捜査段階で起訴猶予等によって釈放される被疑者について,従前から,その必要に応じ,改善更生のための措置として,更生保護法に基づく更生緊急保護(第2編第5章第3節参照)が実施されてきたが,平成25年10月から,保護観察所7庁において,対応する地方検察庁と連携し,起訴猶予処分となり更生緊急保護の申出をすることが見込まれる者について,その高齢・障害等の特性に応じた措置を講じて円滑な社会復帰の実現と再犯防止に資するため,処分に先立ち,釈放後の福祉サービスの受給や住居の確保に向けた調整等(事前調整)を実施する取組が試行された。26年度は,保護観察所20庁に拡大し,27年度からは,全国の保護観察所に拡大して,「起訴猶予者に係る更生緊急保護の重点実施等の試行」として実施されている。
同試行において,地方検察庁では,担当検察官が更生緊急保護の措置を検討する必要があると認める場合,対応する保護観察所と更生緊急保護に係る調査・調整の要否・可否等についての協議を行う。その結果,調査・調整を行うこととなった場合,検察官は,被疑者に対し,更生緊急保護の制度の内容や,被疑者の意思に反しない場合に限り行われるものであること,その調査・調整のため,保護観察官との面談が実施され,被疑者の情報が保護観察所に利用され,福祉サービスを提供する他の機関等へも提供されることを説明し,これに同意するか否かを確認する。さらに,刑事事件の処分内容は未定であり,同意や保護観察官との面談内容等により処分内容が変更されたり,起訴猶予が約束されたりするものではないことも説明する。
保護観察所では,保護観察官が前記の説明に同意した被疑者と検察庁において面談するなどして,更生緊急保護を受けることなどについての被疑者の意向,心身の状況,勾留前の生活状況等について調査を行い,その結果,当該被疑者を更生緊急保護の重点実施予定者として選定した場合には,重点実施のために必要な事項につき調整を行う。その者が起訴猶予処分となり,更生緊急保護の申出を行った際は,更生保護施設等に宿泊を伴う保護を委託するなどし,当該施設等と連携して,退所するまでの間に将来の自立に向けた金銭管理や基本的生活習慣等に係る生活指導を重点的に行うとともに,生活保護の受給,介護保険・高齢者福祉に係るサービスの利用等に向けた調整やハローワークと連携した就労支援等を行う。
起訴猶予者に係る更生緊急保護の重点実施等の試行の概要は,7-5-3-1図のとおりである。
起訴猶予者に係る更生緊急保護の重点実施の試行の対象者の状況(平成29年度)は,7-5-3-2図のとおりである(非高齢者を含む。以下(1)の各図において同じ。)。対象者のほとんどを男性が占めており,年齢層別に見ると,50代の者の占める割合が最も高く,60代の者と70代以上の者を合わせた高齢者を含む年齢層は全体の約4分の1を占めている。罪名別に見ると,窃盗の占める割合が最も高く,次いで横領,詐欺の順であり,これらの罪名が全体の8割以上を占めている。ホームレス・精神障害等の背景別に見ると,身柄拘束前にホームレスであった者が全体の約3分の2を占めており,ホームレスではなかったが精神障害等を有していた者の占める割合は比較的低い。
7-5-3-3図は,起訴猶予者に係る更生緊急保護の重点実施の試行の実施結果(平成29年度)を,支援の内容別に見たものである。生活保護の申請に係る支援については,支援の結果,受給に至った者の占める割合が8割に達しており,就労支援及び高齢者福祉サービス等の利用支援についても,就労やサービス等の利用に至った者がいずれも約7割を占めている。
再犯防止推進法(第5編第1章1項参照)は,社会内で適切な指導及び支援を受けることが再犯の防止等に有効と認められる者について,矯正施設による処遇を経ずに社会内で支援等を早期かつ効果的に受けることができるよう必要な施策を講じることを国に求めており,再犯防止推進計画(第5編第1章2項参照)においても,高齢者等への効果的な入口支援の実施のために必要な保護観察所等の体制の整備が掲げられている。これらを受けて,平成30年度から,保護観察所19庁(30年8月1日現在)において,入口支援等に特化した業務を行う特別支援ユニットを設置するとともに,当該保護観察所において「保護観察所が行う入口支援」の実施を開始した。
この入口支援は,更生緊急保護の措置(第2編第5章第3節参照)として福祉的支援等を行うもので,高齢又は障害により福祉サービス等を必要とする,起訴猶予者,保護観察を付されなかった全部執行猶予者,罰金等を言い渡された者等を対象としており,<1>地方公共団体や検察庁(起訴猶予者及び略式命令により罰金等を言い渡された者に限る。)と連携して行う,<2>本人の希望に基づき,保護観察官が支援計画を立て定期的に本人と接触し,生活指導・助言等を行うなどの継続的生活指導を行う,<3>起訴猶予者に係る更生緊急保護の重点実施等の試行と異なり更生保護施設等への宿泊を伴う保護の委託を前提としないという特徴がある。
地方公共団体との連携においては,地方公共団体から委託を受けた社会福祉法人等に保護観察所が協力を依頼するなどして,高齢者等の福祉施設への入所調整等を行う。検察庁との連携においては,検察庁からの連絡を端緒として,起訴猶予等となる前に保護観察官が面接を行うなどし,支援のための早期の情報収集や調整等を行うなど,起訴猶予者に係る更生緊急保護の重点実施等の試行に準じた連携方法をとる。いずれも地域の実情に応じて行うものとされ,多機関での重層的・伴走的な支援の実現を目指している。
保護観察所が行う入口支援の概要は,7-5-3-4図のとおりである。
高齢犯罪者等については,平成29年12月に改定された市町村地域福祉計画及び都道府県地域福祉支援計画の策定ガイドラインの中で,再犯防止推進法の成立を踏まえ,「保健医療,福祉等の支援を必要とする犯罪をした者等への社会復帰支援の在り方」が計画に盛り込むべき事項として示されるなど,厚生労働省においても,地方公共団体の再犯防止の取組に係る施策の推進が図られている。
法務省及び厚生労働省においては,今後,再犯防止推進計画に基づき,地方公共団体を含めた地域のネットワークにおける取組状況も参考としながら,高齢犯罪者等に対する一層効果的な入口支援の実施方策を含む検察庁・保護観察所等と保健医療・福祉関係機関等との連携の在り方について検討を行うこととしている。