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平成25年版 犯罪白書 第7編/第4章/第3節/2

2 施設内処遇における配慮

外国人受刑者のうち,日本人と異なる処遇を必要とする者は,F指標受刑者として,その文化及び生活習慣等に配慮した処遇を行っている。F指標受刑者には,日本語を十分に理解できない者も少なくないが,処遇を受けるに当たって必要な事項や権利等を理解し,コミュニケーションが図れるようにするため,様々な方策が執られている。

F指標受刑者を収容する施設は,全国に24施設(男子施設21施設,女子施設3施設)あるが,そのうち,福島,府中,横浜及び大阪刑務所では,外国人被収容者の処遇に関する翻訳・通訳や,その処遇に関する調査と関係機関との連絡調整に関する事務を所掌する国際対策室を設置しており,日本語を理解できない外国人受刑者の多くが使用する言語である中国語,ペルシャ語,スペイン語又はポルトガル語のいずれかに堪能な国際専門官を配置している。府中及び大阪刑務所の国際対策室では,他の矯正施設からの依頼に基づき,翻訳や通訳の共助を実施しており,平成24年度においては,通訳業務に係る共助73件,信書の翻訳業務に係る共助2万5,006件,信書以外の翻訳業務に係る共助1,556件,職員の応援派遣51件を実施している(法務省矯正局の資料による。)。また,外国人被収容者を収容する刑事施設においては,職員に対する外国語の研修の実施や外国語の能力を有する職員の配置の確保を行っている。さらに,各施設では,外国人被収容者が使用する主な言語に翻訳された「所内生活の心得」等を整備しており,入所時にこれを用いて説明をするほか,必要に応じてビデオテープ等の視聴覚機材を活用するなどして,所内生活において必要な事項等の告知・指導を行っている。そのほか,日本語が十分理解できない外国人受刑者に対しては,多くの施設で,必要に応じて日本語教育を実施している。

外国人受刑者の文化や生活習慣等の違いに応じた配慮として,居室については,生活習慣上の必要に応じて単独室の使用や,椅子・ベッドの使用等をさせ,食事についても,パン食への変更や宗教上の理由等による食事内容の変更をしている。そのほか,外国語書籍や外国語新聞等を購入したり,外国語のテレビやラジオ番組を視聴する機会を付与するなど,余暇時間の活用における配慮に努めている。

外国人被収容者については,出所後,引き続き我が国に在留するか退去強制となるかを見据えた処遇や配慮が必要である。我が国での在留が見込まれる場合には,日本社会に復帰することを前提とした矯正処遇を実施し,退去強制が見込まれる場合には,受刑に対する動機付け,母国の風俗習慣等を理解した上での働き掛け,母国との関係性の維持等に配慮する必要がある。


コラム 府中刑務所における外国人処遇

平成24年12月末日現在,府中刑務所では,55か国,443人(使用言語48言語)のF指標受刑者を収容している。同所の国際対策室は,室長以下15人の職員が配置されており,翻訳・通訳業務は,主として国際専門官(北京語,スペイン語,ペルシャ語及びポルトガル語担当),民間の通訳会社から派遣されている常駐通訳・翻訳人(16言語に対応)及び通訳・翻訳業務に関する外部協力者(登録は28言語,48人)で対応している。

F指標受刑者には,入所時のオリエンテーションの際にそれぞれの使用言語に翻訳された冊子が貸与され,また,国際専門官等による通訳を介して必要事項等を丁寧に説明している。食事については宗教上の理由により禁忌がある場合には代替食,菜食主義者にはベジタリアン食を給与し,イスラム教の断食やユダヤ教のヨム・キプール(贖罪の日)等の宗教上の行事に際しては,食事や入浴制限,就業場所の変更等の配慮をしている。また,日常生活に必要な基礎的な日本語を習得させるために,講義,テレビ,パソコン,プリントによる日本語教育を積極的に実施している。


宗教に配慮した献立の一例。左が一般の献立(常食),右が宗教・ベジタリアン食。米麦の主食がパンに,鶏肉入りの親子煮が卵とじに,それぞれ変更されている。
宗教に配慮した献立の一例。左が一般の献立(常食),右が宗教・ベジタリアン食。米麦の主食がパンに,鶏肉入りの親子煮が卵とじに,それぞれ変更されている。

少年院での処遇では,平成5年に,外国人少年院入院者に対し,日本人とは異なる処遇を必要とする者を対象とする生活訓練課程(G2)が2庁で開始され,12年に13庁まで拡大し,文化,生活習慣等の違いに配慮した処遇を行っている。また,外国人少年院入院者の多くは,出院後も日本に住み続ける者が多いことなどから(本編第3章第2節5項(5)参照),外国人少年院入院者に対しては,日本社会に復帰することを前提に,その処遇課程にかかわらず,必要に応じて日本語や日本で生活するために必要な基本的な生活習慣についての指導も行っている。


コラム 久里浜少年院「国際科」における日本語教育の充実

久里浜少年院では,生活訓練課程(G2)に判定された少年を「国際科」に編入して矯正教育を行っている。入院後,7日間の考査期間が終了すると,集団生活となる国際科生としての生活が始まる。院内の生活における基本的なルール等を定めた「生活の心得」は,日本語版のほか,ポルトガル語版及び英語版があり,不服申立てやその方法等についての説明書は,これらの言語のほか,タガログ語版,中国語版,韓国語版及びスペイン語版をそろえている。国際科生の処遇では,日本語教育を充実させており,例えば,日本語による日記指導を行ったり,日本語能力の向上に配意しつつ,ごみの捨て方,保護観察面接の受け方,不良交友の断り方等の日常生活上の常識から非行防止に関する諸パターンでの生活技能訓練(SST)を実施するなどしている。また,篤志面接委員による日本語学習指導にも取り組んでいる。