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平成28年版 犯罪白書 第5編/第2章/第4節/1

第4節 女性
1 女性の犯罪者・非行少年の再犯防止に関する各種施策

総合対策では,近年の女性受刑者の増加に対し,薬物事犯者の占める割合の高さや高齢者における窃盗の占める割合の高さ等,女性に特徴的な傾向を分析し,更に効果的な指導・支援方策を検討することが求められている。また,過去の被虐待体験や性被害による心的外傷,摂食障害等の精神的な問題を抱えている者に対し,社会生活への適応のための支援方策を検討することとされている。

女性受刑者に関し,法務省矯正局は,女性を収容する刑事施設の運営改善について,収容環境の改善,対象者の特性に応じた処遇の充実,職員の執務環境改善といった観点から幅広く検討を重ね,平成26年1月,女性を収容する刑事施設の運営改善に関する総合的な対策として「マーガレットアクション〜働きやすい環境づくりと女子受刑者処遇の充実〜」を取りまとめ,地域の支援を得るためのネットワーク作り(女子施設地域支援モデル事業)を進め,女性受刑者特有の課題に対する処遇プログラム等を策定し,雇用ニーズに応じた職業訓練の充実等も図っている。

このうち,「女子施設地域支援モデル事業」は,平成25年2月に立ち上げられた「女子刑務所のあり方研究委員会」の提言を踏まえ,女子刑務所における医療・福祉等の問題に対処するため,26年4月から実施されている取組であり(第2編第4章第2節5項参照),地域の医療・福祉等の専門家とネットワークを作り,専門家の助言・指導を得て,女性受刑者特有の問題に着目した処遇の充実等を図っている。これまでの取組としては,看護協会,助産師会,社会福祉協議会等の協力の下,看護師,助産師,保健師,介護福祉士等の専門家の非常勤職員としての採用,高齢者・性差医療や摂食障害の専門家による職員研修等がなされている。また,専門家による受刑者に対する指導として,看護師・保健師による健康管理指導,助産師による妊産婦の受刑者に対する個別面接,保健師等による母親教育,介護福祉士による高齢受刑者に対する入浴指導等も行われている。本モデル事業の対象施設は,26年度は栃木刑務所,和歌山刑務所,麓刑務所の3庁であったが,27年度から札幌刑務支所,笠松刑務所,加古川刑務所,岩国刑務所が,28年度から福島刑務支所と西条刑務支所が新たに加わり,これら9庁において,地域の各分野の専門家から助言・指導を受けられる体制が整備されている。

女性受刑者特有の課題に係る処遇プログラムとしては,平成27年度から,一般改善指導の枠組みの中で,<1>窃盗防止指導,<2>自己理解促進指導(関係性重視プログラム),<3>自立支援指導,<4>高齢者指導,<5>家族関係講座の5種類のプログラムが実施されている。同年度中,窃盗防止指導が7庁,自己理解促進指導が3庁,自立支援指導が1庁,高齢者指導が2庁,家族関係講座が3庁で実施された。このうち,窃盗防止指導は,窃盗に至った自己の問題について身近な人との関係性の観点から振り返り,自己理解を深めさせること,自己肯定感を高め,適切な自己表現力を身に付けさせること,窃盗をしない生活を送るための具体的な方法を考えさせることを目標としており,グループワーク形式で,対象者7人程度を1グループとし,1回60分,全10回を3か月かけて実施している。

雇用ニーズに応じた職業訓練としては,平成26年度に,女性受刑者を対象とした医療事務科職業訓練が,美祢社会復帰促進センター,福島刑務支所,加古川刑務所で実施され,27年度,28年度は麓刑務所を加えた4庁で実施されている。

一方,女子の非行少年については,平成25年度に開催された「処遇プログラム等充実検討会」において,少年院・少年鑑別所職員に加え,医師や心理学の専門家をアドバイザーに迎えて,虐待等の被害体験を有する女子少年の鑑別上の留意事項や処遇ニーズを効果的に把握する方法についての検討がなされ,処遇上特別の配慮を必要とする女子少年院在院者に対する処遇プログラムが策定された。このプログラムの内容は,女子少年に共通する処遇ニーズに対応して全在院者を対象に実施する「基本プログラム」(アサーション・トレーニング及びマインドフルネス)と,特に自己を害する程度の深刻な問題行動を有する処遇ニーズの高い在院者を対象に実施する「特別プログラム」(自傷,摂食障害及び性問題行動に対するプログラム)からなる。26年度からは,「女子少年院在院者の処遇体制充実検討会」が開催され,現在,女子を収容する少年院11庁と少年鑑別所11庁により,プログラムの試行と内容の検討が続けられている。