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平成30年版 犯罪白書 第7編/第5章/第3節/1

1 検察庁における取組

検察庁は,近年,犯罪をした者等の円滑な社会復帰や再犯防止の観点から様々な取組や工夫を行っている。こうした取組等は,各被疑者・被告人の特性を踏まえ,地域の実情に応じた多様な形で,関係機関との連携によって実施されている。

(1)検察庁における体制整備

まず,検察庁における高齢犯罪者等への社会復帰支援に関係する体制整備について紹介する。

ア 最高検察庁
(ア)刑事政策専門委員会の発足

最高検察庁は,平成23年4月から実施された検察改革の一環として,24年6月,刑事政策に関する専門的知見の集積,活用等を目的とした「刑事政策専門委員会」を立ち上げた。

刑事政策専門委員会においては,刑事政策の研究者,社会福祉法人の関係者等に外部参与を委嘱し,外部参与を始めとする専門家から意見聴取を行うことなどによって集約した刑事政策に関する専門的知見を各庁にフィードバックすることで,入口支援を含む再犯防止のための具体的な施策を促している。

(イ)刑事政策推進室の発足

最高検察庁は,平成28年6月,刑事政策推進室を発足させ,被害者保護・支援,児童虐待事案への対応と共に,再犯防止・社会復帰支援を主要なテーマとして,全国の地方検察庁での取組等に関する情報の収集や各庁へのフィードバック,これら取組の検討や各庁への助言・指導,関係機関との連絡・調整等を行っている。

イ 各地方検察庁
(ア)担当職員の配置

再犯防止・社会復帰支援のための取組を進めるには,矯正施設,保護観察所,福祉施設等の関係機関との連携が重要であるところ,個々の事件を担当する検察官や検察事務官において,その都度,事件ごとに連絡・調整を行うのでは,効果的な連携は困難であることから,全ての地方検察庁において,各庁の規模や実情に応じ,関係機関と継続的に連絡・調整等を行うための担当職員を配置している。

幾つかの庁では,「社会復帰支援室」,「再犯防止対策室」,「再犯防止推進室」,「刑事政策推進室」として,検察官・検察事務官を配置している。これらの検察官・検察事務官は,社会福祉士等専門家の知見を活用しながら,個々の事件を担当する検察官等への助言や,保護観察所や福祉関係機関等との連絡・調整等を行う役割を担っている。

そのほかの庁においても,例えば,「刑事政策推進班」等を設け,あるいは社会復帰支援ないし再犯防止担当に指名した検察事務官等を配置することなどにより,社会復帰支援に関する情報収集や関係機関との意見交換,協力のための体制構築に努めている。

(イ)専門家の採用・活用等

東京地方検察庁は,社会復帰支援準備室を立ち上げた平成25年1月から,社会福祉士を社会福祉アドバイザーとして採用しており,さらに,30年度現在,横浜,千葉,水戸,静岡,大阪,名古屋及び広島の各地方検察庁も同様の措置を講じている。社会福祉士を採用してはいないものの,特定の社会福祉士や地域の社会福祉士会と連携して,必要に応じて,社会福祉士によるアドバイスを受けることができるようにしている庁もある。

社会福祉アドバイザーは,個々の事件を担当する検察官等の相談に応じ,社会復帰支援等に関し,例えば,年金の受給状況を確認し,未支給であれば支給に向けた関係機関との調整において助言を行うなどの業務に従事しているが,事案によっては,直接対象者と面談して,その問題や特性を把握し,生活困窮者に生活保護の受給を促すといった必要な支援につなげる活動にも従事している。

(2)各地方検察庁における具体的な取組

ここでは,高齢犯罪者等に対して,各地方検察庁で行っている再犯防止のための社会復帰支援等の具体的な取組を紹介する。

ア 福祉・医療関係機関との調整

起訴猶予処分が見込まれる被疑者や全部執行猶予付判決の言渡しが見込まれる被告人等が,高齢などの事情により,収入や住居がなく釈放後の生活状況が不安定である,あるいは心身の疾患の治療が必要であるなどの場合には,釈放後短期間で再犯に陥るのを防ぐため,居住先の確保,生活保護の受給といった社会復帰支援を行う必要性が高い。そこで,一部の地方検察庁では,居住等の生活環境を調整するため,そのような被疑者・被告人について,釈放後の帰住予定地を管轄する福祉事務所や社会福祉協議会,自治体の福祉部門,保健所といった福祉関係機関と連携し,対象者が生活保護等の所要の手続を行うのを支援したり,必要な治療を施すことができる医療機関の紹介を受けて医療保護入院等につなげる措置を講じるといった取組を行っている。

また,対象者が高齢であり,社会復帰支援を行う必要があるだけでなく,心身の治療が必要であるなど複数の問題点を抱えていると認められた場合,検察官が呼び掛けて,社会福祉関係機関や医療機関の関係者の参加を得て対策会議を開催し,釈放後の対象者に対する支援の在り方について総合的に検討し,各機関の協力の下,より効果的な支援を実施する取組も行われている。

イ 公判における求刑(保護観察付全部執行猶予への言及)

検察官は,公判廷において,事実及び法律の適用について意見を陳述するとともに,適切な科刑について意見を述べる「論告求刑」を行うところ,被告人に全部執行猶予付判決の言渡しが見込まれる事案で,高齢等の事情に加えて適切な監督者がおらず,専門的処遇プログラムを受けさせることが必要と認められた場合などには,保護観察付全部執行猶予とすることを求める意見を述べる例もある。

(3)検察庁と外部機関との各種連携
ア 保護観察所・少年鑑別所との連携

保護観察所との連携については,全国の地方検察庁で,起訴猶予者に係る更生緊急保護の重点実施等の試行が実施されているほか,保護観察所が行う「入口支援」において,適切かつ円滑な支援を実施できるよう,一層の連携を図っている(次項参照)。

少年鑑別所との連携については,一部の地方検察庁において,鑑別等に従事する法務技官(心理)に対し,少年鑑別所法131条(地域援助)に基づき,認知症が疑われる高齢被疑者について,認知症に関する検査の実施等を依頼し,その結果も参考にしながら,起訴・不起訴の処分を決定し,あるいは必要な福祉的支援等の内容を検討するといった取組も行っている(少年鑑別所の地域援助の詳細については,第3編第2章第3節5項参照)。平成29年に,検察庁の入口支援に関する知能検査,認知症に関する検査等に,少年鑑別所が協力した件数は170件(前年比56件増)であった(法務省矯正局の資料による。)。

イ 地域生活定着支援センターとの連携

地域生活定着支援センターは,刑務所等からの出所者等に対するいわゆる「出口支援」(本章第1節参照)を行う機関であるが,一部の地方検察庁では,窃盗(万引き)等を犯した高齢者等で再犯防止のために支援が必要な被疑者について,同センターの協力を得て「入口支援」を実施している。

ウ 地域包括支援センターとの連携

地域包括支援センターは,市町村が設置主体となり,保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員等を配置し,地域の住民を包括的に支援することを目的として,主に高齢の住民の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行う施設であり,全国5,041か所に設置されている(平成29年4月末現在)。一部の地方検察庁は,窃盗(万引き)等をした高齢被疑者について,同センターにつなげて,その継続的な見守り・相談・支援に委ねるといった取組をしている。

エ その他の機関との連携等

一部の地方検察庁では,以上のような連携以外にも,経済的な事情により軽微な犯罪を繰り返す者について,生活困窮者に係る自立サポートセンターと連携した対応を行う取組や,地域の社会福祉士会等との勉強会に参加して,福祉的支援に関する情報や知見を集積するといった取組もなされている。