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平成28年版 犯罪白書 第5編/第2章/第7節/2

2 暴力団関係者等再犯リスクの高い者に関する研究

法務総合研究所が行った暴力団関係者等再犯リスクの高い者に関する主要な研究は,5-2-7-1表のとおりである。

5-2-7-1表 暴力団関係者等再犯リスクの高い者に関する研究一覧
5-2-7-1表 暴力団関係者等再犯リスクの高い者に関する研究一覧

暴力団関係者に焦点を当てた研究として,研究部報告14では,暴力団関係受刑者及び暴力組織関係保護観察付執行猶予者を対象とした調査を行っており,刑事施設の調査では,暴力団関係者の犯罪が昭和40年代の終わり頃から暴力行為を構成要件とするものから覚せい剤取締法違反へと移っていること,殺人など一部の罪種を除き,事件を所属組織のためでなく,自分や家族のために行っている者が多いことなどを明らかにした。また,保護観察付執行猶予者についての調査では,主に暴力組織関係者の属性と,再犯や執行猶予取消等との関連についての分析を行っており,暴力組織関係者と保護観察付執行猶予者全体との間で執行猶予の取消率(本編第1章第4節2項参照)に統計的な差はなく,暴力組織との関係の強さや組織への加入が自発的であるか否かといった暴力組織関係者に特有の要因のほか,就労の有無,配偶者の存在,同居家族の監督能力や保護観察への関心等が,再犯等の有無に関係するという結果が得られている。

飲酒に関する問題性を有する者について,研究部報告43では,成人男性受刑者及び「問題飲酒対象者」の類型(第2編第5章第2節2項(2)ア参照)に該当する成人の保護観察対象者に対して質問紙調査を実施し,飲酒の量と頻度から飲酒パターン等の分析を行っている。受刑者については,一般成人男性に比べ多量飲酒者の占める割合が高く,特に飲酒関連の交通事犯,犯行時に飲酒していた粗暴事犯及び問題飲酒による生活困窮があった窃盗・詐欺事犯では,飲酒行動に抑制が利きにくく同種事犯を繰り返す傾向が認められた。また,「問題飲酒対象者」の類型に該当する者についての調査では,飲酒開始年齢が低いと犯行当時の飲酒量が多く,飲酒に関連する否定的経験も多いこと,保護観察期間中の犯罪や問題行動等の多くがアルコールに関連するものであること,保護観察期間中は断酒している者であっても,将来的に飲酒したいと考えている者も少なくないことなどを明らかにした。

対人暴力の問題性を有する者について,平成22年版犯罪白書では,殺人,強盗,傷害致死等の重大事犯による刑事施設出所者を対象として,仮釈放中の保護観察の経過や出所から10年以内の再犯の状況を調査しており,重大事犯者では出所者全体に比べて満期釈放者と仮釈放者の再入率のかい離が大きく,出所年を含めて6年目以降に再入所する者の割合が高いことを指摘するとともに,犯行時の生活状況等による再犯率の違いや,再犯者の事例を分析し,罪名ごとの特徴を明らかにしている。

他にも法務総合研究所では,幾つか重大事犯者(研究部報告23,45,50)やDV(研究部報告24,40,45)に焦点を当てた研究を行っている。特に総合対策にも掲げられたDVについては,事件記録等の調査を通じ,加害者のみならず被害者の属性や両者の関係性,保護命令の発令から同命令違反までの経過等の検証を行い,加害者と被害者では両者の間の葛藤の原因に対する認識の違いがあること,受刑歴の有無,被害者との関係修復の希望,被害者にも問題があると考える意識や不就労状態等が保護命令違反の態様に影響すること,加害者と被害者が内縁関係にある場合や加害者に親兄弟への暴力行為もある場合にDVと児童虐待の並存が多いことなどの知見が得られている。