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平成28年版 犯罪白書 第5編/第2章/第7節/コラム

コラム 暴力防止プログラムの見直しに関する取組

保護観察所では特定の犯罪的傾向を改善するための専門的処遇として各種のプログラムを実施しているが(第2編第5章第2節2項(2)ウ参照),これらプログラムは一度策定した後も,施策の効果と質を高めるため,絶えずその内容等について検証しつつ,必要に応じて改善を図っていく必要がある。

平成20年度から,保護観察所では,傷害,暴行等の暴力犯罪を反復する傾向を有する仮釈放者及び保護観察付執行猶予者(暴力団関係者や,金銭的欲求を背景に計画的に暴力犯罪を行った者等を除く。)に対して,認知行動療法等を用いて,怒りの衝動等を統制し,暴力を振るわない具体的な方法を習得させ,再犯を防止することを目的とした「暴力防止プログラム」を実施してきた。同プログラムは全5課程で構成され,保護観察官がワークブックにより個別指導又は集団処遇による指導を行うものである。

しかし,暴力防止プログラムの運用開始から5年を経過し,総合対策の中でアルコール依存やDVの問題性が大きい者に対する適切な処遇が求められたことなどから,法務省保護局はワークブック等のプログラム内容の検証を行い,平成25年度に,全国の保護観察所で実務に携わる保護観察官の意見を集約した結果,例えば,飲酒下の酩酊状態で犯行に及んだ者や,DVなど暴力行為の動機が被害者との関係に依存する者など,怒りの衝動等への対処を中心としたこれまでのプログラムの内容になじみにくい対象者に対応する必要性等が指摘された。これを踏まえ,26年度は,「暴力防止プログラム検討会」を立ち上げ,構成員である精神科医師や心理学者等の専門家と実務に携わる保護観察官等から意見を聞き,新たなワークブック等の素案を作成するなどして,プログラム内容の見直しを行った。新たなプログラムは,従前の理論的基盤や実施の枠組みを維持しつつ,これまでの内容と比べ,暴力の要因となる多様な特性,日常生活でのストレスへの対処能力等に多面的に介入するものとなっている。特に飲酒やDVの問題性に対しては,導入課程でのアセスメントの結果に基づき,「オプション単元」として,アルコール依存症の心理教育や,パートナーへの暴力を容認する考え方への介入など,必要に応じて選択的に実施できる指導内容の充実が図られている。また,より読みやすいワークブックとするなど,受講者の理解を促進するための工夫が随所に盛り込まれている。

新たなプログラムは平成27年4月から全国の保護観察所で実施され,同年にプログラムの受講を開始した329人のうち,飲酒の問題性がある者は128人,DVの問題性がある者は81人であった(重複計上している。法務省保護局の資料による。)。プログラムの実施に当たる保護観察官からは,「内容の汎用性が高まり,多様な暴力事犯に対応しやすくなった。」,「暴力の防止ばかりでなく,受講者の日常生活での健全な部分にも焦点が当てられるようになった。」といった感想が聞かれ,受講者からも「(感情や考えの)ごちゃごちゃが整理できた。」,「(DVに関して)そういう考え方もあるかもしれないと思った。」等の反応があり,今回の見直しが,受講者が抱える問題性への気付きと更生への動機付けをより高めていることがうかがえる。実務に携わる保護観察官からは,今後も,必要に応じた検証と改善の積み重ねがなされていくことが期待されている。

暴力防止プログラムの実施風景(イメージ)【写真提供:東京保護観察所】
暴力防止プログラムの実施風景(イメージ)
【写真提供:東京保護観察所】