東京地方検察庁では,被疑者・被告人の社会復帰に関する支援・調整の窓口として,「社会復帰支援室」の呼称で,社会復帰支援担当の検察官,事務官及び社会福祉アドバイザー(非常勤・社会福祉士)を配置している。同室での支援等の対象となるのは,高齢,障害等の事情により,社会復帰のため支援を必要とする被疑者・被告人であり,これらの者に対して適切な支援を行うことにより,再犯を防ぐことを目的としている。
社会復帰支援室では,事件担当検察官から相談があった場合,対象者の抱えている問題を把握し,その問題に応じた支援策を検討している。高齢・障害の問題がある場合は,福祉的な支援を要するため,福祉事務所その他の関係機関につなぐこととなるが,ほとんどの対象者が身柄拘束中であり,釈放までの限られた期間のうちに橋渡し先を確保しなければならないので,厳しい時間的制約の下での支援活動となる。
まず,対象者の問題を把握するには,事件記録を検討するだけでなく,必要に応じて,アドバイザーが対象者の面接を行うほか,少年鑑別所の心理技官による知能検査,福祉事務所のケースワーカーや過去に受診していた病院等からの情報収集を行うこともある。その結果,高齢ホームレスとして相談がなされた対象者が,実は,知的障害その他の精神障害や身体障害を有していたり,アルコール依存等の問題を抱えていることが判明することもある。
対象者の問題点が判明すると,次は,どのような支援が必要となるかを検討する。多くの問題点を抱える対象者の場合,異なる複数の機関に対して支援を求める必要があり,その調整は相当困難である。同室から,福祉事務所を始めとして,保健所,病院等関係機関に連絡を入れて事情を説明し,支援を依頼することになり,スピード感のある対応が要求される。場合によっては,同室から依頼し,福祉事務所,弁護人等が参加するケース会議を開いて,支援方針及び役割分担を決めていくこともある。高齢者・障害者であっても,自立の可能性がある対象者には,就労しながら自立した生活を送ることができるようにするための方策を探るようにしているが,そもそも就労や自立した生活が困難で,かつ,医療的措置を必要とする者も多い。認知症,アルコール依存等の問題を抱える対象者については,医療機関への入院の調整が必要な場合もあり,同室において,対象者の釈放の際に受け入れてくれる病院を探し,多数の病院に打診を繰り返した末にようやく受入先が見つかることもある。
福祉事務所や病院等の受入先が決まった対象者については,釈放の際に,同室の職員や対象者の弁護人が同行支援を行うことが多い。高齢で体が弱り,認知症の症状も始まっているような対象者の場合は,単独では福祉事務所までたどり着くことができなかったり,支援の意味が理解できない,あるいは自らの力では必要な支援を申告できないなどの理由で,あらかじめ調整した受入先での支援につながらないおそれがあるからである。
とはいえ,この支援は,対象者の同意に基づくものであり,強制することはできない。ときには,立ち去ろうとする対象者を,同行した職員が追いかけて説得を試みることもあるが,支援を頑なに拒否され,対象者が立ち去っていく姿を見送るほかないこともある。事前の調整を十分に行って,支援策を練っていたとしても,このような予想外の事態が生じるため,同行支援は,臨機応変な対応が要求される難しい業務である。一方,同室による調整や同行支援により,対象者が無事に福祉のシステムに乗り,後に福祉事務所から,「万引きを繰り返していた高齢者ですが,今では,高齢者施設で落ち着いて暮らしています。」との声が聞かれることもある。
同室の準備室が立ち上がってから,数年が経過したところであるが,多数の事例の積み重ねにより,関係機関との連携体制が次第に強化されてきている。