児童虐待(保護者によるその監護する18歳未満の児童に対する虐待の行為。児童虐待防止法2条参照)は,児童の人権を著しく侵害し,その心身の成長及び人格の形成に重大な影響を与えることなどに鑑み,近年,児童虐待を広く規制する児童虐待防止法の制定とその改正(平成16年法律第30号等)を始めとして,児童虐待の予防,対応,被害児童の自立支援等を内容とする児童福祉法の改正(平成28年法律第63号),親権の停止制度の創設を内容とする民法の改正(平成23年法律第61号)等の関係法令の整備によって,児童虐待を防止するための制度の充実が図られている。また,「児童虐待防止対策に関する業務の基本方針について」(平成28年3月閣議決定)に基づき,平成28年5月,厚生労働大臣を議長とする「児童虐待防止対策に関する関係府省庁連絡会議」が設置され,総合的な児童虐待防止対策が関係府省庁の緊密な連携の下に推進されている。
児童に対する性的虐待の関係では,平成29年6月に成立した刑法の一部を改正する法律により,18歳未満の者に対し,その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為又は性交等をした者を処罰する監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪が新設された(第2編第1章7項(3)参照)。
全国の児童相談所における児童虐待に関する相談対応件数の推移(最近5年間)は,4-6-1-1図のとおりである。平成27年度の対応件数総数は10万3,286件で,23年度(5万9,919件)の約1.7倍であった。特に,心理的虐待についての対応件数が著しく増加しており,27年度は23年度の約2.8倍であった(CD-ROM参照)。
4-6-1-2図は,児童虐待に係る事件(児童虐待防止法2条の規定する児童虐待により犯罪として検挙された事件をいう。以下この項において同じ。)について,罪名別の検挙件数及び検挙人員総数の推移(最近10年間)を見たものである(罪名別の検挙人員については,CD-ROM参照)。検挙件数及び検挙人員総数は平成26年から3年連続で増加し,28年は1,041件,1,071人であり,それぞれ19年(300件,323人)の約3.5倍,約3.3倍であった。特に,暴行が顕著に増えている(CD-ROM参照)。
4-6-1-3表は,平成28年の児童虐待に係る事件の検挙人員について,被害者から見た加害者との関係別に見るとともに,これを罪名別に見たものである。総数では,父親等によるものの割合(73.3%)が高いが,殺人では,母親等によるものの割合が88.9%と高かった。また,実親による犯行が総数の67.7%を占めている。
児童虐待事案等において,被害者等の立場で刑事手続に関与する児童の事情聴取を,児童相談所職員,警察官,検察官等がそれぞれの立場で個別に行った場合の児童に対する過大な負担を軽減する必要性等に鑑み,平成27年10月に発出された最高検察庁,警察庁及び厚生労働省の各所管課長等通知を踏まえ,全国の検察庁,都道府県警察及び児童相談所において,刑事事件として立件が想定される重篤な虐待事案等における早期の情報共有及びそれを踏まえた対応の協議等,一層の連携強化が進められている。