前科のない侵入窃盗事犯者の総数は110人であった。男女別では,男子が106人(96.4%),女子が4人(3.6%)であった(総数に占める女子の割合が極めて低いため,以下,この節では,特に断らない限り,男子と女子を区別することなく,総数で検討する。)。
国籍等別では,日本が89人(80.9%),外国籍の者が21人(中国12人,韓国・朝鮮,ベトナム,コロンビアが各2人等)であった。前科のない万引き事犯者では,外国籍(無国籍を含む。)の者が7.3%であるのと比べると(本章第4節1項(1)P288参照),外国籍の者の割合は11.8pt高い。
調査対象事件における窃盗の事件数は延べ379件であり,前科のない侵入窃盗事犯者一人当たりの平均事件数は3.4件であった。前科のない万引き事犯者(1.2件)と比べると(本章第4節1項(1)P288参照),前科のない侵入窃盗事犯者は,一人当たりの事件数が多い。
6-4-5-1-1図は,前科のない侵入窃盗事犯者の犯行時の年齢層別構成比を見たものである。若年者が約3分の2を占めており,高齢者はいなかった。平均年齢は29.2歳であり,前科のない万引き事犯者と比べると(6-4-4-1-1図P289参照),前科のない侵入窃盗事犯者は,明らかに年齢層が若い。なお,最年少は18歳,最高齢は64歳であった。
6-4-5-1-2図は,犯行時の居住状況に関して,住居及び同居人の有無を見たものである。前科のない万引き事犯者と比べて(6-4-4-1-2図CD-ROM参照),住居不定の者の割合は9.6pt高い。
婚姻歴及び犯行時の婚姻状況を見ると,婚姻歴がない者は78人(70.9%)と大半を占め,犯行時に婚姻継続中であった者は15人(13.6%)であった。
6-4-5-1-3図は,犯行時の就労状況を見たものである。無職者の割合は6割に上る。
無職者について無職理由を見たのが6-4-5-1-4図である。「勤労意欲なし」が約6割に上り,前科のない万引き事犯者と比べて(6-4-4-1-5図CD-ROM参照),40.1ptも高い。
有職者37人(不安定就労を含む。)について,犯行時までの勤続期間を見ると,3年以上の者が14人であるのに対し,1年未満の者は15人であった。
前科のない侵入窃盗事犯者の犯行時における収入(学生・生徒の場合には,家族からの仕送りを含む。)について見ると,安定収入がない者は66人を占めた。
犯行時における資産状況について見ると,資産がある者は42人にとどまった。資産に関して,犯行時における預貯金の有無で見ると,預貯金がない者は84人であった。
安定収入も資産もない者は,45人に上る。
犯行時における負債状況について見ると,借金・債務がある者は71人に上り,その負債額が100万円以上の者も33人いる。また,その借入先(重複計上による。)としては,消費者金融が30人で最も多かった。
これらの結果から,総じて,前科のない侵入窃盗事犯者の場合,経済状況が不良な者が多い傾向がうかがえる。
前科のない侵入窃盗事犯者のうち,精神疾患の既往歴がある者は7人(6.4%)であり,万引き事犯者と比べて(6-4-4-1-8図CD-ROM参照),その割合は7.8pt低い。
前科のない侵入窃盗事犯者について,前歴の有無別構成比を見たのが6-4-5-1-5図である。前歴のない者の割合は58.2%であるが,前科のない万引き事犯者の総数では11.7%であったのと比べると(6-4-4-1-9図CD-ROM参照),その割合は46.5ptも高い。
次に,窃盗前歴のある者38人について,窃盗前歴の手口別内訳(重複計上による。)を見ると,万引きが12人で最も多いが,オートバイ盗及び自転車盗が各10人,出店荒しが5人,自動車盗,ひったくり及び車上ねらいが各3人等,様々な手口が見られた。窃盗前歴に微罪処分歴が含まれる者は5人にすぎなかった。
調査対象事件について,主たる犯行の手口別構成比を見ると,空き巣が43人(39.1%)と最も多く,次いで,出店荒し23人(20.9%),忍込み14人(12.7%),倉庫荒し9人(8.2%),金庫破り6人(5.5%)の順に多かった。
調査対象事件のうち,窃盗が未遂のみの者は2人,幇助のみの者が1人であり,これらの者を除いた,既遂のある者107人に限って被害状況を見る。
6-4-5-1-6図は,主たる犯行の被害額を見たものである。被害額が比較的高額に及ぶものが多い。なお,現金被害における最高金額は2,400万円であった。
主たる犯行の物品被害の点数を見ると,10点以下の者が57人(53.3%)を占めており,5点以下の者は44人(41.1%),1点の者は10人(9.3%),現金被害のみの者は9人(8.4%)であった。
前科のない侵入窃盗事犯者ごとの調査対象事件における検挙後の被害回復の状況について見ると,被害金品の全部が還付された者は22人(20.6%)であり,一部還付の者を含めても,還付済みの者は83人(77.6%)である。被害金品の全部が還付された者の割合について,前科のない万引き事犯者では91.3%であるのと比べると(本章第4節1項(4)アP293参照),その割合は70.8ptも低い。また,金銭賠償による積極的弁償措置を行った者は,50人(46.7%)であった。
以上の結果から,前科のない侵入窃盗事犯者の場合,被害が多額に及ぶことが多く,また,被害金品が全部還付されることが少ない傾向がうかがえる。
前科のない侵入窃盗事犯者(ここでは,男子に限って見ることとする。)について,犯行に至った動機・背景事情として該当する比率の高い項目を,年齢層別に示したのが6-4-5-1-7図である。年齢層に関係なく,動機としては「生活困窮」が,背景事情としては「ギャンブル耽溺」が,それぞれ上位に位置している。若年者では,他の年齢層とは異なり,動機として「友人・知人の誘い」の比率が,背景事情として「不良交友」の比率が,高いのが特徴である。
6-4-5-1-8図は,調査対象事件の共犯者の有無及び関係を見たものである。共犯者がいる者は42人(38.2%)であり,このうち,調査対象者の他に3人以上で犯行に及んでいる者が11人いる。前科のない万引き事犯者では,共犯者のいない者が大多数を占めていたこと(本章第4節1項(4)ウP296参照)と比べると,侵入窃盗事犯者の場合は,複数人で犯行に及んでいる場合が顕著に多い。
なお,外国籍の者21人のうち,共犯者がいる者は19人(90.5%)であり,日本国籍の者89人のうち,共犯者がいる者は23人(25.8%)であるのと比べると,その割合が顕著に高い。
6-4-5-1-9図は,調査対象事件についての科刑状況を見たものである。刑の種類別では,懲役に処せられた者が108人(98.2%)を占めた。
なお,懲役に処せられた者のうち,調査対象事件の裁判時に,監督者(証人出廷又は供述調書を含む書面の提出により,裁判後の調査対象者に対する監督を誓約した者をいう。以下この節において同じ。)がいた者は,76人(70.4%)であった。