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平成28年版 犯罪白書 第5編/第2章/第6節/1

第6節 性犯罪者
1 性犯罪者の再犯防止に関する各種施策

総合対策では,性犯罪者に対しては,関係機関の情報連携や実証研究に基づく評価手法等を通じて,個々の再犯リスクを適切に把握し,刑務所等収容中から出所等後まで一貫性のある性犯罪者処遇プログラムや,子どもを対象とする暴力的性犯罪の出所者に対する所在確認・面談等により,効果的な指導・支援を実施することが求められている。特に,小児を対象とした性犯罪者,性犯罪又は性犯罪と密接な関連を有する他の犯罪を累行する者等,性犯罪リスクの高い刑務所出所者等に対する再犯防止対策の在り方については,諸外国の取組事例等も参考とし,新たな対策の検討を行うこととされている。

性犯罪者の再犯防止に向けた取組としては,平成17年に法務省矯正局と保護局が共同して性犯罪者処遇プログラム研究会を立ち上げ,そこでの検討結果を受け,18年度から,刑事施設では性犯罪再犯防止指導を特別改善指導の一つとして実施しており(第2編第4章第2節3項(2)参照),保護観察所では性犯罪者処遇プログラムを実施している(第2編第5章第2節2項(2)ウ参照)。刑事施設における性犯罪再犯防止指導は,男性の性犯罪受刑者を対象とし,性犯罪につながる認知の偏り,自己統制力の不足等の自己の問題性を認識させ,その改善を図るとともに,再犯をしないための具体的な方法を習得させることを目的とするものであり,性犯罪者に対する詳細な調査を通じて,対象者の性犯罪の再犯リスクに応じて実施されている。保護観察所における性犯罪者処遇プログラムも,刑事施設におけるプログラムと同様の処遇理論に基づき,「性犯罪等対象者」の類型(第2編第5章第2節2項(2)ア参照)に認定された仮釈放者及び保護観察付執行猶予者の男性を対象に実施されている。保護観察所におけるプログラムの中では,同意を得られた対象者の家族から必要な協力を得るとともに,家族を精神的にサポートし,更生の援助者としての家族の機能を高めることを目的とした家族プログラムも行われている。また,刑事施設と保護観察所では,施設内及び社会内における性犯罪者処遇の一貫性を保ち,処遇の実効性を高めることを目的として,刑事施設において実施した性犯罪再犯防止指導の実施結果及び保護観察所において実施した性犯罪者処遇プログラムの実施結果について相互に引き継ぐことによって情報の共有がされている。

関係機関の連携としては,平成17年6月から,子供を対象とする暴力的性犯罪の再犯を防止するため,被害者が13歳未満の強制わいせつ,強姦,わいせつ目的略取誘拐,強盗強姦等の罪で服役した受刑者の出所情報(釈放予定日,入所日,帰住予定地等)を法務省から警察庁に提供する制度が運用されている(第2編第4章第2節6項参照)。同制度は,23年から拡充され,法務省から警察庁に対し,当該受刑者の性犯罪再犯防止指導の指導密度や再犯防止のために参考となる事項を情報提供する一方で,法務省は警察庁から当該受刑者の出所後の再犯状況等について情報提供を受けている。

性非行を犯した少年に対する教育は,従前から各少年院において,性非行の問題性に焦点を当てた問題群別指導の一つとして行われてきたが,平成22年の「少年矯正を考える有識者会議」の提言を背景に,24年に「矯正教育プログラム(性非行)」を開発し,27年6月から,特定生活指導の一つとして性非行防止指導を実施している(第3編第2章第4節2項(2)ア参照)。また,少年鑑別所においては,同月から,性非行に係る再非行の可能性及び教育上の必要性を定量的に把握することを目的に,法務省式ケースアセスメントツール(性非行)MJCA(S))を全庁に導入しており,収容審判鑑別時と,少年院における性非行防止指導受講後の処遇鑑別時のMJCA(S)の双方の結果を比較し,問題性の変化や残された教育上の課題を把握する試みも行われている。