甲府刑務所では,平成28年10月から,刑務作業としては初めてとなるレタスの水耕栽培作業を開始した。
所内の受刑者用グラウンドの一角に,密閉型工場として直径29m,高さ5mのエアドームを建て,その中に直径20mの栽培用円形水槽を設置し,水槽内の専用培養液に浮かぶフロート上で,最大1万5,000株のレタスを栽培している。エアドーム内は,柱や梁がないため太陽光を満遍なく取り入れることができ,空調制御により,原則として室温は20度前後となるように管理されているため,一年を通して安定した収穫が可能であり,水耕栽培に関する最新の農業技術を習得できる。
水槽の高さが作業者の腰の位置になるよう設計されていることから,しゃがんだり,中腰になる必要がなく,また,収穫するレタスは比較的軽量であり,一般の農作業と比べて体への負担が軽いため,高齢受刑者の就業に適している。作業が導入されてから日が浅いため,これまで65歳以上の高齢者は就業していないものの,同所担当者は,今後は高齢受刑者にも積極的に就業の機会を与えていきたいと言う。
この作業に就いている受刑者からは,「レタス栽培の最初から最後まで自分で関わり,レタスが成長していく過程を目の当たりにできることがすごく楽しいし,やりがいを感じる。」,「自分が作ったものが消費者に届いて,おいしく食べてもらえるのはうれしい。」といった声が聞かれるという。
高齢受刑者が同作業を行う意義について,同担当者は,「刑務所には,元気な高齢受刑者もたくさん収容されている。そのような高齢受刑者にとって,最初から最後まで自らの手で育て上げ,その育てたものが消費者に届き喜んでもらえることは,就労への意欲につながるし,その意欲と刑務所で身に付けた技術があれば,全国で農業に従事する一般の高齢者と同じように,出所後,農業を仕事にしていくことは十分可能だと思う。」と述べ,社会復帰への効果を期待するとともに,その橋渡しをするため,地域社会との連携を更に強化していきたいと言う。
受刑者の帰住先の近くに,このような農業を行う事業者が必ずしも存在するわけではないという課題もあるが,同担当者は,「この作業に就いている受刑者は,種から苗を育て,収穫・出荷するという一連の流れを習得することで,今までに感じたことのない自信を得ているので,出所後,別の仕事を行うとしても,自信を持って社会復帰してくれるものと思う。」と期待する。