薬物使用を含む薬物犯罪の撲滅のためには,我が国における違法薬物の流通量を減少させることが肝要である。我が国の薬物犯罪で最も検挙人員の多い覚醒剤については,近年,我が国における押収量が急増し,令和元年には密輸入事犯の摘発件数が急増した。この関連で注目すべき事実として,近年,世界的に見ても,アンフェタミン型精神刺激薬の押収量が急増していることが挙げられる。覚醒剤を始め,我が国で乱用される違法薬物のほとんどが海外から密輸入されるものであることを考慮すると,我が国における違法薬物の流通量を減少させるためには,水際対策の徹底が極めて重要であることは論を俟たない。水際対策の徹底のためには,関係機関,すなわち,税関,警察,麻薬取締部及び海上保安庁の間の連携の一層の強化,捜査に関する国際協力の手段(国際捜査共助,逃亡犯罪人引渡等)の活用,麻薬特例法や犯罪捜査のための通信傍受に関する法律で認められた捜査手法(コントロールド・デリバリー及び通信傍受),麻薬特例法や組織的犯罪処罰法で整備された薬物犯罪収益を含む犯罪収益のはく奪の手段(没収・追徴やその保全手続)の活用等が重要である。
また,違法薬物の密売は,暴力団等の犯罪組織が違法な活動を行うための資金を獲得するための重要な手段であることから,薬物犯罪対策の観点からも,暴力団対策法,いわゆる暴力団排除条例,組織的犯罪処罰法等を駆使した暴力団対策や組織犯罪対策,刑事施設における暴力団離脱指導等の取組は重要である。さらに,薬物犯罪,特に,覚醒剤営利事犯や密輸入事犯の検挙人員に占める外国人の割合が高いことを考慮すると,薬物犯罪対策の観点からも,外国人の出入国や在留管理の徹底は重要であると思われる。