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平成26年版 犯罪白書 第6編/第4章/第4節/1

1 前科のない万引き事犯者の属性及び調査対象事件の内容
(1)概要

前科のない万引き事犯者の総数は546人であり,男女別では,男子が317人(58.1%),女子が229人(41.9%)であった。国籍等別では,日本が506人(92.7%)と圧倒的に多く,次いで,中国14人(2.6%),ベトナム12人(2.2%),韓国・朝鮮9人(1.6%)の順であった。

調査対象事件における窃盗の事件数は延べ660件であり,前科のない万引き事犯者一人当たりの平均事件数は1.2件であった。

(2)前科のない万引き事犯者の属性
ア 年齢層

6-4-4-1-1図は,前科のない万引き事犯者の犯行時の年齢層別構成比を総数と男女別に見たものである。男子は,若年者の割合が最も高い。前科のある者も含めると,男子の万引き事犯者の総数では50〜64歳の割合が最も高いところ,前科のない者に限ると,若年者の割合が最も高い。これに対し,女子は,50〜64歳の者の割合が最も高く,50歳以上の者で5割以上を占めている。平均年齢は,男子が44.8歳,女子が51.7歳であり,女子の方が高い。なお,最年少は,男子19歳,女子20歳で,最高齢は,男子83歳,女子87歳であった。

6-4-4-1-1図 前科のない万引き事犯者 年齢層別構成比(総数・男女別)
6-4-4-1-1図 前科のない万引き事犯者 年齢層別構成比(総数・男女別)
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イ 居住状況

6-4-4-1-2図は,犯行時の居住状況に関して,住居及び同居人の有無を男女別に見たものである。男子の方が,住居不定の割合が高く,単身者で,かつ交流のある近親者がいない者の割合が高い。

6-4-4-1-2図 前科のない万引き事犯者 居住状況別構成比(男女別)
6-4-4-1-2図 前科のない万引き事犯者 居住状況別構成比(男女別)
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ウ 婚姻歴

6-4-4-1-3図は,婚姻歴及び犯行時の婚姻状況を男女別に見たものである。婚姻歴がない者の割合は男子の方が顕著に高い。

6-4-4-1-3図 前科のない万引き事犯者 婚姻状況別構成比(男女別)
6-4-4-1-3図 前科のない万引き事犯者 婚姻状況別構成比(男女別)
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エ 就労状況

6-4-4-1-4図は,犯行時の就労状況を男女別に見たものである。女子では,主婦・家事従事が約4割を占めており,また,無職者は,男子では6割以上に上る。

6-4-4-1-4図 前科のない万引き事犯者 就労状況別構成比(男女別)
6-4-4-1-4図 前科のない万引き事犯者 就労状況別構成比(男女別)
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このうち,無職者について,その理由を男女別に見たのが6-4-4-1-5図である。「就職難」及び「勤労意欲なし」では男子の割合が,「精神疾患」,「家族の介護等」及び「就労の必要なし」(年金生活者等就労の必要性が低い場合をいう。)では女子の割合が,それぞれ高い。

6-4-4-1-5図 前科のない万引き事犯者 無職者の無職理由別構成比(男女別)
6-4-4-1-5図 前科のない万引き事犯者 無職者の無職理由別構成比(男女別)
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有職者(不安定就労を含む。)について,犯行時までの勤続期間を男女別に見ると(期間が不明の者を除く。),1年未満の者は,男子27.4%(26人),女子36.8%(14人)であり,一方,3年以上の者は,男子53.7%(51人),女子39.5%(15人)であった。

オ 経済状況
(ア)安定収入,資産・負債の有無

前科のない万引き事犯者の犯行時における収入(学生・生徒や主婦等の場合には,家族からの仕送り又は配偶者の収入を含む。)について見ると(収入の有無が不明な者(51人)を除く。),安定収入がない者の割合は,男子38.9%,女子9.4%であった。一方,収入額(1か月間の手取額)が20万円を超える者の割合は,男子14.0%,女子24.8%であった。

犯行時における資産状況について見ると(資産の有無が不明な者(29人)を除く。),資産がある者の割合は,女子(64.8%)の方が男子(42.7%)よりも顕著に高い。資産のうちの預貯金の有無及び額を見ると(預貯金額が不明な者(68人)を除く。),預貯金がない者の割合は,男子75.7%,女子52.7%であり,一方,100万円以上の者の割合は,男子11.3%,女子24.2%であった。

安定収入も資産もない者の割合(いずれかが不明な者(71人)を除く。)は,男子29.3%,女子5.3%であった。

犯行時における負債状況について見ると(負債の有無が不明な者(89人)を除く。),借金・債務がある者の割合は,男子(36.5%)の方が女子(24.7%)よりも高く,その負債額(額が不明な者(113人)を除く。)が100万円以上の者は,男子17.9%,女子10.0%である。また,その借入先として,消費者金融,カードローン,友人・知人に該当する者の割合は,男子の方が女子よりも高い。

これらの結果から,総じて,前科のない万引き事犯者の男子の場合は,安定収入も資産もないなど経済状況が不良な者が一定数いる一方,女子の場合は,経済状況に問題のある者は少ないという傾向がうかがえる。

(イ)検挙時の所持金の額

6-4-4-1-6図は,検挙時の所持金の額を男女別に見たものである。男子と女子で比較すると,「なし」及び1,000円未満といった低額層では男子の割合が,5,000円以上といった比較的高額層では女子の割合が,それぞれ高い。

被害状況(6-4-4-1-10図P293参照)と併せて見ると,男子の場合には,所持金が少なかったことが万引きを起こした要因と考えられる者が女子と比べて顕著に多い。

6-4-4-1-6図 前科のない万引き事犯者 検挙時の所持金の額別構成比(男女別)
6-4-4-1-6図 前科のない万引き事犯者 検挙時の所持金の額別構成比(男女別)
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カ 心身の状況
(ア)検挙時の疾患の有無

6-4-4-1-7図は,検挙時の疾患の有無を男女別に見たものである。検挙時に身体又は精神に疾患が認められた者の割合は,男子13.2%,女子23.6%と,女子の方が高く,特に,精神疾患が認められた者は女子の方が相当高い。

6-4-4-1-7図 前科のない万引き事犯者 検挙時の疾患の有無別構成比(男女別)
6-4-4-1-7図 前科のない万引き事犯者 検挙時の疾患の有無別構成比(男女別)
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(イ)精神疾患歴の有無

6-4-4-1-8図は,精神疾患の既往歴を男女別に見たものである。既往歴がある者の割合は,男子と比べて女子の方が高い。既往歴がある者(77人)の診断名を見ると(重複計上による。),鬱病等の気分障害(男子14人,女子26人),摂食障害(男子1人,女子11人),アルコール依存症(男子7人)などであった。

6-4-4-1-8図 前科のない万引き事犯者 精神疾患の既往歴別構成比(男女別)
6-4-4-1-8図 前科のない万引き事犯者 精神疾患の既往歴別構成比(男女別)
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(3)前歴

6-4-4-1-9図は,前歴の有無を男女別に見たものである。男女共に,窃盗前歴のある者が大半を占めている。男子と女子で比較すると,窃盗前歴のある者は女子の割合が,前歴のない者は男子の割合が,それぞれ高い。前歴のある者(男子270人,女子212人)について,初めて検挙された年齢を見ると,20歳未満の少年時に検挙された前歴のある者は,男子60人(前歴のある者の22.2%),女子19人(同9.0%)であり,一方,65歳以上になって初めて検挙された前歴のある者は,男子20人(同7.4%),女子26人(同12.3%)であった。初回検挙時の平均年齢は,男子が37.2歳,女子が43.7歳で,女子の方が高い。

6-4-4-1-9図 前科のない万引き事犯者 前歴の有無別構成比(男女別)
6-4-4-1-9図 前科のない万引き事犯者 前歴の有無別構成比(男女別)
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次に,窃盗前歴のある者(男子254人,女子209人)について,窃盗前歴の手口別内訳(重複計上による。)を見ると,万引きが最も多く,男子は228人,女子は204人に上った。窃盗前歴の回数を見ると,男子は1回の者が,女子は2回の者が,それぞれ最も多く(100人,82人),最多回数は男子15回,女子10回で,平均回数は男子2.1回,女子2.3回であった。窃盗前歴に微罪処分歴が含まれる者(微罪処分歴が不明の者を除く。)は,男子は179人,女子は181人であった。

(4)調査対象事件の内容
ア 被害状況

調査対象事件のうち,窃盗が未遂のみの者は2人であり,その余の544人は既遂のある者であった。

6-4-4-1-10図は,主たる犯行(既遂に限る。)の被害額を男女別に見たものである。男女共に,1万円未満の者が大半を占めている。男子と女子を比較すると,男子の方が,被害額が高額な者の割合が高い。

6-4-4-1-10図 前科のない万引き事犯者 被害額別構成比(男女別)
6-4-4-1-10図 前科のない万引き事犯者 被害額別構成比(男女別)
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主たる犯行(既遂に限る。)の被害物品の点数は,10点以下が73.2%を占めており,5点以下は49.3%,1点のみは14.2%であった。また,平均点数は10.1点であり,これを男子と女子で比較すると,男子7.2点,女子14.2点で,女子の方が多かった。

前科のない万引き事犯者ごとの調査対象事件における検挙後の被害回復の状況について見ると(被害回復状況が不明の者(3人)を除く。),前科のない万引き事犯者のうち,被害金品の全部が還付された者は91.3%であり,一部還付の者も含めると,95.9%が還付済みの者で占めた。また,金銭賠償による積極的弁償措置を行った者(弁償措置の状況が不明の者(6人)を除く。)は,前科のない万引き事犯者の40.7%を占めていた。万引きは,他の手口と比べて,犯行直後に検挙されることが多く,被害金額も少額にとどまっている場合が多いことも影響しているものと推察される。

被害物品の品名で見ると,電気製品を含むものでは男子の割合が,酒類・食料品を含むものでは女子の割合が,それぞれ高かった。

イ 動機・背景事情

調査対象事件に至った動機・背景事情として該当する比率の高い項目を,男女別と年齢層別に示したのが6-4-4-1-11図である。

動機については,男女共に各年齢層を通じて,「自己使用・費消目的」,「節約」,「生活困窮」及び「軽く考えていた」の比率が高く,若年者においては「換金目的」の比率も高い。男子と女子の比較で見ると,男子では,年齢層に関係なく「自己使用・費消目的」が最も高く,女子では若年者を除いて「節約」が最も高い。また,男子では若年者を除いて「空腹」が,女子では高齢者を除いて「盗み癖」や50歳以上の者に「ストレス発散」が,それぞれ該当しているのが特徴である。

背景事情については,若年者においては「不良交友」の比率が高い。男子と女子に分けて見ると,男子では,経済的要因(住居不安定,収入減,就職難,辞職・退学),個人の性格的要因(無為徒食・怠け癖),家庭的要因(家族と疎遠・身寄りなし,近親者の病気・死去)の比率が高い。女子では,経済的要因(収入減),家庭的要因(家族と疎遠・身寄りなし,近親者の病気・死去,親子兄弟等とのトラブル,配偶者等とのトラブル)の比率が高いことに加えて,身体的要因である「体調不良」が全ての年齢層で該当し,また,30〜39歳の者では15.6%の者が「摂食障害」に該当しているのが特徴である。

6-4-4-1-11図 前科のない万引き事犯者 動機・背景事情(男女別,年齢層別)
6-4-4-1-11図 前科のない万引き事犯者 動機・背景事情(男女別,年齢層別)
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ウ 共犯者の有無等

調査対象事件における共犯者の有無を見ると,共犯者のいない者が,男子93.1%,女子95.2%と圧倒的に多く,男子と女子の間には,差は認められない。

なお,犯行時に自己の子等の同行者(共犯者を除く。)がいたにもかかわらず,万引きをした者の割合は7.1%(39人)であり,女子(8.7%)の方が男子(6.0%)よりも高かった。

エ 被害店舗との関係

6-4-4-1-12図は,主たる犯行における被害店舗との関係を男女別で見たものである。平素から利用している店舗において万引きに及んだ者の割合が最も高く,とりわけ女子(67.2%)の方が男子(50.4%)よりも高かった。これに対し,初めて来店した店舗で万引きに及んだ者の割合は,男子の方が女子よりも高かった。

過去に同一店舗における万引き経験のある者は,同一店舗での検挙経験のある者を含めると,前科のない万引き事犯者総数(被害店舗との関係が不明の者を除く。)の31.4%(149人)を占めており,その割合は男子(33.9%)の方が女子(27.9%)よりも高かった。また,過去に同一店舗における万引きで検挙された経験のある者の割合は,女子の方が男子よりも高かった。

6-4-4-1-12図 前科のない万引き事犯者 被害店舗との関係別構成比(男女別)
6-4-4-1-12図 前科のない万引き事犯者 被害店舗との関係別構成比(男女別)
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(5)調査対象事件についての科刑状況

6-4-4-1-13図は,調査対象事件についての科刑状況を男女別で見たものである。前科のない万引き事犯者の大半は罰金処分者であるが,懲役に処せられた者も15.9%(87人)を占め,うち1人は懲役の実刑に処せられている(CD-ROM参照)。男子では,懲役が約4分の1であり,女子では,罰金が大半を占める。

6-4-4-1-13図 前科のない万引き事犯者 科刑状況別構成比(男女別)
6-4-4-1-13図 前科のない万引き事犯者 科刑状況別構成比(男女別)
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