調査対象者の総数は,2,421人であった。そのうち,犯行時の年齢(主たる犯行時の年齢による。「主たる犯行」は,調査対象事件のうち,窃盗の被害額が最も多額な事件をいう。以下この節において同じ。)が65歳以上の者(以下この節において「高齢群」という。)は,354人(14.6%),65歳未満の者(以下この節において「非高齢群」という。)は,2,067人(85.4%)であった。
調査対象者の属性を,高齢群と非高齢群の別に見ると,7-4-1-1表のとおりである。
高齢群の約4割が女性であり,その割合は非高齢群と比べて高かった。
犯行時の就労状況を見ると,高齢群は非高齢群と比べて無職者の占める割合が高かった。
前科(罰金以上の前科に限り,交通関係4法令違反のみによる前科を除く。以下この節において同じ。)の有無を見ると,高齢群では約7割の者に前科があり,その割合は非高齢群と比べて高く,特に罰金前科のみの者の割合が高かった。
科刑状況を見ると,高齢群では半数近くが罰金刑であり,その割合は非高齢群と比べて高かった。
調査対象者の主たる犯行について手口別構成比を見ると,7-4-1-2図のとおりである。
高齢群では,主たる犯行の手口の85.0%が万引きであり,その割合は非高齢群と比べて顕著に高かった。なお,高齢群における「万引き以外の非侵入窃盗」の手口では,置引き(全体の2.5%),車上ねらい(同2.0%)が多かった。
高齢群の主たる犯行の手口のほとんどは万引きであることから,調査対象者のうち主たる犯行の手口が万引きである者(以下この節において「万引き事犯者」という。)について,高齢群と非高齢群の比較を軸に,高齢万引き事犯者の特徴を明らかにする。
万引き事犯者の年齢層別構成比を見ると,7-4-1-3図のとおりである。
犯行時の年齢は,19歳から87歳であり,高齢群が301人(21.7%),非高齢群が1,084人(78.3%)であった。高齢群の平均年齢は72.2歳,非高齢群の平均年齢は43.5歳であった。
万引き事犯者の属性を,高齢群と非高齢群の別に見ると,7-4-1-4表のとおりである。
高齢群の約4割が女性であり,その割合は非高齢群と比べて高かった。
犯行時の婚姻状況を見ると,高齢群では婚姻継続中の者が約4割を占め,次いで,離別,死別が多かった。高齢群は,非高齢群と比べると,婚姻継続中の者の割合と,死別の者の割合が特に高かった。
犯行時の就労状況を見ると,高齢群では無職者が7割を超え,次いで,主婦・家事従事が多く,有職者(自営・会社役員,安定就労又は不安定就労)の割合は,約1割にとどまった。もっとも,高齢群のうち無職者(無職理由が不明の者を除く。)について,その無職理由を見ると,年金を受給しているなどの事情により就労の必要がない者が74.3%を占め,次いで,身体疾患による者が10.3%であった。
検挙時の疾患の有無を見ると,高齢群,非高齢群共に,疾患が特にない者が7割を超えて最も多かった。高齢群では,次いで,身体疾患のみの者が約2割であった。精神疾患のある者(精神疾患のみ又は身体疾患及び精神疾患)は,非高齢群では16.8%であったのに対して,高齢群では3.0%と低かった。
万引き事犯者について,主たる犯行の態様を高齢群と非高齢群の別に見ると,7-4-1-5図のとおりである。
窃取物品の金額を見ると,高齢群では3千円未満が約7割,なかでも千円未満が約4割を占め,非高齢群と比べて被害額は少額であった。
被害店舗との関係を見ると,非高齢群と比べて高齢群では,平素から客として来店している者と被害店舗での万引きにより検挙歴がある者の割合が高かった。
窃取物品(窃取物品が不明の者を除く。)について見ると,高齢群では食料品類が69.7%と大半を占めており,非高齢群における割合(39.1%)と比べて高かった。酒類は,高齢群で9.7%,非高齢群で9.9%と,両群共に一定の割合を占めていた。
検挙時の所持金額(所持金額が不明の者を除く。)を見ると,高齢群では,5千円以上が48.7%,千円以上5千円未満が24.3%,千円未満が17.6%,所持金なしが9.4%と,非高齢群(それぞれ,41.8%,17.4%,23.6%,17.3%)より所持金が多かった。
万引きを行った動機・理由又は目的(以下「動機等」という。)及び万引きに至った背景事情として想定し得る項目をあらかじめ複数設定した上で,主として捜査段階及び裁判時における調査対象者の供述内容を基に,該当するものを選別して集計した(重複計上による。)。
万引きを行った動機等を,高齢・非高齢及び男女の別に見ると,7-4-1-6図のとおりである。
高齢男性群,高齢女性群共に「節約」を動機とする者が多く,特に,高齢女性群では約8割,高齢男性群でも半数を超えた。「自己使用・費消目的」の者は,いずれの群においても半数を超えた。「生活困窮」による者は,女性と比べて男性に多く,高齢男性群では4人に1人であった。「盗み癖」は,高齢女性群の約3割,高齢男性群の約2割であった。「空腹を満たすため」の者は,女性と比べて男性に多く,高齢男性群でも一定数を占めた。万引きをしても見つからない,見つかっても大したことではないといったように,万引きを「軽く考えていた」者は各群で一定数おり,高齢男性群,高齢女性群共に1割を超えていた。「ストレス発散」は,男性と比べて女性に多く,高齢女性群の約1割であった。「換金目的」の者は,非高齢男性群で一定数いたが,高齢男性群,高齢女性群共におらず,「収集目的」の者は,いずれの群においてもごく少数か皆無であった。
さらに,万引きに至った主な背景事情を,高齢・非高齢及び男女の別に見ると,7-4-1-7図のとおりである。
主な背景事情のうち,経済面や生活状況に関連する事情(「就職難」,「収入減」,「無為徒食・怠け癖」及び「住居不安定」)を見ると,「収入減」はいずれの群においても1割程度おり,それ以外の事情は,非高齢男性群で高かったが,高齢男性群でも,「無為徒食・怠け癖」,「住居不安定」がそれぞれ1割強ずついた。生活習慣等に関連する事情(「習慣飲酒・アルコール依存」及び「ギャンブル耽溺」)を見ると,いずれの項目も女性と比べて男性に多く,高齢男性群では「習慣飲酒・アルコール依存」は約2割,「ギャンブル耽溺」は約1割いた。「心身の問題」は,非高齢女性群で約4割と最も高かったが,高齢女性群で約3割,高齢男性群で約2割いた。対人関係に関連する事情(「配偶者等とのトラブル」,「親子兄弟等とのトラブル」,「近親者の病気・死去」及び「家族と疎遠・身寄りなし」)を見ると,「配偶者等とのトラブル」は男性と比べて女性に多く,高齢女性群で約1割であった。「親子兄弟等とのトラブル」は非高齢女性群以外では比率が低く,「近親者の病気・死去」は高齢女性群の比率が高く,約3割であった。「家族と疎遠・身寄りなし」は女性と比べて男性に多く,高齢男性群で約4割であった。
万引き事犯者の犯行時の居住状況について,住居不定の者の割合を見ると,高齢群では7.6%であり,非高齢群(18.6%)と比べて低かった。なお,高齢群で住居不定であった者は,いずれも男性であった。
万引き事犯者の同居人や交流のある近親者の有無を,高齢・非高齢及び男女の別に見ると,7-4-1-8図のとおりである。
同居人ありの割合は,男性と比べて女性で高く,高齢男性群の約半数,高齢女性群では約7割に同居人がいた。単身居住者で,交流のある近親者がいない者の割合は,女性と比べて男性で高く,高齢男性群では約3分の1を占めたが,高齢女性群では1割に満たなかった。
万引き事犯者の犯行時の収入額(月収による。)を高齢群と非高齢群の別に見ると,7-4-1-9図のとおりである。
高齢群は,非高齢群と比べて安定収入なしの割合が低かった。高齢群では,5万円から15万円の収入がある者の割合が全体の約6割を占め,非高齢群と比べて高かった。
高齢群で安定収入なしの者の性別を見ると,男性が25人(高齢男性群の15.4%),女性が3人(高齢女性群の2.5%)であり,男性で多かった。
高齢群(収入源が不明の者を除く。)について,主な収入源を見ると,年金が60.9%で最も多く,次いで,生活保護(14.7%),給与(6.4%),家族の収入(6.0%)の順であった。
また,資産状況が不明の者を除いて,犯行時の資産状況を見ると,高齢群では,資産なしが52.2%,預貯金以外の資産のみありが16.1%,預貯金あり(50万円未満)が8.6%,預貯金あり(50万円以上)が23.1%であり,非高齢群では,資産なしが62.5%,預貯金以外の資産のみありが12.1%,預貯金あり(50万円未満)が12.1%,預貯金あり(50万円以上)が13.2%であった。高齢群は非高齢群と比べて,資産のない者の割合が低く,50万円以上の預貯金がある者の割合が高かった。
負債状況が不明の者を除いて,犯行時の負債の状況を見ると,高齢群では,負債なしが86.7%,負債あり(50万円未満)が5.6%,負債あり(50万円以上)が7.6%であり,非高齢群では,負債なしが71.6%,負債あり(50万円未満)が9.0%,負債あり(50万円以上)が19.4%であった。高齢群は非高齢群と比べて,負債のない者の割合が高く,50万円以上の負債がある者の割合が低かった。
万引き事犯者の前科,前歴及び窃盗による微罪処分歴を,高齢・非高齢及び男女の別に見ると,7-4-1-10図のとおりである。
前科の有無を見ると,前科のない者の割合は高齢男性群で約2割と最も低く,次いで非高齢男性群,高齢女性群の順であり,非高齢女性群が約半数で最も高かった。
前科の内容を見ると,高齢男性群では,懲役・禁錮の前科がある者,なかでも窃盗を含む前科がある者が多く,高齢男性群全体の約半数を占めた。高齢女性群では,窃盗を含まない前科がある者はごく少数であり,懲役・禁錮の前科がある者,なかでも窃盗を含む前科がある者が約3割いたほか,窃盗を含む罰金前科のある者も2割を大きく超えていた。
前歴(起訴されていない前歴に限る。交通法令違反又は過失運転致死傷等のみによる前歴を除き,少年時の前歴を含む。以下この節において同じ。)の状況を見ると,高齢群においては,前科・前歴のない者はごく少ないか皆無であった。高齢男性群では,前科のある者の割合が高いこともあり,前科がなく窃盗を含む前歴がある者の割合は2割に満たなかった。高齢女性群では,前科・前歴のない者はおらず,窃盗を含む前歴のある者の割合は約4割であり,なかでも,窃盗を含む前歴が複数回ある者の割合が3割を超えていた。
窃盗による微罪処分歴(微罪処分については,本編第3章第1節5項参照)の状況を見ると,窃盗による微罪処分歴がある者の割合は,高齢女性群で87.3%と最も高く,高齢男性群でも71.1%を占めた。なかでも,高齢女性群では,窃盗による微罪処分歴が複数回ある者が35.7%を占め,他の群と比べて高かった。
万引き事犯者のうち高齢群について,初回検挙時の年齢に係る累積人員比率(横軸の年齢までに初回の検挙に至った者の累積人員の比率をいう。)を総数・男女別に見ると,7-4-1-11図のとおりである。
男性は,20歳までの間に急激に上昇し,その後はなだらかに上昇を続け,40歳を過ぎて一旦横ばいになり,50歳を過ぎた後に再び急激に上昇している。一方,女性は,50歳までは上昇のペースは緩やかであるが,50歳を過ぎた頃に急激に上昇している。
高齢男性群では,20歳までに2割の者が, 53歳までに半数の者が初回検挙に至っているが,高齢女性群では,44歳になって2割の者が,60歳までに半数の者が初回検挙に至っている。65歳を超えてから初回検挙に至った者の割合は,高齢男性群では25.1%,高齢女性群では29.4%を占めている。
万引き事犯者の科刑状況について,高齢群と非高齢群の別に見ると,7-4-1-12図のとおりである。なお,この節では,平成25年法律第49号による改正前の刑法25条に規定する刑の執行猶予を「執行猶予」という。
科刑状況は,高齢群,非高齢群共に約半数が罰金刑であった。執行猶予者の保護観察率を見ると,高齢群では10.9%,非高齢群では18.1%であった。
懲役刑(実刑又は執行猶予)に処せられた者について,刑期を見ると,高齢群の3分の1が1年未満であり,その割合は非高齢群と比べて高かった。
罰金刑に処せられた者について,罰金額を見ると,高齢群,非高齢群共に20万円が最も多く,約半数を占めた。
万引き事犯者の科刑状況について,前科状況別に見るとともに,これを高齢・非高齢及び男女の別に見ると,7-4-1-13図のとおりである。
前科のない者では,非高齢男性群を除いて罰金刑がほとんどであった。
罰金前科のみの者では,高齢男性群では約6割が罰金刑であったが,高齢女性群では罰金刑が約4割,懲役刑(執行猶予)が約6割であった。
懲役又は禁錮の前科がある者では,いずれの群においても懲役刑(実刑)が最も多く,6割前後を占めた。
万引き事犯者(帰住予定先が不明の者を除く。)の調査対象事件の裁判時における帰住予定先について,科刑状況別に見ると,以下のとおりであった。
罰金処分者については,高齢群では,家族・親族等と同居(62.4%),単身の自宅(33.8%)が多く,非高齢群でも,それぞれ,64.2%,24.3%であった。
執行猶予者については,高齢群では,家族・親族等と同居(56.3%),単身の自宅(31.3%)が多く,非高齢群でも,家族・親族等と同居(61.8%)が多かったが,単身の自宅が17.2%,未定が13.1%であった。
懲役刑(実刑)に処せられた者については,高齢群では,家族・親族等と同居(39.0%),未定(37.7%),単身の自宅(20.8%)が多かったが,非高齢群では,それぞれ,47.7%,37.6%,10.5%であった。
万引き事犯者のうち罰金処分者と執行猶予者について,調査対象事件の裁判確定後,約2年間における再犯の有無と再犯の罪名を調査した。ここで,再犯とは,調査対象事件の起訴(複数の起訴がある場合には,最終の起訴)後に,新たに行った犯罪により,平成25年6月末までに有罪裁判が確定した事件をいう(以下この節において同じ。)。結果を,科刑状況別に見るとともに,高齢群と非高齢群の別に見ると,7-4-1-14図のとおりである。
罰金処分者では,再犯のあった者の割合は,高齢群では25.8%,非高齢群では30.7%であった。
執行猶予者では,再犯のあった者の割合は,高齢群では20.3%であり,非高齢群(33.0%)と比べて低かった。
さらに,男女別に見ると,罰金処分者では,再犯のあった者の割合は,高齢女性群(34.2%)で最も高く,次いで,非高齢男性群(32.1%),非高齢女性群(28.5%),高齢男性群(18.6%)の順であった。執行猶予者では,再犯のあった者の割合は,非高齢男性群(34.5%)で最も高く,次いで非高齢女性群(28.1%),高齢男性群(21.2%),高齢女性群(19.4%)の順であった。
万引き事犯者のうち罰金処分者と執行猶予者について,その再犯期間(調査対象事件の裁判確定日から再犯の犯行日までの期間をいい,複数の再犯がある場合には最初の犯行日による。以下この節において同じ。)に係る累積再犯率(各群の人員に占める,再犯のあった者の累積人員の比率をいう。以下この節において同じ。)を,科刑状況及び高齢・非高齢の別に見ると,7-4-1-15図のとおりである。
罰金処分者の累積再犯率は,高齢群では,調査対象事件の裁判確定後5か月までは急激な上昇が見られるが,その後は上昇のペースはやや緩やかになり,19か月を超えると横ばいになっている。一方,非高齢群では,15か月までほぼ一定の割合で累積再犯率が上昇しており,その後は上昇のペースはやや緩やかになるものの,上昇を続けている。
執行猶予者の累積再犯率は,高齢群では,調査対象事件の裁判確定後2か月を超え4か月までは累積再犯率の上昇が目立つが,それ以外の期間では上昇のペースは緩やかであり,18か月を超えると横ばいになっている。一方,非高齢群では,5か月まで累積再犯率が急激に上昇し,その後も21か月まで一定の割合で累積再犯率が上昇し続けている。