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平成30年版 犯罪白書 第7編/第5章/第2節/コラム6

コラム6 ドイツにおける高齢者専用刑務所

南ドイツのバーデン・ヴュルテンベルグ州にあるコンスタンツ刑務所ジンゲン刑務支所(以下「ジンゲン刑務支所」という。)は,シュトゥットガルト駅から特急電車で2時間強のジンゲン駅で降り,15分程歩くと,住宅地の中に突然現れる。

ジンゲン刑務支所は,1970年から高齢者専用刑務所として運営されてきた。1970年当時はまだ高齢犯罪者の割合が高くなかったが,これから高齢者の犯罪が増えていくとの予測によるものである。

同支所への収容は,男性,62歳以上,同州の出身者,刑期が15か月以上あることという要件に加え,開放的処遇に適していること,集団行動が可能であることなどを考慮して決定している。

同支所には約50人の高齢受刑者が生活しているが,2016年末現在で,平均年齢は70歳を超え,90歳を超える者も収容されている。刑期が15か月未満であることが多い窃盗犯は収容されておらず,収容の多い罪種は,性犯罪,詐欺,暴力犯罪である。

65歳以上の者は刑務作業が免除されるが,希望すれば作業をすることができる。作業内容は,梱包作業などの軽作業であり,梱包作業の場合,1時間当たり1ユーロ50セントの賃金が支給される。また,刑務作業以外に,毎日,午前10時と午後2時から各1時間,料理,体操,工作,庭の手入れなどの作業療法が行われている。

出所時の帰住先は,3分の1が家族で,3分の2が福祉施設となっている。同支所は,帰る所がない者を作らず,必要に応じて社会福祉機関と連携した上で,必ずどこかにつなぐ方針を採っており,出所者を受け入れる施設が充実していることもあり,帰住先が決まらないまま出所する者はいないという(本章第1節1項コラム4参照)。

現場トップの職員は,「若い人と高齢者を一緒に収容する施設では,高齢者にとって規律が厳しいと感じられる上,高齢者は若い人を怖がるので,生活しにくい。高齢受刑者が社会復帰するために大事なのは,高齢者が自分で自分のリズムを作りながら,自律性を持って共同生活をすることである。当支所では,高齢受刑者専用刑務所として,高齢受刑者が自分の意思で行動することができる環境を作るよう心掛けている。」と言う。同支所の出入口には警備担当者がいるなどセキュリティに一定の配慮がなされているものの,居室の扉は,午前7時から午後10時まで施錠されておらず,自分の意思で出入りが自由となっており,建物内には監視カメラも設置されていない。

さらに,同職員は,「1970年に高齢者専用刑務所としての運営を開始して以来,多くの課題に直面し,それを解決してきた。私たちが簡単に現在の成果に辿り着いたわけではないことはよく理解してほしい。」と言う。確かに,高齢者専用刑務所の運営には様々な課題があると考えられるが,我が国においても,高齢受刑者が社会復帰に向け自律性を持った状態で出所できることを目指すには,高齢受刑者を集めて収容することの是非について更に検討を進める必要がある。

刑務作業中の工場
刑務作業中の工場