近年,児童虐待(保護者によるその監護する18歳未満の児童に対する虐待の行為。児童虐待防止法2条参照)の事例が深刻化及び複雑化していることなどから,児童虐待防止法の制定とその改正を始めとする関係法令の整備等によって,児童虐待を防止するための制度の充実が図られている。平成29年6月の改正では,都道府県知事等が,保護者に対し,児童の身辺につきまとったりしてはならないことなどを命ずる,いわゆる接近禁止命令の対象が拡大された(平成29年法律第69号。30年4月施行)。また,令和元年6月の改正では,親権者が児童のしつけに際して体罰を加えてはならないことなどが明記された(令和元年法律第46号。一部を除き2年4月施行)。
児童相談所における児童虐待に関する相談対応件数は,近年一貫して増加しており,平成30年度は,15万9,838件(前年度比19.5%増)であった(厚生労働省政策統括官の資料による。)。
4-5-1-1図は,児童虐待に係る事件(児童虐待防止法2条の規定する児童虐待により犯罪として検挙された事件をいう。以下この節において同じ。)について,罪名別の検挙件数及び検挙人員総数の推移(資料を入手し得た平成15年以降)を見たものである(罪名別の検挙人員については,CD-ROM参照)。検挙件数及び検挙人員は,20年前後には緩やかな増加傾向が見られていたが,26年以降は大きく増加し,令和元年は1,972件(前年比42.9%増),2,024人(同42.6%増)であり,それぞれ平成15年(212件,242人)と比べると約9.3倍,約8.4倍であった。罪名別では,特に,傷害や暴行が顕著に増加している。
4-5-1-2表は,令和元年の児童虐待に係る事件の検挙人員について,被害者と加害者の関係別に見るとともに,これを罪名別に見たものである。総数では,父親等の割合(71.5%)が高いが,殺人及び保護責任者遺棄では,母親等の割合がそれぞれ78.0%,68.8%と高かった。また,母親等のうち,実母の割合は95.5%とほとんどを占めるのに対し,父親等の内訳を見ると,実父の割合は63.1%であり,実父以外が36.9%を占めた。さらに,加害者別に罪名の内訳を見ると,父親等のうち,実父では傷害及び暴行で8割以上を占め,強制性交等及び強制わいせつは1割に満たなかったが,実父以外では,傷害及び暴行で7割弱にとどまり,強制性交等及び強制わいせつが27.3%を占めた。