法務総合研究所が行った性犯罪者に関する主要な研究は,5-2-6-1表のとおりである。
過去の研究では,性犯罪に特に焦点を当てた研究(平成18年版犯罪白書,27年版犯罪白書,研究部報告38,55)のほか,重大事犯者や暴力的色彩の強い犯罪の一類型として性犯罪を取り上げた研究(14年版犯罪白書,22年版犯罪白書)もある。
このうち,平成18年版犯罪白書では,各種統計資料に基づいて,強姦や強制わいせつ等の動向を明らかにしているほか,特別調査を実施し,性犯罪の罪名及び被害者の年齢等に着目して調査対象者の類型化を行った上で基本的属性や前科等を分析し,それぞれの類型の特徴を明らかにしている。これらの成果を踏まえて,27年版犯罪白書及び研究部報告55では,性犯罪の対象を電車内等における痴漢や盗撮等の各都道府県の迷惑防止条例違反まで広げ,近年の性犯罪の動向を調査しているほか,性犯罪を含む事件で懲役刑の有罪判決を受け,裁判が確定した者を対象とした特別調査の結果を報告している。それらの調査の結果,強姦及び強制わいせつのいずれにおいても,被害者の年齢は未成年者及び20〜29歳の者の占める割合が高いことが示されたほか,強姦及び強制わいせつの成人検挙人員に占める有前科者率は,刑法犯全体の有前科者率よりも高い一方で,同一罪種の有前科者率は刑法犯全体よりも低く,異なる罪種の犯罪経歴を持つ者によって相当数の強姦や強制わいせつが引き起こされていることが明らかにされた。また,特別調査によって性犯罪者を類型化して分析した結果,性犯罪者といっても一様ではなく,類型ごとに特徴があり,例えば,集団強姦型では,少年時から性非行・性犯罪に限らず一般的な非行・犯罪傾向が認められる者が多いこと,小児わいせつ型では,中高年になってから性犯罪に及ぶ者が一定数含まれていること,痴漢型では,複数回の刑事処分を受けているにもかかわらず,痴漢行為を繰り返している者が多いことなどが明らかにされた。
さらに,総合対策では,再犯対策の有効性等に関する調査研究の実施が掲げられていることや,性犯罪者に対して,刑務所等収容中から出所等後まで一貫性のある処遇プログラムの実施が求められていることを踏まえ,研究部報告55では,刑事施設及び保護観察所を縦貫した処遇プログラムの再犯防止に関する効果の検証も行った。具体的には,刑事施設及び保護観察所のいずれの処遇プログラムも受講しなかった群と,双方の処遇プログラムを受講した群を比較して,処遇プログラムの受講が将来の再犯に与える影響について検討し,調査対象者の年齢や就労状況といった基本的属性や,性非行・性犯罪による前科等の有無,犯罪傾向の進度といった再犯に影響を与えると考えられる要因の影響を調整した上でもなお,処遇プログラムの受講が,再犯一般及び性犯罪の再犯の双方のリスクを統計的に有意に減少させるという結果を得た。
そのほか,総合対策では,諸外国の取組事例等を参考とした新たな対策の検討が求められているところ,この点に関連して,研究部報告38では,フランス,ドイツ,英国及び米国の4か国について,性犯罪に関する罰則の内容等の性犯罪処罰の概要や,各国の統計資料に基づいた性犯罪の動向を紹介している。さらに,前記4か国における様々な性犯罪対策(処罰範囲の拡大及び法定刑の引上げ,監視・監督の強化,関係機関の連携の強化,処遇の充実,性犯罪者の登録・公表制度,民事的収容等)についても,当該制度が導入された経緯や社会的背景事情,実際の運用状況を踏まえた上で紹介している。