薬物依存症からの回復には長い期間を要することから,刑事司法機関による施設内及び社会内処遇を終えた後も,地域の保健・医療・福祉機関,民間の自助グループ等による長期間の継続的な支援が欠かせない。保護観察所とも連携して薬物事犯者の受入れを行っている民間支援団体「NPO法人栃木ダルク」(以下「栃木ダルク」という。)では,「薬物依存者が互いに自ら回復・成長するための場とプログラムを提供すること」,「社会復帰後も自ら継続したケアができるよう支援すること」を基本理念に掲げ,入寮者のニーズに対応した居住型薬物依存症リハビリテーション施設において,様々なプログラム等を提供している。
薬物依存症からの長い回復の過程においては,薬物依存症そのもの以外にも考慮しなければならない課題が多数あるところ,栃木ダルクの入寮者のうちにも,身体疾患を有していたり,高齢であったり,薬物依存症以外の精神疾患を抱えているなどのために他者とのコミュニケーションがうまくいかない者も少なくないという。こうした背景事情を踏まえて,栃木ダルクでは,標準的な依存症プログラムをその課程に沿ってこなしていくことが難しい者を対象として,農業をプログラムの中心に据えた「那珂川コミュニティファーム」(以下「那珂川CF」という。)を開設している。那珂川CFでは,入寮者が,地元の「星の見える丘農園」による農業指導の下,日曜日を除き,毎日3時間以上の農作業を行っている。入寮者が収穫した米や野菜を直売所やJAに出荷しており,作物を育てるという喜びや収穫による達成感を得ることを通じて,生活習慣の改善や自信の回復を図っている。こうした農作業が,他者への関心を育んだり,専門的な処遇プログラムへの参加の意欲を高めたりすることにもつながっているといい,農作業により得られた自信等を基盤として,専門的な処遇プログラムや近隣の薬物依存者の自助グループの会合への参加を組み合わせて,薬物依存症からの回復を促している。
そのほか,那珂川CFでは,地元の保護司会や更生保護女性会との交流会や関係機関との連絡協議会も実施しており,こうした取組を通じて,入寮者が地域に円滑に溶け込むよう工夫をしている。また,入寮者の医療は近隣の病院,入寮費用等は地方自治体,就労支援はハローワークから支援を得ており,多くの機関・団体等と連携し,その協力を得ながら,薬物依存症からの回復という長い道のりを継続的に支援する態勢を整えている。