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平成25年版 犯罪白書 第7編/第5章/第2節/2

2 国際的・越境的側面のある犯罪対策における課題と展望
(1)捜査機関等の能力の向上・体制の充実

グローバル化における犯罪対策において我が国がぜい弱でないことを示すには,着実に,犯罪者を摘発・処罰するとともに,犯罪収益を剥奪することが肝要である。他方,国際的・越境的な犯罪の一角を占める薬物密輸入事犯は,外国人受刑者だけを見ても大きな部分を占めるが,大半に組織犯罪性がうかがわれるなど,共謀や犯意等に関する証拠収集は容易ではない。また,マネー・ローンダリング,サイバー犯罪,証券・金融犯罪等の捜査・訴追等に専門的知識や技術が求められる犯罪についても,グローバル化,ボーダーレス化に伴って事案も複雑化するなど,その必要とされる専門性が更に高まるものと考えられる。さらに,特別調査によると,国際的・越境的側面を有する犯罪のごく一部を見るものにすぎないとはいえ,外国人受刑者の財産犯は,立件されたものだけでも被害額は100万円以上の高額のものが約5割を占め(7-3-1-2-11図参照),そのほとんどを占める窃盗・強盗事犯者の財産的被害については,回復未了の者が約6割に上る(7-3-1-3-12図参照)など,犯罪被害の回復が不十分なまま刑事手続が終了している場合が多く,海外送金等があった場合は特にその傾向が顕著に見られた。これら事案では犯罪収益の剥奪等に課題があり,その改善・強化の余地があることがうかがわれた。以上に照らせば,グローバル化における犯罪に適切に対処するには,海外における証拠を収集する場合の国際協力が必要となろうが,それだけではなく,時に,国際的・越境的要素がない事件において以上に,通信傍受やコントロールド・デリバリー等の客観的証拠を効果的に収集する捜査手法,犯罪収益の特定・追跡・押収・剥奪に向けた手法,サイバー・ハイテク関連分野,財政・経済・金融分野等の専門知識等を適切に駆使することが必要となる。捜査機関等においては,そのための人材育成やこれら専門的知識・技術を有する関係機関等との連携の緊密化を含む体制の充実・強化を図るべきである。

(2)捜査・訴追等における国際協力の推進

国際的・越境的な犯罪を的確に捜査,訴追等するに当たっては,捜査共助,逃亡犯罪人引渡し,各国関係機関間の情報交換等の様々な形の国際協力は非常に重要な役割を持つ。これら国際協力については,まず,ICPOへの加盟や刑事共助等の条約・協定の締結等といった制度的な枠組みの整備が年々進んでおり(本編第4章第2節参照),刑事共助条約締約国間の共助件数(7-4-2-6表参照)といった例に見られるように,それが円滑な国際協力の実施に貢献すると考えられ,今後も必要な枠組みの整備に努めることが望まれる。

他方,制度的な枠組みは,それを適切に活用する人材がなければ実質的に意味をなさない。すなわち,捜査・訴追を行う捜査機関が,国際協力というツールをより一層積極的に活用することが求められる。そのためには,捜査共助等の国際協力への理解と経験を深めることが重要であり,例えば,相手国や求める協力内容による留意点等の情報を蓄積し,研修やマニュアル等を通じて共有することによって組織的経験値を向上させるとともに,他国制度及び国際協力の枠組み・運用等についての知識・経験を有する人材を育成し,いわばグローバル化に対応できる人材の裾野を広げることが一つの有効な方策となろう。

また,他国の関係部局との緊密な関係構築も円滑な国際協力の実施にとって重要な基盤になると考えられる。

さらに,ICPOにおける警察組織間の情報交換に加え,FIUや証券規制当局といった専門機関間の国際的な情報交換は相当活発化しており(7-4-2-1図7-4-2-7表参照),それ自体が関連犯罪の捜査・訴追等において大きな役割を果たし得るのはもちろん,捜査共助等の国際協力を先導ないし補完し,その円滑化のための重要な役割を果たし得るものとして更なる運用促進が期待される。

(3)国際的・越境的要素に着目した実態把握

本編では,前記のように,グローバル化に伴う犯罪の実態をある程度うかがうことはできたものの,その全体像に迫る実態を把握することまではできていない。現状においておおむねこうした犯罪に適切に対処できているとしても,今後これを刑事司法のコントロール下にとどめ続けるためには,いかなる点でどの程度の体制の整備が不足しているか,国際協力における課題が何かなどといった実態をより正確に測定することが必要となると考えられ,今後統計その他の犯罪情勢等の情報収集においては,国際的・越境的要素にも着目することが有益であると考えられる。

(4)国際的な枠組みへの積極参加及び国内外への適切な情報発信

グローバル化に伴う犯罪の国際化・越境化への対応は一国のみでは困難であり,これに対処するために二国間・多国間条約等の枠組みが設定されてきた。我が国も国際社会の一員として,こうした枠組みに積極的に参画し,推進することが求められ,これは我が国のグローバル化における犯罪対策が十分であることを国内外にアピールすることにもつながる。この点,我が国は,国際的な犯罪対策やその枠組みに積極的に参画してきただけでなく,刑事司法の体制が比較的ぜい弱な開発途上国に対する研修支援や法制度整備支援等を通じて国際社会全体の底上げに一定程度貢献しているといえる(本編第4章第2節参照)。こうした対応について,我が国がグローバル化における犯罪情勢に適切に対処できている実態と合わせて積極的に国内外に情報発信することは,グローバル化を悪用する犯罪者につけいる隙がないことを示すことになるとともに,我が国に対する国際社会の理解と共感を深め,グローバル化によって期待される経済成長等の利益を国民が安心して享受することにもつながるであろう。