この項では,前科のない侵入窃盗事犯者の再犯状況について分析する。
6-4-5-2-1図は,前科のない侵入窃盗事犯者のうち,調査対象事件により罰金又は執行猶予付きの懲役に処せられた者について再犯率を見たものである。再犯率は15.9%であり,窃盗再犯率は12.2%であった。なお,再犯のあった者(13人)は,いずれも調査対象事件により執行猶予付きの懲役に処せられた者であり,罰金処分者(2人)に再犯者はいなかった。また,調査対象事件により実刑に処せられた者(28人)は,調査対象期間中に服役していた者が大半を占めており,再犯を行った者はいなかった。このため,以下においても同様に,調査対象事件において罰金又は執行猶予付きの懲役に処せられた者について再犯率を見る。
6-4-5-2-2図は,前科のない侵入窃盗事犯者について,年齢層別に再犯率を見たものである。年齢層と窃盗再犯率との間に明確な関連は認められなかった。
前科のない侵入窃盗事犯者について,窃盗前歴の有無別に再犯率を見たところ,窃盗前歴がない者の窃盗再犯率は11.5%,窃盗前歴がある者の窃盗再犯率は13.3%であり,窃盗前歴の有無と窃盗再犯率との間に明確な関連は認められなかった。
次に,犯行に至った動機・背景事情(本節1項(4)ウP312参照)が再犯率とどのように関係しているかを見る。
まず,年齢層に関係なく比較的多くの者が該当する動機・背景事情と窃盗再犯率との関係について見る。動機のうち「生活困窮」に該当する者(36人)の窃盗再犯率は16.7%(6人),「生活困窮」に該当しない者(46人)の窃盗再犯率は8.7%(4人)であったが,「生活困窮」への該当の有無と窃盗再犯率との間に明確な関連は認められなかった。また,背景事情のうち「ギャンブル耽溺」に該当する者(30人)の窃盗再犯率は13.3%(4人),「ギャンブル耽溺」に該当しない者(52人)の窃盗再犯率は11.5%(6人)であったが,「ギャンブル耽溺」への該当の有無と窃盗再犯率との間にも明確な関連は認められなかった。
これに対し,全体として該当する人数が少ないものの,窃盗再犯という観点から関連がうかがわれる背景事情としては,「習慣飲酒・アルコール依存」を挙げることができる。「習慣飲酒・アルコール依存」に該当する者(8人)のうち窃盗再犯を行った者は3人であるのに対し,「習慣飲酒・アルコール依存」に該当しない者(74人)のうち窃盗再犯を行った者は7人であった。これに関連する動機である「酒代欲しさ」では,「酒代欲しさ」に該当する者(4人)のうち窃盗再犯を行った者は2人であるのに対して,「酒代欲しさ」に該当しない者(78人)のうち窃盗再犯を行った者は8人であった。これらの動機・背景事情に該当する者の窃盗再犯率は,これらに該当しない者の窃盗再犯率と比べて比較的高い傾向がうかがえたが,該当する対象者数が少ないため,その解釈には留意を要する。
6-4-5-2-3図は,前科のない侵入窃盗事犯者について,犯行時の居住状況別に再犯率を見たものである。窃盗再犯率だけを見ると,住居不定の者の窃盗再犯率が高い傾向がうかがわれる。
前科のない侵入窃盗事犯者について,犯行時の就労状況別に再犯率を見ると,6-4-5-2-4図のとおりである。
前科のない侵入窃盗事犯者について,調査対象事件の裁判時における監督者の有無別に再犯率を見ると,監督者がいた者(61人)の窃盗再犯率は8.2%(5人)であった。監督者がいなかった者(21人)の窃盗再犯率は23.8%(5人)であった。
前科のない侵入窃盗事犯者について,金銭賠償による積極的弁償措置の有無別に再犯率を見ると,積極的弁償措置を行わなかった者(43人)の再犯率及び窃盗再犯率はそれぞれ23.3%(10人)及び18.6%(8人)であり,積極的弁償措置を行った者(39人)の再犯率7.7%(3人)及び窃盗再犯率5.1%(2人)と比較して高い傾向がうかがわれる。