神戸保護観察所では,全国に先駆け,平成25年度から「神戸モデル」として検察庁,更生保護施設,地域生活定着支援センター,弁護士会と共にプロジェクトチームを作り,高齢の起訴猶予者等に対する支援を独自に開始した。同モデルは,26年度から,「起訴猶予者に係る更生緊急保護の重点実施等の試行」という全国20庁における取組の一つへと発展している。
同試行で検察庁から連絡を受けて被疑者と面接している保護観察官によれば,更生緊急保護に先駆けて面接を行うことの意義は,更生保護施設に宿泊等の委託保護を行う前に,入浴・排泄等の日常生活の自立度や集団生活が可能かどうかの情報を踏まえた調整が可能となる点であるという。他方で,保護観察所や検察庁が説明を尽くしても,更生緊急保護を希望すれば起訴猶予処分になると思い込み,実際は支援を受ける意思が乏しいにもかかわらず表向きは支援を希望するように装う被疑者がいる点は課題であるという。
では,同試行により高齢の起訴猶予者等を受け入れる更生保護施設では,どのような処遇が行われているのだろうか。全国的に,同試行の対象者はホームレスだった者が多くを占めており(7-5-3-2図参照),福祉等につなげる支援を提案することは,誰もが喜んで歓迎するように思われる。ところが,法務総合研究所の調査で特別調整対象者と同数の特別調整辞退者が存在したこと(7-5-1-8図参照)からも分かるように,高齢犯罪者等の心理は複雑であり,手放しで福祉的な支援の対象となることを喜ばない人々は,矯正施設における処遇を経ない入口支援の対象者の中にも存在するという。
兵庫県姫路市に所在する更生保護施設播磨保正会の施設長は,高齢の起訴猶予者等を数多く受け入れ,日々苦慮しながら処遇を進めてきた。その経験から,刑務所を満期出所してきた更生緊急保護対象者は同施設では大人しい者が多いのに対し,起訴猶予者や単純全部執行猶予者等,受刑したことのない更生緊急保護対象者の中には,少数ながら我を通そうとする者がいるという。頼るべき親族もなく,稼働能力も落ちて福祉を頼るしかなくても,更生保護施設からの退所先候補として福祉施設等を見学すると「二人部屋は嫌だ。」,「人に管理されるのは嫌だ。」などと言って,退所先探しが難航する事例もあるという。同施設長は,働いて更生するというモデルを一律に高齢者にも当てはめるのは無理があると考え,そのような事例では,いかに福祉につなげていくかを同施設にとって重要な課題と位置付けている。入所中は社会的な関わりの乏しい高齢の更生緊急保護対象者の気持ちに寄り添い,解きほぐしながら,同施設職員が積極的に話し相手になるなど孤立させない工夫を行い,退所後も姫路市内に居住する者には,希望に応じて継続的に関わり,同施設への通所等の機会を設け相談に応じるなどしている。一方で,遠方への退所者には,こうしたフォローアップが行えない。特に高齢犯罪者は収入が乏しいにもかかわらず,若い頃から飲酒での浪費癖があるなど金銭管理が苦手という者が多く,退所後の生活の乱れや再犯がないかは気になるという。同施設長は,「若い入所者と比べ,高齢の入所者には他の入所者とぶつかるようなエネルギーがないので,更生保護施設で問題なく生活していくことは正直難しくない。しかし,更生することは話が別。更生保護施設を出た後の再犯防止が重要だと思う。」と語る。一人でも多くの高齢犯罪者が入口支援の段階で更生できるよう,更生保護施設では日夜地道な努力が重ねられている。