矯正施設の運営には,地域社会の理解と協力が不可欠である。この項では,こうした理解や協力を得やすい環境を醸成するため,矯正施設が職員の専門性等をいかして地域社会に対する協力や貢献を行っている活動について紹介する。
全国の少年鑑別所は,「法務少年支援センター」という名称で地域社会における非行及び犯罪の防止に関する援助(以下「地域援助」という。)を行っている(第3編第2章第3節4項参照)。7-2-2-14図は,地域援助の概要を示したものである。
少年鑑別所では,従来,非行や犯罪等の問題行動に関する少年や保護者等からの相談に応じていたが,少年鑑別所法の施行により,地域援助が少年鑑別所の業務の新たな柱の一つとして位置付けられ,地域社会や関係機関のニーズに広く対応できる枠組みが整ったことで,その実施件数が急増している。地域援助の種類は,少年やその保護者等の個人からの依頼に基づく援助と,機関・団体からの依頼に基づく援助の二つに大別される。援助の内容としては,少年や保護者に対する心理相談や性格検査等の実施に加えて,関係機関が主催する事例検討会への参加や,地域住民や生徒の保護者に対する講演や研修も含まれている。平成28年の地域援助のうち,個人からの依頼に基づく援助は,延べ3,091人であった(矯正統計年報による。)。
7-2-2-15図は,平成28年の地域援助のうち,機関・団体からの依頼に基づく援助の実施状況を依頼元機関別に見たものである。依頼元機関としては,刑事施設や少年院といった矯正施設の占める割合が最も高いが,学校や教育委員会等の「教育関係」,児童相談所や地域生活定着支援センター等の「福祉・保健関係」,病院や診療所等の「医療関係」も一定の割合を占めており,多様な機関との連携が進められている。
平成23年3月11日に発生した東日本大震災では,法務省矯正局は,震災発生後に宮城県災害対策本部と調整の上,同県石巻市において,救援物資の提供と避難所での炊き出しを実施した。その後,石巻市から要請を受けて,全国の矯正施設の職員が支援のため現地に派遣され,同年4月27日から12月12日までの間,刑事施設の刑務官による避難所の運営支援,少年鑑別所の心理技官による被災者への心理相談,矯正施設の医師による,被災地の母子に対するメンタルヘルスケア業務や医療機関における救急外来治療といった継続的な支援が実施された。
また,刑事施設では,甚大な災害時においても収容業務等を円滑に行うことができるよう,平時においても,一定の非常食や燃料等を備蓄し,ライフラインの確保に努めるとともに,非常事態に備えて刑務官の訓練等を実施してきたところ,こうした特長をいかして,地方公共団体との間に災害時における相互協力に関する協定を設ける刑事施設が増えている。この協定には,災害時に,刑事施設の運営に支障のない範囲で,刑事施設の一部(武道場,職員の待機所等)を地域住民等の避難所や防災関係機関の活動拠点として提供するといったことなどが盛り込まれている。そのほか,災害時だけでなく,平素から地方公共団体との間で緊密に情報交換を行い,緊急時に備えることを定めている協定もあり,地方公共団体が行う災害対策に刑事施設が積極的に協力するなど,地域住民の安全確保のための取組を行っている施設もある。
なお,平成28年12月末日現在,災害時支援に関して地方公共団体との間に協定を結んでいる刑事施設は,24施設であった(法務省矯正局の資料による。)。