っている。しかしながら,近年検挙人員が急増している大麻に代表されるように,インターネット等では,薬物乱用が心身に与える影響を矮小化する言説が流布している。未成年者を含む若年層が,そのような言説を安易に信じ,薬物の影響を誤解して使用を開始している可能性は否定できない。大麻は,ゲートウェイドラッグといわれ,使用者がより効果の強い薬物の使用に移行していくおそれが高い薬物である。特別調査でも,対象者(覚醒剤取締法違反の入所受刑者のうち覚醒剤の自己使用経験がある者)の約半数が大麻使用の経験を有し,そのうちの約半分は,20歳未満で大麻の使用を開始したという結果がある。薬物乱用の防止のためには,国民,特に,若年層を中心に,薬物の害悪や薬物乱用の弊害について,正確な情報を提供し続けていく必要性は高い。また,重大な薬物犯罪は,裁判員裁判の対象事件とされている。裁判員に選任された国民が,正確な知識に基づいて審理・評決に参加できるようにするためにも,薬物の害悪や薬物乱用の弊害についての啓発は必要であると思われる。その機会としては,「社会を明るくする運動~犯罪や非行を防止し,立ち直りを支える地域のチカラ~」のような既存の活動に加え,検察・矯正・更生保護の現場において薬物事犯者の処遇に携わる職員による広報啓発活動の活性化を検討する余地があると思われる。

その一方で,薬物事犯者は,犯罪をした者であると同時に,その一部は,依存症の治療を要する者であるという側面を有していることに考えを巡らせる必要があろう。薬物依存症者が早期に依存症から回復し,薬物乱用と縁遠い生活を送ることは,将来の薬物犯罪が予防されるという意味を持つ。薬物依存症者やその家族が早期に相談・治療の機会を得られるよう,都道府県及び指定都市が選定する依存症専門医療機関・依存症治療拠点機関や都道府県,保健所設置市及び特別区が設ける依存症相談拠点の存在やその役割についても,併せて周知啓発をする必要があると思われる。