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平成29年版 犯罪白書 第4編/第6章/第1節/コラム

コラム 処分前カンファレンスを中心とした児童虐待事案に関する東京地方検察庁の取組

児童虐待事案は,当該事案における被害そのものは軽微であったとしても,親の養育能力など背景にある問題が深刻な場合もある。また,加害者が被害児童の保護者であるため,加害者の身柄が拘束されていたとしても,釈放後は,いずれ,被害児童と再び同居し,加害時点と同じ生活環境に戻ることも多く,類型的に再犯・再被害の可能性が高い。したがって,刑事処分を決するに当たっては,犯人の刑事責任に応じた相応の処分を行うという原則の下で,被害児童の安全を確保して再被害を防止することに最大限配慮しつつ,加害者が抱える問題の解決にも目を配るなどの刑事政策的視点に立った適切な事件処理を行うことが必要である。

しかし,もとより検察庁だけで有効な再犯・再被害防止措置を講じることは不可能であるため,東京地方検察庁では,平成28年4月以降,必要に応じて多機関が連携して,被害児童の保護や加害者の指導・支援の方向性を具体的に検討する,刑事処分前(公判請求後判決前を含む。)の協議(以下「処分前カンファレンス」と総称する。)を試行している。処分前カンファレンスには,児童相談所,子ども家庭支援センター,警視庁のほか,事案に応じて,福祉事務所,保健所,学校,病院,地方公共団体の女性相談窓口等の関係機関から担当者の参加を求めている。また,東京地方検察庁からは,当該事件の担当検察官のほか,被疑者・被告人に対し円滑な社会復帰を支援し再犯を防止するための取組を行っている「社会復帰支援室」及び犯罪被害者等のための諸施策を実施している「犯罪被害者支援室」に所属する担当者も出席し,参加者全員で,それぞれの専門性をいかしながら,再犯・再被害を防止するための具体的な役割分担を協議し,環境調整を図っている。

平成29年6月1日現在までに処分前カンファレンスが実施された事件数は19件であるところ,傷害罪や暴行罪といった身体的虐待の事案が大半を占め,起訴猶予処分としたもの以外に,略式命令請求や公判請求としたものもあるが,公判請求をした上で,執行猶予判決を見込んで,その後の対応までを含めて検討したものもある。具体例を挙げると,子に対する暴行事件において,その背景に,配偶者と子に対する日常的な暴力,被疑者のアルコール依存という問題があったため,処分前カンファレンスを実施して,児童相談所において子を一時保護し,福祉事務所において配偶者をシェルターに避難させる手配をするとともに,被疑者につき,児童相談所による指導とアルコール依存の専門医によるカウンセリングを継続的に受けることができるよう環境調整の措置を講じた上,その結果等を踏まえて不起訴処分(起訴猶予)とした事案がある。

このような個別事案における対応以外にも,東京地方検察庁では,平成28年5月,捜査部門や公判部門所属の検察官等で構成される児童虐待事案対策プロジェクトチームを発足させ,被害児童から事情聴取する際の留意点の検討や,身体的被害の医学的所見等に関する法医学者等の講演会や勉強会の開催等を通じて,同プロジェクトチームのメンバーの児童虐待事件に対応するために必要な専門的知識を深めることに努めている。また,警視庁や児童相談所とも相互理解を深め,更に迅速・適切な連携を図ることができるよう,随時,意見交換の機会を設けて議論を重ねている。